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燃費、デザイン、先進装備は文句なし…「トヨタ新型プリウス」で1300キロ走ってわかった唯一の弱点

最上級グレードの「プリウスZ」E-Four(ハイブリッド用4WD)で1300キロ走ってみました!

トヨタ自動車の新型「プリウス」(5代目)が好調だ。自動車ライターの大音安弘さんは「燃費やデザイン、先進運転支援システムなどはどれも非常に高いレベルにあり、文句のつけようがない。ただし、実用車からスペシャリティカーに変貌したことで、弱点もある」という――。

高級車ではないのにブランドイメージが高い

今や当たり前の選択肢となったハイブリッド車だが、そのパイオニアといえば、トヨタ「プリウス」だ。

「21世紀に間に合いました」というキャッチコピーを掲げ、世界初の量産ハイブリッド車として、1997年10月に発表。ユーザーの環境意識の高まりから、米国セレブにも愛用されるようになり、高級車でないにもかかわらず、一気にブランドイメージを向上。世界で愛される1台となった。

そのプリウスが2023年1月にフルモデルチェンジを行い、5代目となる新型に進化。今年3月には、PHEVも追加されたことで再び話題になっている。約1300kmにも及ぶ長距離移動を通じて感じた新型プリウスの魅力と弱点を紹介したい。

実用車→スペシャリティカーへ変貌

かつてはハイブリッド車の代名詞だったプリウスだが、その技術は他の多くのトヨタ車に採用され、さまざまなハイブリッド車が誕生した。その結果、燃費に特化したプリウスの必要性が改めて問われるようになった。

その答えとして、登場したのが4代目となる先代プリウスだ。トヨタの新たなクルマづくりである「TNGA」の第1弾モデルとして、持ち味の燃費の良さはそのままに、クルマ好きさえも唸らせる走りのプリウスへと進化させ、その存在感を示した。

同時に、従来の実用車としてのキャラクターも薄められ、電動化を武器としたスペシャリティカーの顔も持つように。このため、PHEVの「プリウスPHV」では、歴代プリウス初となるスポーツモデル「GRスポーツ」も用意された。先代の特別感をより強めたのが、今回の新型プリウスというわけだ。

トヨタ自身も「一目惚れするデザイン」と表現

お披露目された新型プリウスは、歴代モデル同様に、5ドアハッチバックスタイルを継承しているが、最もスポーティかつカッコよさを重視したデザインとした。そのデザインもプリウスの話題性を高める要因のひとつとなっている。

これまで同様に環境性能を追求しつつ、走行性能を高めるべく、シリーズ初の2.0Lエンジンの搭載によりモーター出力を向上。システム出力は前輪駆動モデルで、先代比で約1.6倍となる144kW(196ps)まで高めている。もちろん、燃費も28.6km/L(WLTC)と優秀だ。

さらに燃費重視のユーザーには、1.8Lエンジンのハイブリッドシステムも用意し、こちらでは32.6km/L(WLTC)と先代よりも、+0.5km/Lを果たしている。

新型プリウスを目の前にしてみると、かなりスポーティなデザインであり、プリウス=実用車というイメージを打ち破っている。多くの人は、「環境性能」や「経済性」の前に、素直に「カッコイイクルマ」だと思うだろう。

トヨタ自身も「一目惚れするデザイン」と表現しており、かなり自信作であることがうかがえる。

個人的には、シャープな顔つきに加え、美しい曲面も気になった。特にリヤに向けて膨らみを持たせることで力強さを表現したボディフォルムが気に入った。オプションパーツを装備しなくても、素直にカッコイイと思わせるのは、デザインとしての商品力が高いといえよう。

内部は走りの良さを意識している

インテリアは、比較的すっきりとしたデザインだ。大型ワイドなセンターディスプレイと電動車らしい小ぶりのデジタルメーターが最新型モデルらしさを演出する。この新しいメーターは、トヨタのEV「bZ4X」とも共通の物だ。

ダッシュボードには、最新車によく見られるイルミネーション機能が採用されるが、これが先進の運転支援と連動し、点滅することで、ドライバーに注意を促すようになっているのが面白い。

フロントシートは、身体を包み込むスポーティなデザインのものとなっている。運転操作に特別なところはなく、走行中に使う機能は、ハンドル周りに集約されており、エアコンもスイッチ操作が可能。

ナビの設定は、センターディスプレイで行い、運転中に必要となるオーディオ機能や運転支援機能は、ステアリングスイッチで行う。またナビを含め、一部の機能は音声操作にも対応する。

日常走行で気が付いたこと

今回は、とある取材の移動に新型プリウスを利用。東京から大阪までを往復し、約1000kmのロングドライブを行った。テスト車は、最上級グレードの「プリウスZ」E-Four(ハイブリッド用4WD)だ。この移動の際、筆者を含め、2人の大柄な男性が乗車しており、より現実的な状態でのテストとなった。

