最新型のオラクル・レッドブル・レーシングのF1マシン(写真:筆者撮影)
- 4月5日から鈴鹿サーキットにて、フォーミュラ1世界選手権(F1)の2024年シリーズ第4戦「日本グランプリ」が開幕、7日に決勝が実施される。
- 興行主であるリバティメディアは1日、二輪車の最高峰レース「MOTO GP」の興行権も買収するなど、モーターレース界は再編の波が吹き荒れている。
- レースの観戦が主にテレビからスマートフォンでの動画配信に移行する中、今後、どのようなビジネスが展開されるのだろうか。(JBpress)
(桃田健史:自動車ジャーナリスト)
フォーミュラ1世界選手権(以下、F1) の2024年シリーズ第4戦「日本グランプリ」(決勝4月7日)が5日、開幕する。それに先がけ、東京・六本木でF1関連イベント「Honda Japanese GP welcome session 2024」(4月2〜3日)が開催された。平日にもかかわらず2日間で合計約2万5000人が訪れた。
これは、ホンダとホンダモビリティランド・鈴鹿サーキットが昨年に続いて開催した、F1ファン向けのイベントで入場は無料だ。
登壇した現役F1ドライバー。右から2人目が角田裕毅選手(写真:ホンダ提供)
F1チーム代表やマックス・フェルスタッペン選手、角田裕毅選手などの現役F1レーシングドライバーや、F1アンバサダーでF1レジェンドドライバーのジャン・アレジ氏、そして日本国内レースで活躍するトップドライバーがファンとの交流を深めた。
4月3日の午前中には、フォーミュラワン・グループのプレジデント兼CEO(最高経営責任者)のステファノ・ドメニカリ氏が登壇し「我々はファンの皆さんがF1を楽しんで頂くことを最優先に考えており、こうした場を含めて各方面とこれからも様々な企画を考えていきたい」と話すと会場から大きな拍手が起こった。
ファンに向けたメッセージを送る、F1CEOのステファノ・ドメニカリ氏(写真:筆者撮影)
さらに「昔からのF1の熱狂的なファンとの交流も深めると同時に、若い世代の新しいファン向けの企画を充実させていく」として、新たなるビジネスの可能性についても示唆した。
1950年代から始まったF1の歴史を一気に振り返る
F1は近年、単なるレース興行だけではなく、ネット動画配信サービスであるDAZN(ダゾーン)でのコンテンツ配信事業やレース開催に関連する様々な事業によって規模が拡大しており、スポーツビジネスとして新たなるステージに入った印象がある。
今回の「Honda Japanese GP welcome session 2024」には60年代から2010年代に活躍した様々なF1マシンが展示されており、それらを見ながらF1ビジネスの変化を回想してみたい。
1960年代のホンダF1。写真手前(写真:筆者撮影)
この時代、日本は高度経済成長期だったが、グローバルでも自動車産業は大きな成長過程にあり、モータースポーツ(当時日本での呼び方はカーレース)は若い世代を中心に、「未来を感じる、憧れの世界」という存在だった。レースのカテゴリーとしては、自動車メーカーは販売促進効果を狙い、量産車をチューニングしたスポーツカーを相次いで投入した時代でもある。
その延長上として、レース専用の大排気量マシンとした、ルマン24時間やアメリカのCAN-AM(カンナム)シリーズに出場するスポーツプロトタイプが人気を博した。
一方、F1などのフォーミュラカーレースは、軽量なレース専用設計であることでコーナーリングスピードは速いが、スポーツカーレースとは別領域の異質な存在という位置付けにとどまっていた印象がある。
また、F1に限らず、この時代のモータースポーツは、自動車メーカーの研究開発、ブランドの宣伝活動、そしてエンジニアなどの人材教育の場として、「走る実験室」や「走る広告塔」と呼ばれ、自動車メーカーの企業活動の一部でもあった。
そうした企業としての資金が豊富な自動車メーカー以外、参戦者の多くは裕福な家庭のクルマ好きの若者や事業経営者など、金持ちの道楽という時代でもあった。
タバコの広告がレースを支える時代に
70年代に入ると、排気ガス規制やオイルショックなどの影響で、自動車メーカーが本社事業として参画するモータースポーツから相次いで撤退する。
残ったプライベーター(個人参加者)の中で、レーシングチームを編成しF1などフォーミュラカーレースに参加するトレンドが生まれる。
そうした中で、「走る広告塔」として自動車産業とは直接関係のない企業や商品のロゴをレーシングマシンやレーシングスーツに貼って走行し、広告収入によってチーム運営費を賄うというビジネスモデルが広がっていく。
1992年のマクラーレン・ホンダ(写真:筆者撮影)
先がけとなったのは、マクラーレンF1のマールボロや、ロータスF1のJPSなどタバコブランドだ。それらを使ったアパレルなどが70年代に2回、富士スピードウェイでF1が開催された日本でも人気となった。筆者は、1978年の富士F1を現地で観戦している。
80年代になると、中東のオイルマネーなどがF1に投入されるなど、F1にからむ資金が高額化し、そして複雑になっていく。F1をよく知る関係者からは、欧州企業によるマネーロンダリングの疑惑があったとの指摘もある。
こうした中、F1チームの体制も強化され、それまでの町工場やカーショップといったレベルから、施設も人材も企業としてのレベルに格上げされていく。
テレビからスマートフォンでの観戦へ
日本では当時のフジサンケイグループがレース開催、テレビ放送、マーチャンダイジングなどを手掛けるスポーツ事業としてF1を捉え、メディアミックスという概念を日本で初めてモータースポーツの世界に広めた。
80年代末から90年代にかけては、いわゆるバブル期でもあり、マクラーレンホンダのアイルトン・セナ、アラン・プロスト、ウイリアムズ・ホンダのナイジェル・マンセル、そしてロータス・ホンダの中嶋悟などが活躍した時代が日本でのF1黄金期だったことを思い出す人も少なくないだろう。
その後、2000年代から2010年代にかけて、日本でも趣味の多様化が進む中、F1の地上波放送がなくなり、生放送はCS放送で有料化されてしまい、一般視聴者からはF1は少し遠い存在になっていく。
さらに、メディアの中心がテレビなどの放送事業から、スマートフォンなど向けの通信事業へとシフトする中、F1については英国発のDAZNでの配信が決定した。
また、米メディア関連企業のリバティメディアが2016年にフォーミュラワン・グループを買収しF1興行権を獲得し、新しい事業化を推進するようになる。
そのフォーミュラワン・グループのCEOが、前述のドメニカリ氏だ。彼は、スクーデリア・フェラーリF1チームの代表を務め、その後にフォルクスワーゲングループのアウディに転じてからランボルギーニのCEOに就任し、2021年から現職を務める。
F1ビジネスをチーム運営統括者として理解し、またハイエンドな量産車のビジネス領域での経験を持ち、F1の次世代化に向けて様々な仕掛けを講じている。
今年3月にカタールで開催されたMOTO GP(写真:REX/アフロ)
その他、リバディメディアは4月1日、二輪車最高峰の「MOTO GP」世界選手権や、「スーパーバイク」世界選手権、EVバイクの「MOTO E」の開催権を持つスペインのドンナスポーツを買収したと発表した。
このように、F1の歴史を振り返った上で、現在巻き起こっているモータースポーツビジネスの再編を見てみると、F1にこれからどのような未来が待ち受けているのか、自動車業界に関係する者としてとても興味深い。
桃田 健史(ももた・けんじ)
日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。
◎Wikipedia
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