ニュース

ビジネス

投資

自動車

トヨタ生産システムの根源「なぜなぜ分析」はバフェット流にも通じる「外野の意見に耳を傾けるな!」という鉄則

日本の繁栄を牽引する「製造業」の雄

3年前の2021年5月9日公開「日本の『お家芸』製造業、じつはここへきて『圧倒的な世界1位』になっていた…!」において、世間で「中韓に遅れをとって衰退していると」騒がれていた日本の製造業が、実は相変わらず「ナンバーワン」であることを述べた。

現在は円安という追い風もあるが、だれの目にも「日本の製造業の強さ」が明らかになっている。「日本品質」と「(製造業における)生産性の高さ」は、他国には到底真似ができない日本の長所である。

トヨタ生産システムの根源「なぜなぜ分析」はバフェット流にも通じる「外野の意見に耳を傾けるな!」という鉄則

トヨタ自動車本町工場 by Gettyimages

そして、製造業だけではなく、日本企業の雄といえるトヨタの躍進も目覚ましい。昨年10月31日公開「もはや『財閥』、トヨタグループ――世界や新聞・テレビからバッシングを受ける中で王道を歩む『永久保有銘柄』」で述べた「トヨタの強さ」は、3月30日公開「脱炭素とEV化の欺瞞が暴露されつつある~トヨタの先見性と忍耐力は称賛されるべき」という状況の中で、ますます磨きがかかっている。

世界的に優位に立つ日本の製造業の中でも、トヨタの強さは際立っている。もちろん、カイゼンやジャストインタイムなどの言葉が有名な、TPS(トヨタ生産システム)が大きく貢献していることは間違いがない。

しかし、「トヨタの強さ」の根源を探っていくと「なぜなぜ分析」に到達する。詳しくは後述するが、この「なぜなぜ分析」と投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェットの「バフェット流」とは根底の哲学がつながっているといえる。

バフェットの「投資家の仕事は、投資(売買)を始める前にほとんどすべて終わっている」と言う言葉がその象徴だ。

以下、トヨタの根底に流れる「なぜなぜ分析」という哲学と「バフェット流」について考えてみたい。

EV騒動だけではない、トヨタの判断の正しさ

3月29日公開「EV連合・日産とホンダと『我が道を行く』トヨタの将来を占う~そういえば立派なビルを建てた企業は傾く!?」で述べたように、「EV化」において「我が道を行く」トヨタの正しさが明白になった。しかし、トヨタの「我が道を行く姿勢」は、近年のEV化問題だけに見られるのではない。

例えば、1997年の「量産型ハイブリッドカー」プリウスの登場だ。今ではハイブリッドが優れたシステムであることは明らかだが、当時世界的な「EV化オンリー」(燃料電池自動車(FCV)については、トヨタ、ホンダ共に2002年12月に車両のリース販売を開始)のムードの中で「エンジン+電池」という画期的システムを創造したのだ。

当時、世界中の自動車メーカーが「脱エンジン車、EV化一択」であり、「エンジン+電池」などという「解」は思いもよらなかったから「画期的かつ大胆な戦略」といえよう。

また、レクサスは現在世間でベンツなどと同等の(あるいはそれを上回る)高級車として認知されているが、1989年に北米で発売された時には、トヨタはあくまで「極東の大衆車メーカー」でしかなかった。もちろんメイド・イン・ジャパンという言葉も、当時は戦後の「安かろう、悪かろう」という印象を引きずっていて、現在の「日本品質」あるいは「クール・ジャパン」というイメージとはかけ離れていた。

そこで、トヨタ自動車の名前を前面に出さずに「レクサス」というブランドで勝負したのだ。しかも、おひざ元の日本では無く米国において認知を先行させる戦略を採用した。日本での展開は、米国から遅れること16年、2005年からのことである。

当時、日産、ホンダなど優れた日本の自動車メーカーが多数あったが、「レクサス」のような高級ブランドを確立できなかったことを考えても、トヨタの「判断と実行力」が傑出していることがよくわかる。

なぜ重要な局面で(ほとんど)いつも「正しい判断」を下せるのか。その秘密が、「バフェット流」にも通じる「なぜなぜ分析」である。

なぜなぜ分析の本質

このトヨタの大躍進を支える「なぜなぜ分析」については「大原浩の逆説チャンネル<第58回>トヨタグループはこのまま快進撃を続け『財閥』になるのか。顕わになったEV化・脱炭素の欺瞞」でも詳しく解説した。

「なぜを5回繰り返す」ということとして知られているが、もちろん同じ「なぜ」を呪文のように繰り返すということではない。

例えば、製造ラインで不良品が見つかったらまず「なぜ」と考える。そしてその原因が製造装置の不具合であれば、2回目の「『なぜ』製造装置に不具合が起こったのか」と考える。

もし、製造装置の定期点検で不具合が見逃されたせいだとすれば、さらに3回目の「なぜ」を考えるという具合だ。

5回この「なぜ」を繰り返せば、「問題の『根源』に到達」することができ、「抜本的な改革(カイゼン)」を行うことができるというわけである。

要するに、「根源まで自分の頭で考える」から「正しい判断」を下せるというわけだ。

バフェット流も「根源まで考える」

実はバフェットの「投資家の仕事は売買を行うまでにほとんどすべてが終わっている」という言葉もほぼ同じ意味だ。

バフェットは投資を実行するまでに「なぜ自分はこの企業の株式を購入するのか」という分析を5回(たぶんそれ以上)繰り返しているというわけである。

バフェットの投資は、売買回数の少ないことでも有名だ。「老子」の「無駄な戦闘で国力を消耗するのは愚かだ」という教えに沿ったものである。

同様に老子が、いざ戦わなければならなくなったときには「一撃必殺」で「確実に勝つ」ことを求めるのと同じように、バフェットの売買はまさに「一撃必殺」で大きな利益を得る。

