販売動向の分析
環境問題や燃料費の高騰などを背景に、自動車業界は大きな変革期を迎えている。
【画像】えっ…! これが自動車ディーラーの「年収」です(計12枚)
おおまかな業界動向としては、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)の販売が増加傾向にある。ただ、モデル別の販売台数やランキングは、テレビやインターネットニュースで見聞きすることがあるだろうが、また別の販売台数データというのもある。
今回は、日本自動車販売協会連合会(JADA)が発表した2024年1~3月の
「燃料別メーカー別登録台数」
をもとに、自動車ディーラーの視点から分析してみたい。
結論からいうと、HVは純ガソリン車の2倍以上売れている。具体的な数字を挙げると、2024年3月でHVは約17万台、純ガソリン車は約7.8万台である。これは街中の新車を見てもわかるのではないか。1月と2月の数字を見ると、1月が約2.1倍、2月が約2.3倍となっている。新車購入者の多くがHVに興味を持っていることがうかがえる。
メーカーの販売戦略の影響
燃料別メーカー別登録台数(乗用車)2024年3月(画像:日本自動車販売協会連合会)
一方、ガソリン車の販売比率が高いメーカーは、スバル、スズキ、ダイハツである。環境に優しいディーゼル車のラインアップが多い三菱、マツダもHVより多い。これらのメーカーもHVを生産・販売しているが、販売戦略やユーザーニーズとマッチしていないこともあり、販売台数は伸びていない。
EVとHVのいいとこ取りともいえるプラグインハイブリッド車(PHV)は、日本では三菱とトヨタの2強状態だ。PHVの販売台数も今後伸びることが予想されるが、
「どっちつかずな作り」
となっているため、HVほど市場は拡大しないと筆者(宇野源一、元自動車ディーラー)は予測している。
化石燃料を使わないEVについては、国内メーカーの販売はそれほど強くない。国内メーカーのEVと聞くと、日産のリーフ、アリア、サクラのイメージが強いだろうが、トヨタやスバルもEVを開発している。ホンダも展開していたが、撤退している。
ディーラー視点のクルマ選び
燃料別メーカー別登録台数(乗用車)2024年2月(画像:日本自動車販売協会連合会)
新車を販売するディーラーは、この流れをどう考えているのだろうか。以下、筆者の経験と、実際に現場で働いている知人の話をもとに考察してみたい。
クルマの購入を検討している顧客には、当然のことながら予算がある。日本のメーカーの多くは、同じクルマでもガソリン車とHVを選べるようになっているが、HVはバッテリーやパワートレインの関係でガソリン車より数十万円高い。つまり、予算に収まらない顧客はガソリン車を選ぶことになる。
もちろん、年間走行距離が多く、数十万円の投資が可能な人は必然的にHVを選ぶが、そうでない人も多い。コストパフォーマンスでクルマを選ぶ場合、HVは多様なラインアップのひとつにすぎないといえるし、ディーラーもそれを前提に提案する。
また、コストパフォーマンスでクルマ選びを提案するディーラーの言葉に耳を貸さず、「燃費がいいから」とHVを購入する人は一定数いる。たとえ年間数千kmしか走らない人でも、目先の燃費のよさでクルマを買う動機になる人は多い。新車購入の目的が「燃費」や「静粛性」重視であれば、必然的にHVが選ばれるようになる。
さらに、最近はリセールバリューを重視してクルマを購入する人が多い。また、クルマ自体が高価になっているため、現金一括払いではなく、残価設定型クレジット(残クレ)の利用が増えている。残価率はクレジット会社が決めるが、ガソリン車とHVをランナップしているモデルの残価率は同じではない。将来高く転売できそうなクルマや、メーカーが売りたいクルマは残価率が高くなる傾向がある。
「HVの方がお得ですよ」
というセールストークを展開しやすい。つまり売りやすいのだ。
日本におけるHVの優位性
燃料別メーカー別登録台数(乗用車)2024年1月(画像:日本自動車販売協会連合会)
世界各国でEVの普及が進められているが、数字にはっきり表れているように、日本では販売が伸びていない。その理由は、日本の生活環境にあるといわざるを得ない。
EVの最大のメリットは自宅で充電できることだが、都市部では一戸建て住宅よりもマンションの比率が高く、駐車場の台数に対して充電器が十分に確保できない。
そうなると、一戸建て住宅が多い地方はどうなのか――という話になるが、地方でも都市化が進み、マンションが増え、EVが普及しにくくなっている。また、インフラが整っていない。
日本におけるHVの新車販売台数の高止まり傾向は、リセールバリューの高さに加え、国内メーカーのラインアップ、メーカーや各種メディアの戦略によって、今後も続くと予想される。
現在、ガソリンの方が入手しやすく、補給時間も短いため、EVよりも時間がかからず、時間効率に優れている。Z世代の多くの人々が、時間を大切に有効に使うという考えを持っているため、HV優位の傾向は今後も続くだろう。