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クルマの「スマホ化」が顕著に…「日産・ホンダ連合」誕生が意味する「勢力地図の変化」

「互いに知見を持ち寄り、新たな価値を生み出していきたい」—国内2位と3位の自動車メーカーが同盟を結び、海外勢に出遅れたEV開発で巻き返しを図ると決断した。それは何を意味するのか?

「非トヨタ連合」の結成

自動車産業界に衝撃が走った—。これまでライバルとして競い合ってきた日産自動車とホンダ(本田技研工業)が提携検討を発表したからだ。

現在、日本の主な乗用車メーカー8社の勢力図を見ると、最大・最強のトヨタ自動車が出資する4社(スバル、スズキ、マツダ、ダイハツ工業)と、日産と同社が34%出資する三菱自動車に加えて、単独のホンダという3グループに分かれている。

日産とホンダが手を組むということは、「トヨタ連合」と「非トヨタ連合」の2軸に集約される可能性があることを意味する。

クルマの「スマホ化」が顕著に…「日産・ホンダ連合」誕生が意味する「勢力地図の変化」

Photo by gettyimages

日産の内田誠社長とホンダの三部敏宏社長が3月15日、都内で記者会見し、電気自動車(EV)や自動運転などクルマの電動化と知能化に関して協業を検討するために、これからワーキングチームを作って詳細を詰めていく考えを表明した。

日産は創業者の鮎川義介氏が同じ「長州(現・山口県)」出身の岸信介元首相と近く、戦前は一緒に旧満州国に進出。’18年に発覚した元会長、カルロス・ゴーン氏の特別背任事件の際にも、経済産業省や検察と密に連携したことなどから、国家と近い官僚的な会社とのイメージがある。

これに対し、ホンダは創業者の本田宗一郎氏がベンチャー精神を重視し、四輪事業参入に対する国の反対を押し切ったことや、自動車レースの最高峰である「F1」に挑戦したことなどから、自由闊達な会社とのイメージがある。

このように一見、社風が違う会社がなぜ、協業に向けて話し合う展開となったのか。

その背景には100年に一度の大変革期を迎えていると言われる、自動車産業界の熾烈な生き残り競争がある。

世界で起こっている「異変」

「戦う相手は伝統的な自動車メーカーだけではない。経営のスピードが速い新興企業とも伍していくためにはこれまでの常識、手法が通じなくなっている」

15日の会見で内田氏はこう切り出した。「5年先を見据えて待ったなし」とも言う一方、三部氏は「グローバル競争の中でトップランナーとして生き残れるか。2030年頃を見据えると、今の判断が重要になる」と語った。

クルマの「スマホ化」が顕著に…「日産・ホンダ連合」誕生が意味する「勢力地図の変化」

両氏の発言は、日産、ホンダが置かれている現況や、日本の基幹産業である自動車に迫る危機の本質を如実に示している。

’23年の世界新車販売ランキングで「異変」が起こった。EVで躍進する中国のBYDが302万台を売って10位に浮上したのだ。中国メーカーがトップテン入りしたのは初めて。11位にはボルボなどを買収した吉利汽車が続く。中国勢2社が12位の独BMW、13位の独ベンツを追い抜いた。

BYDのすぐ上には9位のスズキ(307万台)、8位の日産(337万台)、7位のホンダ(398万台)と日本勢がいる。今の勢いから見ると、BYDがこの日本勢3社を追い抜くのは時間の問題だろう。

中国勢は輸出攻勢で世界市場を獲得しようとしている。’23年、中国からの自動車輸出は前年比57・9%増の約491万台となり、日本を追い抜いて初の世界1位となった。欧州やロシア、メキシコ向けなどにEVの輸出が増えている。

BYDなどが虎視眈々と狙っているのが、日本車が9割近いシェアを持つとされる東南アジア市場だ。たとえばタイでは急激にBYDなどのEVの販売が伸び、’23年は前年比約8倍の7・6万台が売れた。日本勢がEVの市場投入で出遅れた隙を突かれた形になっている。

「規模の利益」が必要に

新興勢力はBYDだけではない。EVで先頭を走る米テスラも技術革新に貪欲だ。既存の自動車メーカーにない発想でクルマを造る。たとえば、テスラは軽量化を推進する「ギガキャスト」と呼ばれる、巨大な鋳造設備によりアルミ合金の車体を造るノウハウを導入しているが、日本勢は今のところ導入していない。

BYDやテスラと取引があり、デジタル解析を使ったエンジニアリングを得意とする米ケアソフト社のマシュー・バーチャパランピルCEOは「BYDやテスラは、fail fast and learnが得意」と語る。これは、早く行動して失敗などの経験から学び、事業を軌道修正するのが巧み、という意味だ。市場動向などが非連続に変化し、何が正解か分からない時代に求められる経営姿勢とも言えるだろう。

日産やホンダが新興勢力の動きを見て、自らの生き残りに危機感を感じているのは、まさにこうした点にあるのだ。

日産とホンダの協業交渉ではまず、このEVに関してソフトウエアや部品の共通化、相互補完について話し合われると見られる。

クルマの「スマホ化」が顕著に…「日産・ホンダ連合」誕生が意味する「勢力地図の変化」

米国やドイツなどでEVの販売が鈍化したことに対し、ハイブリッド車(HEV)が伸びている直近の現象から「EVの時代は来ない」といった論調も出始めている。

さらに米政府が3月20日に発表した’27年から’32年にかけて適用される自動車の新環境規制でも、素案を緩和して二酸化炭素排出削減のペースを緩くしたことや、’32年時点での新車販売に占めるEV比率の見通しを最大67%から同56%に下げたことも「EV後退論」に拍車をかけている。

EVは今まさに「キャズム」に陥っていると言えるだろう。「キャズム」とは導入期に一定の存在感を示した製品が普及期で壁にぶち当たることだ。

ただ、充電設備の普及や技術革新による航続距離延長などによって利便性、商品性が強化されることで、EVは再び巻き返し、新車販売に占める割合が2桁を超える国・地域は増えると、筆者は日頃の取材を通じて感じている。

そのEVは今、消費者から見えにくい部分で技術革新が急激に進み、それに対応するためには莫大な開発投資が必要になっている。

EVシフトは「脱炭素」を起点に誕生した一方で、今ではクルマの「スマート化」の推進に向けて欠かせないという見方が増えた。EVは別名「ソフトウエア・デファインド・ビークル=SDV(ソフトウエアで定義されるクルマ)」と言われ、パソコンのようにあらゆる機能を車載OS(基本ソフト)が統括する仕組みに変わっているのだ。

たとえば、画像認識、運転補助システム、回生ブレーキ、充電システムなど最新機能が一つのOS上で成り立ち、それを高性能な半導体で制御するようになった。

そのOSを無線技術などにより更新すれば、車体は古くなっても最新機能が使える仕組みだ。これは機能のアップデイトであり、まさに「スマホ化」と言えるだろう。

「これまではエンジン技術の良し悪しで市場競争できたが、電動化、知能化が進む局面では台数、規模が重要になる」と会見で三部氏が説明したのは、この「スマホ化」が背景にある。後発組が、そこにかかる莫大な投資を回収するには、協業による「規模の利益」が必要になるということだ。

後編記事『「日産・ホンダ連合」が次に協業を狙う「老舗メーカー」とは?』ヘ続く

「週刊現代」2024年4月6・13日合併号より

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