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豊田章男の提案に「正直、耳を疑った」トヨタ・クラウン、“呪縛”から解き放たれた新発想のセダン【試乗記】

豊田章男の提案に「正直、耳を疑った」トヨタ・クラウン、“呪縛”から解き放たれた新発想のセダン【試乗記】

トヨタ・クラウンFCEV/価格:830万円。FCEVは鋭いモーターのピックアップにより俊敏なパフォーマンスを披露。スッキリとした印象のハンドリングと相まって運動性能はハイレベルにある Photo by Atsushi Harada

新たな発想で作られたセダン

FRプラットフォームでニューフォーマルを提案

 16代目クラウンの企画当初はクロスオーバーのみの設定だった。それが、クロスオーバーがある程度カタチになった段階で豊田社長(当時)から「セダンも考えてみないか?」という提案があったという。クラウンを開発するMSカンパニーの中嶋プレジデントは「正直いうと、耳を疑いました。でも『セダンの呪縛が解けたいまだからこそ、新たな発想でセダンを作りなさい』という問いかけに聞こえました」と当時を振り返る。

 そんな経緯で誕生したのが、今回紹介するセダンである。ネーミングは単に“クラウン”を名乗る。

 最大の特徴は他がエンジン横置きの4WDなのに対して、縦置きレイアウトのFRを採用した点。これはMIRAIをベースにしたためだ。同じ車名で2つの異なるレイアウト(プラットフォーム)を用意した例は、過去のトヨタ車を振り返ると1980年代のコロナ/カリーナ、そしてカローラ/スプリンターまで遡る。

 エクステリアは水平基調&クーペライクなプロポーション。伸びやかさ&煌びやかさを巧みに演出した。ボディサイズはシリーズ最大で全長×全幅×全高5030×1890×1475mmだ。

豊田章男の提案に「正直、耳を疑った」トヨタ・クラウン、“呪縛”から解き放たれた新発想のセダン【試乗記】

クラウンは写真の標準仕様に加え各部の加飾を漆黒メッキで仕上げ、足元を245/45ZR20タイヤとブラックスパッタリング塗装で引き締めた“ブラックパッケージ”(op19万8000円)を設定。ボディ色は全6色

 インパネは16代目共通の意匠だが、大型の杢目調パネルや光物が多めの加飾、さらにコクピット感を高めたセンターコンソール周りなど、セダンらしいフォーマルさと高い質感をプラスした。

豊田章男の提案に「正直、耳を疑った」トヨタ・クラウン、“呪縛”から解き放たれた新発想のセダン【試乗記】

インパネはシリーズ共通デザイン。本杢目パネルと各部の専用加飾により独自の風格を演出。前席の着座ポイントは低くセダン独特の落ち着きが味わえる

 リアシートは3000mmのホイールベースを活かし余裕たっぷり。足元スペースは広く、乗降性も抜かりなし。前席よりも高いヒップポイントとウィンドウ面積の広さから、キャビンは寸法から想像する以上に開放的である。

豊田章男の提案に「正直、耳を疑った」トヨタ・クラウン、“呪縛”から解き放たれた新発想のセダン【試乗記】

シートはヒーター&ベンチレーション付きナッパレザー仕様。後席には乗員をマッサージするリフレッシュ機能を内蔵。室内長1970mm

豊田章男の提案に「正直、耳を疑った」トヨタ・クラウン、“呪縛”から解き放たれた新発想のセダン【試乗記】

トヨタ・クラウンFCEVリアシート

豊田章男の提案に「正直、耳を疑った」トヨタ・クラウン、“呪縛”から解き放たれた新発想のセダン【試乗記】

トランク容量はFCEVが400L/HEVは450L

水素を用いるFCEVと2.5LHEVを用意

走りは快適&スポーティ、高い実力の持ち主

 パワートレーンは2種類用意。ひとつはクラウン初となるFCEVだ。MIRAIのシステムを水平展開しシステム出力は182ps/300Nmを発揮。水素タンク容量は141Lで約5.6kgの水素を貯蔵可能。1充填で820kmの航続距離を実現している。

 FCEVの走りは電動車の魅力が明確。静かで滑らか、そして力強さを実感する。パフォーマンスはモーター車ならではのレスポンスの良さとピッチングを抑えた車両姿勢が相まって、車両重量2000kgを感じさせない。思いのほかスポーティだ。静粛性は高剛性ボディに加えて入念な遮音・防音対策により、初代セルシオの感動が蘇るレベルにある。

 もうひとつはHEVだ。2.5L+モーターに有段ギア(4速AT)を組み合わせたマルチステージハイブリッドを採用。エンジン最高出力を使用できる速度域を下げ(約140→約43km/h)、高速走行時は回転数を抑える制御の採用で、2.5Lながら動力性能と燃費性能(WLTCモード:18km/L)を両立させている。

 走らせるとクロスオーバーやスポーツよりも電動車感が強く、ダイレクトな味わい。いわゆるメリハリが感じられる。ただし、EV→HEV切り替え時に一瞬感じるもたつき、エンジン始動時に“ブルン”と伝わる振動、さらには回生時のATのシフトショックなど、ややスムーズさに欠けるのは残念。静粛性もFCEVと比べると劣る。とはいえANC(アクティブノイズコントロール)の効果もあり、エンジンを回しても音はさほど気にならない。静粛性のレベルは、トヨタHEVの中では最上位にある。

 フットワークはFCEV、HEVともにハイレベル。FRレイアウトのよさが活きている。ドライバーズカーとしても魅力的だ。クロスオーバーなどと比較して“よりスッキリ”、“よりスムーズ”、“より素直”なコーナリングが可能だ。サスペンションは16代目の中で最もソフトな設定だが、姿勢変化とロールは抑えられ安定したコーナリングを見せる。このあたりは基本性能(低重心/ワイドトレッド/前後重量配分)のよさが大いに効いているはずだ。

 乗り心地は路面へのアタリ、足の動き、ショックの吸収性などすべてにおいて優しい。凹凸を乗員に伝えないという点は、センチュリーを除けばトヨタ車最良、レクサスを含めてもトップに位置する。

セダンは従来以上にセダンらしい

ひとつの完成形

 ブラックパッケージ(op19万8000円)の20インチ仕様は45タイヤ装着とは思えない入力の優しさと無駄な動きを抑えたバネ上のフラット感が見事である。標準の19インチ仕様は「エアサス付き?」と錯覚するレベルで、クラウン伝統の味わいを色濃く受け継ぐ。

 ドライブモードはショーファーニーズに合わせてリアシート優先のリアコンフォートを用意。体感すると路面の凹凸を伝えにくくするAVS設定と無駄な動き(とくにヨー方向)を出しにくいEPS制御の効果が顕著に感じられる。後席では、ある意味クルマに乗っていることを忘れる。

 結論にいこう。セダンは従来以上にセダンらしいと感じた。16代目は4種類のバリエーションを備え、各々に明確なキャラクターが与えられたことで、いままで以上に“クラウンらしさ”を突き詰めることに成功している。

 つまり、16代目の“変革と挑戦”はクラウンを打ち壊したと思いきや、実はそのDNAをより濃厚にしたと、分析している。超一級の快適性と環境性能を誇り、しかもドライビングの楽しさを実現したニューフォーマル。セダンはひとつの完成形といえる。

(CAR and DRIVER編集部 報告/山本シンヤ 写真/原田 淳)

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