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失速EV市場で独り勝ち! なぜ『BYD』はそんなに安いのか?【報道1930】

失速ev市場で独り勝ち! なぜ『byd』はそんなに安いのか?【報道1930】

世界の潮流のはずだったEV(電気自動車)の売れ行きが芳しくない。トップシェアを誇っていたアメリカ『テスラ』も前年比で大きく売り上げを下げ、時価総額はピーク時の半分以下に下落した。同様にドイツ『フォルクスワーゲン』、アメリカ『フォード』も販売台数は計画の半分に止まっているという。EV市場は今“踊り場”にいるというのが大方の見方だ。そんな中1社だけ鼻息が荒い。中国最大のEVメーカー『BYD』だ。

圧倒的なコストパフォーマンスでシェアを拡大。ついにはテスラを抜いてEVの世界シェア第1位に立った。BYDはいかにして低価格を実現したのか?大躍進のワケと未来を議論した。

「中国は3000万台という大きな市場の中で様々な革新が生まれた」

1位の座を奪われた『テスラ』のイーロン・マスクCEOは中国のEVメーカーを「世界の同業のほとんどを打ち負かすだろう 彼らは非常に優秀だ」とほめたたえた。

去年1年間の新車販売台数のうちEVが占める割合は、『テスラ』を有するアメリカが7.8%なのに対し中国は22.2%(因みに日本は1.7%)。この巨大マーケットをバックに急成長したのが『BYD』だ。日本でも2年前から販売を開始している。販売店をのぞいてみた…

「中国製だからどうなかなぁと思ったんですけど結構デザインも洗練されてて良かったんじゃないですかねぇ…」(来店していた男性客)

「電気自動車が欲しくて色々調べて…、日本では(種類が)限られているんですがその中でこの車が一番良いかなぁ…」(購入したイギリス人男性)

日本での販売台数はまだまだだが、中国製品に対する偏見は薄れていると販売店の店長は言う。

『BYD AUTO練馬』上川賢 店長

「お客様の多くはフラットに良いものをよい値段で購入できるのであれば乗りたいって…」

デザインも性能もまずまずのようだが魅力は何といっても“低価格”だ。

主力のミドルサイズのSUVで日本での販売価格は450万円台。まもなく販売される小型の『Yuan UP』は200万円ちょっとで販売されるという。さらに中国国内では航続距離が300キロで約150万円という車種もある。

中国製品が“安かろう、悪かろう”だった時代の話ではない。低価格を実現したのにはそれ相応の“ワケ”があるようだ。専門家に聞いた。

中国自動車工業協会 劉偉 理事

「中国は3000万台の自国市場があって、これは世界の3分の1を占めている。日本の自国市場は400万台ほどしかないが、中国は3000万台という大きな市場の中で様々な革新が生まれた。販売台数が大きくなれば利益や効率は自ずと上がるし、そこで一定数を占めることができればコストは下がってくる…」

3000万台の中国自動車市場。EVなどの市場だけでも900万台もある。これは日本のガソリン車も含めた全市場の倍以上の規模だ。その中でトップシェアの『BYD』はコストを落とす手立てがいくらでもあるのだ。

「垂直統合がキーワード」

『BYD』が売れる理由に中国人の特性があり、それに応えられたメーカーが生き残ると劉氏は言う。

「中国人は新しい物好きだから、開発速度が速くなければならない。既存の自動車メーカーは5年に1回大きなモデルチェンジをして…(中略)このスピードでは中国の競争環境についていくことはできない。もっと早くモデルチェンジしてニーズに応えなければ…。市場はやはり消費者ありきだから…」

『BYD』は市場のニーズに応えて次々と新型車を発表する。もちろん粗製乱造ではない。新車開発のスピードにも“ワケ”があるというのは自動車産業を長年取材分析してきた中西孝樹氏だ。

自動車アナリスト 中西孝樹氏

「垂直統合がキーワードですね。中国で作ってる『BYD』ですと75%が内製品(自社で賄う)ですので…。(他から買った方が安い部品もあるが)とにかく進化のスピードが速いですから、それをサプライヤーとすり合わせている時間が無駄なんですね。自分たちの意思で変えていきたい部分は垂直統合して、スピードを持った開発をして、かつスケールもそこでできる。(スピード開発が必要でないものは)よそから買えばいい…。それが徹底してできてる…」

『BYD』は元々リチウムイオン電池では世界3位の電池のメーカーだった。だからEV界でもハード面での成長は予想できた。一方で運転支援システムなどのソフト開発ではヨーロッパの既製品を使うなど弱みもあった。ところがここ数年で様子が一変したという。

「数年の間に突如1万人以上のソフトエンジニアを持つ世界でも先進的なソフトウエア会社になった。(何故そうなったかというと)非常に決断が速い著名な経営者なんです」

「日本車のシェアはこれからじりじりダウンしていく」

一人勝ちの様相を呈している『BYD』は北米進出を念頭にメキシコに工場を建設する動きを見せている。これには早速トランプ氏が吠えた。

トランプ前大統領

「私が大統領になったら彼ら(中国メーカー)に関税をかけ、そこで車を作れないようにする。大統領に就任した初日にEVへの補助金の廃止に署名することを約束する」

一方、中国に次ぐ世界2位のEV市場であるEUのフォンデアライエン委員長も警戒感を露にする。

欧州委員会 フォンデアライエン委員長

「世界市場は今や安い中国のEVであふれている。その価格は巨額の政府補助で人為的に低く抑えられていて我々の市場をゆがめている…」

フランスではいち早く中国製EVを補助金対象外にした。日本でも『BYD』への補助金は今年から減額されている。欧米への進出にハードルが高い『BYD』は南へ進出するというのが中西氏の見方だ。実は今タイで中国製EVのシェアが急上昇している。タイは日本の自動車メーカーのサプライチェーンの中心。ここが中国に支配されると日本メーカーは敗北のドミノ倒しに陥ると中西氏は言う。

「日本車が優位性を持っている新興国で(販売競争の)敗北が始まる。タイでは既に始まっている。他の東南アジア、オーストラリア、中近東、アフリカ…どんどん敗北の輪が広がっていくんです」

この見方には中国の自動車産業を調査研究する『みずほ銀行』の湯進氏もうなずく。

『みずほ銀行』湯(たん)進(しん)主任研究員

「東南アジアに関しておそらく日本車のシェアはこれからじりじりダウンしていく。中国車の進出先としては民族ブランドが存在しない(自動車メーカーを持たない)国に進出するのではと思っています。タイも、オーストラリアもそうです…」

東南アジアが日本の自動車メーカーにとっていかに重要かをかつて日産自動車でASEAN担当だったという志賀俊之氏は話す。

元日産自動車COO 志賀俊之氏

「当時(ASEAN諸国では)日本車が95%くらい。私インドネシアに駐在していたんですけど、まぁほぼ全部日本車。それだけのマーケット作ってアフターサービスして…完全に日本の牙城だったんですね。そういうところで負けるはずがないっていう驕りはあったかもしれません。これほど振興国がEVの方にシフトするとは思わなかった。(―――タイは日本にとって?)大事ですねぇ。年間180万台くらい現地生産してて半分くらい輸出。だから生産拠点、アジアのデトロイトみたいなところ」

躍進する中国勢の前で日本車は競争力を維持し、中国車に対抗していけるのか…。前出の劉偉氏に聞いたところ笑顔でこう答えた。

「…その話はやめましょう。私には日本企業のパートナーがたくさんいるから…対抗できるかは最終的に市場によって決まります」

(BS-TBS『報道1930』4月9日放送より)

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