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トヨタの「真の弱点」とは何か? 低燃費車で世界制覇も、迫られる脱“機械屋”という現実

自動車業界の転換点

 自動車業界の歴史を振り返ると、それぞれの時代に革命的な技術が現れ、産業全体を変革してきた。20世紀は深刻な環境問題から、排ガス規制や燃費規制が制定され、それをクリアするための低燃費車やハイブリッド車(HV)が登場した。

【画像】えっ…! これがハイブリッド車の「市場シェア」です(計5枚)

 21世紀に入ると環境負荷軽減そのものではなく、“環境にやさしい”というイメージで、電気自動車(EV)に脚光が当たるようになった。各国ではEV補助金や減税といったEV支援策が行われ、米国のテスラを筆頭に、伝統的な自動車メーカーや多くの新興企業がこのEV開発競争に参加し、電動化の波は世界中に広がった。

 しかし新型コロナウイルス感染症の流行が収束した2023年頃、世界的なEV化の波に一部陰りが見え始めた。これは、

「Well to Wheel(走行中だけではなく、油田からタイヤが駆動するまでどれだけのCO2が排出されるか)」

で見た場合、

・HVよりもCO2排出量が多い

・EVのバッテリー製造に必要なレアメタルの大量採掘が環境負荷や汚染を引き起こす

・EVが使用する電力が主に火力発電に依存している

ことなど、EV固有の問題だけでなく、

・充電ステーションの不足

・充電時間の長さ(充電渋滞を含む)

・補助金や減税なしではガソリン車やHVに比べて高価であること

中古車価格が低い傾向にあること

など、利便性や経済性の問題も浮上している。さらに、過度なEV開発競争や販売競争が原因で、EVが収益性を欠くようになったメーカー側の事情も一因となっている。

SDV時代の到来

トヨタの「真の弱点」とは何か? 低燃費車で世界制覇も、迫られる脱“機械屋”という現実

SDVのイメージ(画像:デロイト)

 そうしたなか、自動車業界の新たな競争領域になっているのが

「ソフトウエア」

である。2000(平成12)年以降、自動車のコネクテッド化により自動車の“ソフトウエア化”が進んだが、主体はまだエンジンやパワートレインといったハードウエアだった。近年はそれがさらに進み、自動車の機能がソフトウエア中心へと移行しはじめている。

 このようにソフトウエアが自動車の価値の源泉であることを指す言葉として

「SDV(ソフトウエア定義車両)」

という言葉も登場し、近年よく耳にするようになっている。

 世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車は、自動車による環境負荷低減の波に乗り、ハイブリッドに代表される低燃費車で世界一の座を獲得したが、SDVの時代が訪れた今、伝統的な

「機械屋」

であるトヨタは新たな危機に立たされている。

 現在多くの伝統的自動車メーカーはソフトウエア開発に多額の資金を投資し、ソフトウエア人材の獲得や育成にも注力しているが、テスラや中国メーカーと比較して、トヨタは遅れていると指摘されている。

 EV化の波はある種強引に進んだ側面もあり、かつトヨタはHV、EV、燃料電池車(FCV)と、その戦場で戦う術を持っていたため、EV化自体はトヨタにとってさほど脅威ではなかった。しかし、SDV化の波は自然発生的に生まれ、不可逆なトレンドであるため、トヨタは

「IT屋」

への転身を急ぐ必要がある。こういったことからも、トヨタの“真の弱点”はSDVであるといっても過言ではないだろう。

“弱点”とチャンスの共存

トヨタの「真の弱点」とは何か? 低燃費車で世界制覇も、迫られる脱“機械屋”という現実

AIのイメージ(画像:写真AC)

 トヨタはGAFAに代表されるビッグテック企業やテスラのように、世界最高峰のエンジニアを大量に抱えるわけでもなく、またビッグデータを大量に保有しているわけでもない。

 しかし、この状況は必ずしも絶望的なものではない。それは米国の半導体大手・エヌビディアが推進する「AIの大衆化」により、ソフトウエア領域でもビッグテック企業と対等に競争できる可能性が出てきているからだ。エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は

「生成AIはテクノロジーの格差を埋める」

ともいっており、高度なエンジニアや大量のビッグデータといったビッグテックが持つ競争優位性は今後徐々に薄れていく可能性がある。

 グーグルがインターネット広告で、アップルがスマートフォンで、フェイスブックが会員制交流サイト(SNS)で、そしてアマゾンがオンラインショッピングで既存のメディアやデバイスや小売業を変革したように、AIの大衆化は

「より多くのデータを持つものが強い」

という旧来のルールを覆す可能性を秘めている。

 トヨタがこの流れを捉え、自らの“弱点”を克服する鍵とし、自社開発を進める車両基本ソフト(OS)や自動運転ソフトウエアの開発の遅れを取り戻すことができれば、SDVの領域でも勝ち残り、新時代の自動車産業においてもリーダーとしての地位を確立することができるかもしれない。

 SDV化の波は、トヨタにとって脅威でありながら、新たなチャンスでもある。この大きな転換をトヨタがどのように見据え、自動車産業の新たな章を切り開いていくのか、その動向には非常に注目に値する。

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