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EVよりバッテリーとソーラーが深刻-中国の過剰生産能力を分析

(ブルームバーグ): 米国と欧州連合(EU)は、中国が他国の産業を一掃しかねない過剰な生産能力の急増に見舞われているとの見方で一致している。そのダメージを食い止めようと保護主義的な措置に拍車がかかっている。

  イエレン米財務長官は今週の訪中に先立ち、ソーラーパネルや電気自動車(EV)、バッテリーを巡り「中国の過剰生産能力は世界的な価格と生産のパターンをゆがめ、米国の企業や労働者をはじめ、世界中の企業や労働者に打撃を与えている」と述べた。

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  EUの行政執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、中国のEV対する補助金調査を開始した理由として過剰生産能力を挙げた。

  中国指導部はEVやバッテリー、再生可能エネルギーなどの新たな産業に焦点を絞り、製造業に資金を投入。低価格の輸入品が自国市場にあふれ、雇用が一掃されることを懸念する貿易相手国は反発し、場合によっては中国製品に対する障壁を引き上げている。

  中国政府は過剰生産能力を抑制したいと表明している。データを分析することは、中国の問題を明確に捉える上で重要だ。

  ソーラーとバッテリーには過剰な生産能力が見られるが、EVはそうとも言えない。また、先進国が中国に過剰生産能力への対策を迫る際、どう指摘すれば折り合いがつく可能性が高まるのかを示す指針にもなる。

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  中国は世界最大のEV・ハイブリッド車市場だ。昨年の国内販売台数は36%急増し、今年は25%成長が見込まれている。生産台数に占める輸出の割合は、ドイツや日本、韓国といった他の自動車生産国に比べはるかに低い。

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China Exports a Small Share of its Car Production | Car exports as a share of domestic production, annual

  ブルームバーグの上場企業分析によれば、中国自動車メーカーの在庫はそれほど多いようには見えない。中国自動車流通協会が発表したディーラー在庫に関するデータも、異常な増加は示していない。

  中国には5000万台以上の自動車生産能力があると推定し、国内販売台数2200万台に対して稼働率が50%を下回っていると結論付けるアナリストもいる。

  ただ、UBSグループの中国自動車調査責任者ポール・ゴン氏は、そうした算出には老朽化し使われなくなった生産設備もしくは「単なるはったり」が含まれているとみている。

  「過剰生産能力の話は誇張され、単純化され過ぎている」というのが同氏の意見だ。

evよりバッテリーとソーラーが深刻-中国の過剰生産能力を分析

Chinese Automakers Inventories Similar to US | Sales to inventory ratio, by quarter

  JSCオートモーティブの推計によると、 中国のEV最大手、比亜迪(BYD)や米テスラの上海工場、上海汽車集団を含む中国最大級のEV輸出企業は、いずれも稼働率が80%を超えている。

  一方、吉利汽車は44%と低い稼働率にとどまっている。大手の輸出自動車メーカーである同社による昨年の販売は過半数が内燃機関(ICE)車だった。

  ICEセクター部門は生産能力過剰の「より大きな影響を受けている」とロジウム・グループのアナリスト、カミール・ブルノワ氏は指摘。EVの過剰生産能力は小規模で競争力のない企業に集中しており、これらの企業は生き残れないだろう同氏はみている。

evよりバッテリーとソーラーが深刻-中国の過剰生産能力を分析

Chinese EV Makers Capacity Use is Generally High | Overcapacity seen concentrated in ICE vehicles, smaller EV companies

  先進国にとって、本当に問題なのは中国国内でのサプライチェーンや新たな交通インフラ、低いエネルギー・土地コストのおかげで、中国の自動車メーカーの競争力が高まっていることだ。

  政府の補助金も一役買っているが、イノベーション(技術革新)にとっては二の次かもしれない。 中国はグリーン技術に関する査読付き論文数でEUと米国をリードしている。

  ブルノワ氏は、中国のEV輸出トップ企業は「価格だけでなく品質でも競争力がある」と述べた。

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  しかし、EVに使用されるバッテリーに関しては、生産容量が需要を上回っていることは明らかだ。

  長安汽車の朱華栄会長は昨年、中国のEV用電池メーカーの年間生産計画容量は来年までに4800ギガワット時に達するが、中国が必要とするのはせいぜい1200ギガワット時だと語った。

  価格は急落しており、電池の材料となる炭酸リチウムの価格は2022年のピーク時から80%下落。ソーラーパネルも同様で、昨年は価格が半分以下になった。

evよりバッテリーとソーラーが深刻-中国の過剰生産能力を分析

Solar Panel Price Plunge Pinches Producer Profits | Manufacturing overcapacity has driven down the cost of solar panels

  ブルームバーグNEF(BNEF)は、中国が計画しているEVや送電網に使用されるバッテリーの生産能力と、今世紀半ばまでの事実上の温室効果ガス排出ゼロ達成に必要な水準を比較。24-27年の生産能力は、必要とされる水準の約2倍であることが分かった。

  ソーラーについては、生産能力を「楽観的」な需要シナリオと比べたところ、24-27年の計画生産能力が需要の2倍を超えることが判明した。

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China Solar Capacity Exceeds Global Demand |

価格

  世界中の国々は、価格下落を通じて生産能力の過剰を感じている。中国の輸出価格は昨年、過去10年近くで最も速いペースで下がったが、これは衣料品や玩具のような「ローテク」製品がけん引したものだ。

  中国の自動車輸出は昨年急増し、日本を抜き世界一の自動車輸出国となった。中国の主要EVは、欧州では中国国内と比べ平均して約2倍の価格で取引されている。中国勢はコストを度外視した価格水準で外国市場にEVを投入しているわけではない。

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China’s Export Price Drop Led By Low-Tech Goods | Low-Tech Goods Have Driven China Export Price Decline

稼働率

  過剰生産能力を測る最も一般的な手法は稼働率だ。ゼロは工場が遊休状態にあることを意味し、100%は最大稼働を意味する。

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China’s Industrial Capacity Use Has Been Fairly Stable | Capacity utilization rate, quarterly

  中国の産業全般で稼働率は22年および23年を通じ76%を下回った。中国政府が全国的な生産能力削減キャンペーンを開始した16年以降、最も長期にわたる76%割れだ。

  だが、自動車製造や化学製品、それに風力タービンなどの機器といったセクターでは、稼働率が80%に向かって上昇している。

原題:China’s Overcapacity Is More About Solar and Batteries Than EVs (抜粋)

–取材協力:Dan Murtaugh.

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