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車幅は小さく、荷台は大きく、壊れない…日本の軽トラが「世界でいちばん実用的なクルマ」と絶賛される理由

車幅は小さく、荷台は大きく、壊れない…日本の軽トラが「世界でいちばん実用的なクルマ」と絶賛される理由

※写真はイメージです

かわいいだけでなく、非常に利便性も高い

日本の軽トラックが、アメリカで農村部を中心に支持を集めている。

軽自動車は日本独自の規格だ。アメリカではめずらしく、コンパクトな独特なデザインが新鮮に受け止められている。箱形に切り取られたようなスタイリングは、どこか奇妙でありながらも、愛らしい存在などと受け止められることが多い。

なかでも今年に入ってメディアの注目を集めているのが軽トラックだ。英エコノミスト誌が「驚くほど便利」と評価し、デイリー・メール紙が「世界一実用的なクルマ」と称賛する声を取り上げるなど、小型に見合わない実用性が支持されている。安価かつ一定の悪路走破性があり、多少古くとも信頼できる日本製ということで評判を集めているという。

米有力自動車メディアの「カー・スクープス」は、「日本の軽トラがアメリカの地方の人々のあいだでますます普及している」と報じている。「かわいいだけでなく、非常に利便性も高い」との評価だ。

農作業や趣味の相棒にしたいと、中古車をわざわざ日本から取り寄せる人々が増えている。もっとも、多くの軽トラックは現地の保安基準を満たさない。だが、製造から25年経過した車は安全・環境基準を満たさなくても輸入が認められるアメリカの「25年ルール」によって輸入が可能に。その人気を後押ししている。

安くて、悪路にも強いクルマ

イギリス発の国際経済誌『エコノミスト』は、アメリカで愛される日本車事情を紹介している。記事に登場するのは、米ノースカロライナ州に住む農家のジェイク・モーガンさんだ。

モーガンさんは、広大な敷地内の移動に適したクルマを探していた。当初は「サイド・バイ・サイド・ビークル」と呼ばれる、バギーに似たクルマに興味を持っていた。レジャーや農作業用として近年人気のATV(全地形対応車)の一種だ。運転者と同乗者が横に並んで乗車でき、ぬかるみなど不安定な地形の走行に定評がある。

だが、インターネットでの情報収集を通じ、日本製の軽トラックがより適しているのではないかと考えるようになったという。カー・スクープは、サイド・バイ・サイドが3万ドル(約430万円)もすることを挙げ、軽トラックなど他の選択肢に目を向けることは「理に適っている」との見方を示している。

ホンダ「アクティ・トラック」を29万円で手に入れる

モーガンさんが1977年式のホンダ「アクティ・トラック」を農園に迎え入れるまで、数カ月とかからなかった。入手してみると、「驚くほど便利です」と目を見張ったという。満足したのは価格だけではない。車幅が1.5メートルにも満たないアクティは、非常に身軽だ。

アメリカでは大型のピックアップトラックがよく利用されている。多くは2~4シーターで、後方は屋根のない広い荷台となっている。SUVほどの大型のサイズが主流だ。一方で日本の軽トラは、ピックアップトラックでは進入できないような狭い空間を得意とする。荷物の積み下ろしのため、必要ならば小さな納屋に入ることも自由自在だ。

また、公道走行に規制があるサイド・バイ・サイド・ビークルとは異なり、軽トラなら一部の州を除いてこうした規制はない。この点はモーガンさんにとっても、大きな魅力であったという。入手にかかった費用は合計で約2000ドル(約29万円)と低価格で、モーガンさんは良い買い物をしたと喜んでいる。

あまりに気に入ったため、1台目の軽トラックを購入した後すぐに、さらに機能が充実した2台目の軽トラックに乗り換えたほどだ。エアコンを完備し、ボタン一つで荷台が傾く「アクティブダンプ」を装備した新たな相棒が、モーガンさんの農園での作業を今日も支えている。

「ホンダだったら不安はない」

別の導入事例も報じられている。米ニュースサイトの「インサイダー」と有力自動車情報サイトの米「オート・ブログ」は、南部アラバマ州の養蜂農家であるシンディ・ブライアントさんを特集している。68歳にして現役の養蜂家だ。

彼女は今年3月、前掲のモーガンさんと同じくホンダ「アクティ・トラック」を購入した。Facebookを見ていたところ、1996年式のアクティが5500ドル(約80万円)で売りに出されているのを発見。すぐに支払いを済ませ、その月のうちに入手したという。

元々はフォードのSUVも視野に入れていたブライアントさんだが、大きすぎると考え直し、よりコンパクトなクルマを探していたという。アクティは彼女の条件にぴったり合致したが、中古の日本車を購入するのは初めてで、若干の不安もあった。

幸運にもブライアントさんの場合、同じ業者と、Facebookのマーケットプレイスを通じて以前にも取引した経験があり、その点では安心して購入することができた。また、購入にあたり実際のクルマを見た際、同行した友人が「ホンダだったら僕なら不安はない」と背中を押してくれたという。

