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AFEELAが「モビリティ体験」を変える、ソニー・ホンダのデザイナーが語る

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AFEELAが「モビリティ体験」を変える、ソニー・ホンダのデザイナーが語る

今年の1月、ソニー・ホンダモビリティが現在開発を進めるスマートEV「AFEELA(アフィーラ)」の最新プロトタイプをエレクトロニクスショー「CES 2024」で展示した。一歩ずつ完成に近づくAFEELAの進化を、ソニー・ホンダモビリティのデザイン&ブランド戦略チームを率いる石井大輔氏と河野拓氏に、プロダクトデザインとユーザー体験の視点から語ってもらった。

ソニーとホンダの共創環境を築く

2022年にソニー・ホンダモビリティが設立されてから、AFEELAのデザイン&ブランド戦略チームは両社間の働き方・考え方の違いを乗り越えて1つの共創環境を築いた。

石井氏と河野氏が率いるチームは、AFEELAのプロダクトデザインのほか、モビリティをとりまくサービスで作り出すさまざまなユーザー体験(UX)、さらには同社のアイデンティティを支えるブランド戦略を形にする役割を担う。同社が都内に構える本社オフィスは、デザイン&ブランド戦略部のデザイナーがコンセプトを担当した。AFEELAと同じミニマリズムのコンセプトを反映したエントランスは象徴的な場所であり、デザイナーが外部の設計事務所と協業し、その空間デザインを作り上げた。

AFEELAはその車体だけでなく、ドライバーとすべてのパッセンジャー(乗客)が車に乗る前から降車した後の「気持ちと体験」まで、すべてがデザインされたスマートEVだ。

ソニーとホンダ、2つの異なる企業文化を結び付けるために、デザイン&ブランド戦略チームが最初に取り組んだタスクはソニー・ホンダモビリティの「パーパス(存在意義)」を定めることだった。デザイナー自らがさまざまな社員にヒアリングをして、抽出されたキーワードを元にトップマネジメントと議論を繰り返した。その結果「多様な知で革新を追求し、人を動かす」というパーパスが生まれた。

AFEELAという名前はソニー・ホンダモビリティのコアテクノロジーを象徴している。そしてプロダクトの開発コンセプトも「Autonomy(進化する自律性)」「Augmentation(身体・時空間の拡張)」「Affinity(人との協調・社会との共生)」という「3つのA」により定義されている。「FEEL(感知する)」という言葉を「Autonomy」と「Augmentation」による「2つのA」がはさみ込み、そして「もう1つのA」である「Affinity」に親和性や信頼・親愛感という意味を込めて、感情的なつながりを表現している。

受け継がれる銘機のデザイン

AFEELAの新しいプロトタイプには「ソニーらしさ」と「ホンダらしさ」をともに反映している。注力した点は余計な要素を削ぎ落として、ユーザーの体験を最大化することなのだと石井氏が語る。

「日本のプロダクトデザインの黎明期を支えてきたソニーデザインとホンダデザイン。その中でもポータブルオーディオプレイヤー『ウォークマン』、ホンダの3代目『ワンダーシビック』などが良い手本になりました。また、人間のためのスペースを最大限広くするMM思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)という、ホンダが提唱してきた考え方にAFEELAのデザインは多くのことを倣っています」(石井氏)

ソニーには「aibo(アイボ)」、ホンダには「asimo(アシモ)」というロボットがある。それぞれのプロダクトデザインから培った知見もAFEELAに活かした。共通するエッセンスは「必要最低限で無駄のない線と、全体に柔らかくラウンドしたサーフェス(面)で構成されていること」だ。さらにAFEELAは足回りのシャーシプラットフォームにシャープな造形を組み合わせている。その理由を河野氏が説く。

「自動車のように大きなサイズのプロダクトは、デザインがシンプルになり過ぎると退屈に見えたり、重厚感がなく感じられる場合があります。AFEELAはロボティクスのデザイン的な要素を採り入れながら、シンプルで充実した造形を探求してきました」(河野氏)

2024年のプロトタイプでは、2023年に発表した最初のプロトタイプよりもさらにジオメトリック(幾何学的)な形状を練り上げ、パーツの構成上から必要になるスプリットラインまで徹底的に見直した。石井氏は「モビリティ=動体」としての魅力を意識しながら、それをより強く引き出したのだと表現する。