昨年12月16日公開「バフェット流投資術の本質は『石橋をたたいて[大きなリスクを取る]』である」のように、普段は「石橋をたたいても渡らない」ほど慎重なバフェットも、「重要な局面」では「人々が恐怖におびえる中『勇猛果敢』な投資」を行う。

「人々が恐怖におびえる中」で大胆な行動ができるのは、「なぜなぜ分析(バフェット流)」で「投資の根源まで考えている」からである。だから市場がどのような恐怖におびえていようと、バフェットは「我が道を行く」ことができるのだ。

同様にトヨタも、なぜなぜ分析で根源まで考えているからこそ、「世界中の政府」、「新聞・テレビなどのメディア」、「評論家やコンサルタント」がどう言おうと「我が道を行く」ことができ、大成功するのである。

そもそも、投資家や経営者に要求されるのは「判断能力」である。世間の騒ぎに振り回されているようでは成功がおぼつかないのは自明だといえよう。

また、米国におけるバフェットの存在は偉大だが、大部分を占める「目先のことだけを考える『米国型経営者』」とはまったく異質な存在であるのも確かだ。むしろ、その哲学はトヨタあるいは多くの日本企業に近いとも思える。この点については、4月1日ZAKZAK拙稿「トヨタの『なぜなぜ分析』とバフェット氏の『哲学』の意外な共通点 将来を見据えた『日本型経営』が再び世界を席巻する」を参照いただきたい。

トヨタグループの躍進

そして「バフェットの哲学」は、ほぼすべての業種に通用し、バークシャー・ハサウェイはバラエティ豊かな業種の企業を傘下に収めている。

そして、2019年7月以来約5年間投資を続けている、日本の大手総合商社5社もほとんどすべての産業に関わっている。「バフェット流」における「なぜなぜ分析」は、ほぼすべての業種に有効であるといえるのではないだろうか。

同様に、前記「もはや『財閥』、トヨタグループ――世界や新聞・テレビからバッシングを受ける中で王道を歩む『永久保有銘柄』」冒頭「トヨタはやはりすごい」で紹介した主要17社も「なぜなぜ分析」によって確実に成長していくであろう。

特に、その中でもデンソーと豊田通商が注目される。

読者にもなじみが深いQRコードは、デンソーがトヨタ生産システムに対応するため開発した(詳細は、前記「大原浩の逆説チャンネル<第58回>トヨタグループはこのまま快進撃を続け『財閥』になるのか。顕わになったEV化・脱炭素の欺瞞」などを参照)。この特許が公開されたことによって世界中に広がり、今や製造業を飛び越えた商業活動などにおいて極めて重要な役割を果たしている。

「なぜなぜ分析」やTPS(トヨタ生産システム)が製造業の枠を飛び越えて広がった典型例と言えるであろう。

また、豊田通商は元々自動車関連のビジネスが中心であったが、加商やトーメン、さらにはフランス最大の商社であったCFAOとの融合によって、バフェットが投資をした5大総合商社に引けを取らない存在になっている。

デンソーや豊田通商が「なぜなぜ分析」や「TPS」の、他産業への「伝道者」として活躍するのかもしれない。

なぜトヨタはバッシングされるのか?

しかし、このような快進撃を続けるトヨタが、新聞・テレビなどのメディアからバッシングされることが多い。

確かに、新聞・テレビなどが後押しした「EV化バブル」とトヨタが距離を置いていたことは確かだ。

また、トヨタが今や世界ナンバーワンの自動車メーカーであり、「強者を嫌い、弱者に味方する『判官びいき』」という心情を呼び起こしている側面もあると思う。

だが、「正しい判断をし、正しい行動を行う」トヨタが、「誤った言説を流し、誤った行動をするメディア」にとって疎ましいことが根本原因であると思われる。

例えば産経新聞 2021年7月20日「トヨタのCM見送り、IOCなどに強い不信感」である。

昨年8月5日公開「万博もオリンピックも20世紀の遺物、大阪万博は開催すべきなのか? そしてパリ・オリンピックも?」、2021年3月9日公開「敢えて問う…そもそもスポーツの祭典はオリンピックでなければならないか?」との状況の中で、堂々と「正論」を述べたのだ。

また、東洋経済 2016年9月24日「電通、デジタル広告で”不適切取引”の裏事情 顧客トヨタの指摘で発覚、広告の未掲出も」、やITメディア・ビジネス 2016年9月27日「電通とFacebookの不正業務から考える ネット広告の問題点とは?」などのように、トヨタは広告・メディア業界の暗部にも大胆に切り込んでいる。

広告・メディア業界からトヨタが好かれていないのも当然であろう。

トヨタイムズに期待したい

もちろん、この問題に対してもトヨタは「なぜなぜ分析」を行ったはずだ。その結果、「本当にコミュニケーションを取りたい消費者」との接点の中心となるべく登場したと考えられるのが、2019年から開始されたトヨタの独自メディア「トヨタイムズ」である。

この試みが、「レクサス」、「ハイブリッド」、「次世代車・全方位戦略」のように大成功を納めるのかどうか注視したい。

TOP STORIES

発見・体験、日本旅行に関する記事
Top List in the World