今ではすっかりブライアントさんの愛車だ。黄色のラッピングを施して、蜂蜜をたっぷりと湛(たた)えた蜂の巣の模様をあしらった。ブライアントさんは5万匹以上のミツバチを飼育しており、巣箱は18個存在する。荷台に積み込んでどこへでも持っていけるアクティは、彼女の日々の作業の強い味方となった。

「世界で最も実用的なクルマ」と絶賛

SNS上では、日本の軽トラックの利便性を紹介する動画が数多く投稿されている。イギリスのデイリー・メール紙はこうした動画の中で軽トラが「世界で最も実用的なクルマ」と称賛されていると指摘する。

軽トラの強みは、その値段と実用性だ。デイリー・メールは、安くてコンパクトなクルマを求める人々の間で人気を博していると分析している。アメリカから好んで輸入される軽トラは、AWD(全輪駆動)のものが多い。通常の乗用車よりも悪路走破性に優れ、大型の資材の運搬にも適している。

米オート・ブログによると、燃費のよさも評価が高い。養蜂家のブライアントさんの場合、燃費は50mpg(約21km/L)と良好だ。乗り方にもよるが彼女の場合、3月から6月までの間にわずか2回しか給油していない。

手ごろな車両価格も魅力だ。インサイダーによれば、ある輸入業者を通じて日本から輸入する場合の価格は、計約5000ドル(約73万円)からとなっている。この業者は「過去7年間で当社の売り上げは毎年伸びており、その大部分が軽自動車によるものです」と明らかにしている。牧場や農場の経営者からの需要が高い一方で、サーフボードを運びたいサーファーや獲物を運びたいハンターなど、個人ユースでも注目を集めているという。

人気を支えるアメリカの“25年ルール”

輸入車に関する規制は州ごとに異なるが、少なくとも25年以上前に製造された車両であれば、アメリカの安全・環境基準の適用が免除され、輸入することができる(アメリカ運輸省)。いわゆる「25年ルール」だ。

『エコノミスト』誌によれば、この免除ルールは元々、ヴィンテージカーを対象とした特別措置であった。しかし、この制度を活用することで、1990年代に造られた日本の軽トラックがアメリカでも輸入できるようになった。

便利さが評価される一方で、軽トラックにも弱点がある。養蜂家のブライアントさんは身長160センチ程度だが、それでも運転席を窮屈に感じることがあると語っている。

車両が27年以上前のものであることから、がたつきによる不安も存在する。一度、75mph(時速約120キロ)で走行した際には、さすがに不安を覚えたという。以後は速度を控えるようにし、愛車に「メイ・ポップス号(いまにもはじけそう号)」とのニックネームを付けて愛用している。

アメリカの人々にとって、車両の仕様に関しても注意が必要だ。デイリー・メール紙は、日本の軽トラックは基本的に右ハンドルであるほか、古いものにはエアバッグが装備されていない場合もあると注意を促している。

車格は小さいのに、積載能力は十分

それでも日本の軽トラックを選択する人々が絶えない。アート・カルチャー関連のウェブサイト「マイ・モダン・メット」は、5000ドルで手に入る日本の軽トラックが「アメリカを席巻している」と報じている。

安価なだけでなく、ちょうどよいサイズ感も受けているようだ。同サイトは「通常のトラックよりもはるかに小さく、コンパクトカーよりもはるかに大きな積載能力を持つ軽トラックは、アメリカ人にとって必要な車種の隙間を埋める存在だ」と分析している。

さきに経年劣化の問題を挙げたが、さほど問題視しない向きもある。日本車はもともと信頼性が高いため、多少年季が入っていたとしても、信頼してハンドルを握るドライバーは多いようだ。

同記事によれば、気取らないスタイルだけでなく、高い信頼性でも海外の人々の心をつかんでいるという。アメリカで日本の軽トラックはディーラーから入手できず、購入手段は中古車の輸入にほぼ限られるが、それでもほとんどは状態が良いとのことだ。

長期的なメンテナンスをむしろ楽観視する声もある。『エコノミスト』誌は、最新車種にある電子装備が少ないため、修理が容易であるという点が強みだと指摘している。

日本の農村から、アメリカの農村へ

同誌は、衝突安全性に限界があるため「軽トラックは明らかにアメリカのワイルドなハイウェイ向けではない」と指摘しつつも、「その小さなサイズと信頼性、そしてのんびりとした雰囲気で海外の人々の心をつかんでいる」との評価を贈っている。

日本でも軽トラックは、都市部の工務店から地方の農家までに愛用されている。アメリカの郊外の一部でも、絶妙にちょうどよいサイズ感が受け、わざわざ輸入してまで乗るほどの人気を博しているようだ。

———- 青葉 やまと(あおば・やまと) フリーライター・翻訳者 1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。 ———-

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