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ソニー・ホンダモビリティが今年のCESгЃ§з™єиЎЁгЃ—гЃџгЂЃAFEELAの第2世代のプロトタイプモデル。「必要最低限で無駄のない線と、全体に柔らかくラウンドしたサーフェス(面)」が新しいデザインの重要な構成要素гЃ

最新のプロトタイプはフロントから、サイド、リア、ホイールアーチへと流れるサーフェスをすべて見直した。フロントとリアバンパー構造の見直しを含め、フロントのエアインテーク、リアのリフレクターをブラックのガーニッシュと一体化するなどとして機能性と審美性を同時に高めている。

前世代のプロトタイプは、水平方向の佇まいを強調したホリゾンタル基調のデザインだった。2024年のプロトタイプでは、カッティングの形状にウェッジシェイプ(くさび形)のエレメントを入れ、ボディの抑揚にアクセントを加えて「走るプロダクト」としての美しさを際立たせている。

河野氏は「4本の脚=4輪のタイヤ」のデザインを印象付けて、車体の安定感を高める”さじ加減”にも腐心したと振り返る。

「脚部の印象を、あざとく強調することも難しくはありませんが、AFEELAは全体のバランスをよりいっそう重視しています。無駄を削ぎ落としたシンプルな造形から、品質の高さと信頼性が透けて見えるデザインにすることが私たちの挑戦だと考えています」(河野氏)

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初代のAFEELAプロトタイプモデル。比べてみると最新のプロトタイプがより起伏にも富んだ魅力的なデザインにアップデートされている

デザインを際立たせる先進技術

モビリティに関連する最先端技術もまた、AFEELAのユーザー体験に独自性を持たせている。

車体の内外側には多数のセンサーとカメラがある。走行中も360度周囲をモニタリングしながら得る精度の高い情報を基に、安全運転の支援をAFEELAが行う。車内のフロントパネルには大きなパノラミックスクリーンが広がり、走行情報やエンターテインメントのコンテンツを表示する。特に走行情報の視認性を高めるためステアリング(ハンドル)は上側半分を開放したヨークデザインとした。

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AFEELAの車内。前方にはワイドなパノラミックスクリーンが広がる。ドライバーが走行情報をひと目で見られるように、上半分を切断したようなヨークデザインのステアリングを採用している

AFEELAの車内。前方にはワイドなパノラミックスクリーンが広がる。ドライバーが走行情報をひと目で見られるように、上半分を開放したヨークデザインのステアリングを採用している

AFEELAのボディサーフェースにはドアハンドルがない。ドライバーが近付くとセンサーが感知して、顔認証カメラがロックを解除する。そして降車後は自動でドアを施錠する。顔認証を応用すれば、ユーザーのために最適化したさまざまな機能をセキュアに提供可能だと石井氏が示唆する。

安全走行を支援するレーダーのセンシング精度を落とさないように、車体の塗装には新しい特殊な塗料も採用した。材料の特徴を河野氏に聞いた。

「通常メタリック塗料をすると乱反射により、レーダーの電波が通りにくくなります。2024年のプロトタイプに採用した新しい塗料はレーダーの透過率を確保しながら、ソリッド色でもメタリック色でもない独特な魅力ある色彩をつくり出せます。私たちはその少し青みがかった深い色合いを『Tidal Gray』(タイダル=潮)と呼んでいます。光を受けるとさまざまな色に表情を変えます」(河野氏)

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AFEELAのボディには光の当たりかたにより、色合いを変える塗料を採用した

ユーザーがAFEELAを自由にパーソナライゼーションできる

AFEELAはユーザーが一部車体のデザイン要素や、多彩な機能のパーソナライゼーション(カスタマイゼーション)が楽しめる。車体にAFEELAのエンブレムを持たない代わりに「Media Bar」と名付けられたフロントのディスプレイにデジタルエンブレムを表示する。

石井氏はMedia Barが「モビリティとユーザーとのコミュニケーションをつなぐ『メディア=媒介』でもある」のだと語る。AFEELAがドライバー・パッセンジャーを感知すると、Media Barにさまざまな情報を表示しながらリアクションする。例えばバッテリーの残量や満充電までにかかる時間を表示するといった機能的な使い方も想定されている。