街中でのプリウスの印象は、かなり静かで乗り心地も良好だった。静粛性の秘密は、ガラスなどの遮音がしっかりとしていることに加え、積極的にモーターで走行するため。

加速時には必要に応じてエンジンが始動するが、その音も決して大きくはない。バッテリー残量があれば、ほとんどEV走行となる。実際に、単距離を移動時のメーター表示では、走行の約80%がEVモードであった。

住宅地などを含む日常走行で弱点だと思ったのは、ドライバーから車両の先端がよく見えないことだ。前方視界は良いのだが、シャープな先端がはっきりと見えない。これでは、小柄な人は、よりつらいだろう。ただ超音波センサーなどで障害物を知ることはできるし、前方カメラが搭載される仕様もある。

高速に乗ってわかった弱点

高速道路では、また異なる点が見えてきた。最新モデルだけに、ロングドライブでのドライバーの疲労軽減を図る運転支援機能はとても優秀だった。

前走車の追従走行と車線内維持支援機能はもちろん、セットした車速を上限に、同一車線内を加減速しながら走行するアシストも行ってくれる。ドライバーは、前方の監視とステアリング保持をしていればよい。システムがカバーできない領域は、支援機能がオフとなるが、その時間は全体から見れば、わずかなものだ。

しかし、高速走行では、プリウスの静粛性にも限度があることも感じた。高速走行だと、エンジン走行領域が増えるため、走行中の騒音も高まる。風切り音とタイヤによるロードノイズも、より大きくなる。高速領域でのモーター走行時には、エンジン音に消されていた音も聞こえるようになるため、より目立つ。そのノイズの侵入を抑えるために、床面の遮音対策をもう少し強化してほしいというのが本音だ。

ただ静粛性を高めることは重量増につながるため、燃費には不利に働く。燃費も大切なプリウスでは、そのバランスが難しい。スタイルに起因する問題もある。全高が低いため、車内で走行音がこもりやすいのだ。

特に高速域での後席は、前席と話すのがつかれると感じるほどだった。また高速域だと乗り心地の硬さも気になったが、これは19インチ仕様であることも影響しており、高速域での乗り心地も重視するならば、17インチ仕様の方が良さそうだ。

やっぱり燃費はすばらしい

燃費に関しては、すばらしいの一言だ。どのようなシーンでも20km/Lを余裕で超える。東京大阪間は、120km/h区間もある新東名高速道路や高低差も大きい新名神高速道路なども含まれ、一般的に燃費は悪くなる。それでも往復トータルで、22.3km/Lを記録。

さらに後日、ひとりで向かった埼玉県から静岡県の往復300kmでは、25.9km/Lに。公表値である26.7km/L(WLTC)には及ばなかったが、どちらも燃費よりも道路状況に合わせた走りだったことを考慮すれば、燃費走行に徹すれば、さらに伸びるはずだ。さすがプリウスと感心させられた。

新型プリウスを買ってもいい人

新型プリウスは、デザインと燃費も良く歴代モデルの中でも、トータルでの性能は高い。しかし、従来までの万能選手ではなく、燃費の良いスペシャリティカーとしてつくられている。

そのため、ラゲッジスペースも容量自体はしっかりと確保されるものの、ガラスハッチとの高さの制約があったり、後席の視界や快適度は落ちたりするなど弱点もある。

しかし、後席や積載力を重視するならば、別のハイブリッド車を選べばよい。新型プリウスはあくまで燃費と先進性を重視する人向けのクルマなのだ。だから、元々のプリウスファンやエコカーファンには最適。

さらにいえば、燃費の悪いクラシックカーやスポーツカーを持ちながらも、環境も大切にしたいと考える富裕層のセカンドカーにも良いだろう。またかつてデートカーやハイソカーなど先進的な上級車を愛用した人にも刺さるかもしれない。

新型プリウスの価格はビジネスユーザー向けの1.8L車でも275万円から。主力となる2.0L車だと320万円からとなる。実用車としてはお手頃とは言いにくい設定ということからも購入者層がうかがえる。

今やこだわり派向けの1台となっているが、それは正解なのだろう。今後、GRスポーツのようなスポーツタイプやより高級感を意識した仕様なんてものも登場すると、よりエコカー市場をにぎわせることになり、面白そうだ。

———- 大音 安弘(おおと・やすひろ) 自動車ライター 1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に「GOONETマガジン」「ベストカーWEB」「webCG」「モーターファン.jp」「マイナビニュース」「日経クロストレンド」『GQ』「ゲーテWEB」など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、ほとんどがMT車という大のMT好き。 ———-

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