AFEELAのデザイン要素は、走行時の疑似エンジン音やAVAS(Acoustic Vehicle Alerting System:アラート音)として機能するeモーターサウンドにまでおよぶ。ホンダでは自動車の安全走行に関わる規則の中で決めていたサウンドのデザインを、ソニー・ホンダモビリティでは専任のサウンドデザイナーが行っている。「AFEELAの開発を通じてサウンドに関連する表現の引き出しが拡大している」と、河野氏は語る。

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Media Barのコンテンツ、eモーターサウンドなどがAFEELAのモバイルアプリから選んでパーソナライゼーションが楽しめる

では、AFEELAにはどのようなeモーターサウンドが用意されるのか? 河野氏は「国や地域によって異なる安全基準に従いながら、eモーターサウンドがいわゆる”クルマらしい音“であるべきなのかも含めて、これからAFEELAらしい音づくりを追求したい」と答えている。

ソニー・ホンダモビリティではAFEELAの開発環境の一部を開放して、Media Barやパノラミックスクリーンに表示するコンテンツや、eモーターサウンドを外部のデベロッパと「共創」するプログラムも立ち上げた。AFEELAはユーザーがデジタルガジェット感覚で乗りこなせる異色のスマートEVになりそうだ。

ユーザーフレンドリーな操作性を追求する

AIに関わるAFEELAの新展開として、CESでは「Microsoft Azure OpenAI Service」を活用する対話型パーソナルエージェントを、ソニー・ホンダモビリティが独自に開発することも明らかにされた。パーソナルエージェントによるユーザー体験の展望を、石井氏と河野氏はデザイナーとしての視点からどのように描いているのだろうか。

河野氏は「人間とAIによるパーソナルエージェントとの関係は、例えば執事、恋人などさまざまな形になり得る」としながら、さらに乗り続けるほどにパーソナルエージェントがユーザーを深く理解する関係性も描けそうだと答えた。

石井氏は「安心・安全に結び付くパーソナルエージェントのあるべき姿」を掲げながら、ソニーの得意なセンシング技術に基づく安全走行支援のような体験の提供も検討できるとした。

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CESではMicrosoft Azure OpenAI Serviceをベースにした、AFEELA独自のパーソナルエージェントを開発することが発表された

河野氏は「暴れ馬を飼いならすとか、馬力を制御するとか、以前は車が持つさまざまなクセをユーザーが乗りこなすことに価値があるとされました。AFEELAは車の方からユーザーに馴染む感覚を大切にしたい」と語る。

最先端の技術を満載するAFEELAの操作性が複雑怪奇になってしまったら元も子もない。アクセシビリティの視点からも、AFEELAをユーザーフレンドリーなモビリティにしたいと石井氏、河野氏は口を揃える。

例えばパノラミックスクリーンに表示されるユーザーインターフェースは画面のタッチだけでなく、ステアリングのハードキーやセンターコンソールのジョグダイアルを併用しながら選択操作ができる。操作の内容によっては、画面タッチよりもハードウェアのコントローラーを使う方がユーザーの感覚に近いアナログ操作で、直感的に操作できる場合もあるからだ。反対にユーザーの顔認証やNFC機能を搭載するスマホをかざして開閉するオートドアのように、物理的操作の最小化による負担軽減も含めて、デジタルガジェットに不慣れなオーナーの満足度向上も、AFEELAはさまざまな視点から追求する。

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センターコンソールに配置されたジョグダイアル。パノラミックスクリーンの画面タッチと合わせた快適な操作性を追求する

2025年に予定する先行受注開始に向けて、AFEELAのデザインがプロトタイプからマスプロダクションタイプにいつ切り替わるのだろうか。今回のインタビューでは開発が順調に進んでいることは垣間見えたが、石井氏は「みなさんの関心と期待が大きいことも心得ています。今後の開発に向けて、みなさんの期待を超えるようなものをお届けしていきたい」と答えた。

河野氏の口からは、2024年のプロトタイプが公開できたことで「ようやくスタートラインに立てた」という安堵の思いがこぼれた。今後もさらにモビリティの可能性を貪欲に追求していきたいという河野氏が「今はこれが売れてるから、AFEELAもそれに追従しようという戦略を採るつもりはありません。この先に何をつくるとしても、みなさんにAFEELAの独自性を伝えたい」と結んだ。

連載:デジタル・トレンド・ハンズオン

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