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ホンダ「バイアルスTL125」に宿る、トライアルへの情熱とトレッキングの芽生え

「バイアルス」と「イーハトーブ」の功績とは

 トライアルの始まりは、バイクの誕生と同時期で「耐久性を試す走行」と言われています。それが現在のような「走行が困難なセクションを足を着かずに走る競技」に変化し、欧州を中心に普及していきました。

ホンダ「バイアルスtl125」に宿る、トライアルへの情熱とトレッキングの芽生え

1973年に発売された国産初の本格的トライアルマシン、ホンダ「バイアルスTL125」

1973年に発売された国産初の本格的トライアルマシン、ホンダ「バイアルスTL125」

 今回紹介するホンダ「バイアルスTL125」は、1973年に発売された国産では初の本格的トライアル車です。「バイアルス」という名称は「BIKE」+「TRIAL」=BIALSという造語で、「トライアル走行に適したバイク」という意味で名付けられました。

【画像】ホンダ「バイアルスTL125」と「イーハトーブ」の詳細を画像で見る(19枚)

 車体構成やエンジン特性はトライアル車でありながら、灯火類を装備した公道用の市販車でもあり、「自宅から走り出して、野山や自然の周辺を駆け巡る」そんな楽しみ方ができるバイクでした。

 エンジンは「SL125」に使用された排気量125ccの4ストロークエンジンをベースに、1-2-3速はトライアル用の低速用クロスレシオに、4-5速は公道用にワイドレシオに設定されました。エンジン特性は超低速重視で0.85kg-mを4000rpmで発揮します。

 1人乗りに割り切った車体はステップの位置やペダルのレイアウトにも配慮し、軽量かつスリムに仕上がっています。そのフレームのエンジン下にはスキッドプレートがあり、最低地上高は260mmです。

「国産初のトライアルマシン」という事で、当時のカタログには車両解説の他に、スタンディングスティルやウイリー、ステアケースなどの走行テクニック紹介にページを割いており「トライアルを普及させたい」という思いが伝わってきます。

ホンダ「バイアルスtl125」に宿る、トライアルへの情熱とトレッキングの芽生え

トラアイル車のマシン操作に適したフラットでワイドなハンドル。舵取り角度は左右50度

トラアイル車のマシン操作に適したフラットでワイドなハンドル。舵取り角度は左右50度

「バイアルスTL125」発売と同年、トライアル発祥の地スコットランドで100年以上の歴史を持つSSDT(スコテッシュ・シックス・デイズ・トライアル)に、3名の日本人が参戦します。「バイアルスTL125」の競技的性能はほどほどでしたが、トシ西山さん、成田省造さん、万澤康央さんら3名は見事に完走し、入賞しました。

 この「バイアルスTL125」を皮切りに、国産各社から次々とトライアルマシンが発売されます。日本国内にトライアルブームが湧き上がり、全日本選手権も始まりました。

 ホンダも1975年には競技専用車の「バイアルスTL250」、1976年には入門に最適な「バイアルスTL50」を発売し、排気量帯を拡大していきました。

 ところが、日本国内でのトライアルは2ストローク車を中心として競技志向に走り過ぎ、第1次トライアルブームは盛り上がりから数年で下降線を辿ります。

ホンダ「バイアルスtl125」に宿る、トライアルへの情熱とトレッキングの芽生え

エンジンは「SL125」(1970年代初期)をベースにしたもので、アイドリングでも滑らかに走行できる低速重視な特性

エンジンは「SL125」(1970年代初期)をベースにしたもので、アイドリングでも滑らかに走行できる低速重視な特性

 そんな中で、ホンダのモーターレクリエーション部門のトライアル普及事業にも携わっていた成田さんと万澤さんは「自分達がSSDTで感じたトライアル本来の楽しさをもっと知って欲しい」と、1977年に「出光イーハトーブトライアル」を開催します。

 岩手県の豊かな自然を舞台に、公道で移動しながら2日間で行なわれるその「ツーリングトライアル」は、日本のトライアル界がドン底状態の時期にスタートしました。

 ツーリングトライアルという概念自体が新しいモノで、成績よりも楽しむことを大事にする雰囲気も好評でしたが、すでにトライアルブームが去ってしまい、参加者が購入できるトライアルバイクがありませんでした。

 ナンバーを取得できるトライアル車は限られており、オフロード車の「XL250S」などで参加するライダーもいましたが途中で壊れてしまう状況で、「出光イーハトーブトライアル」の参加者からは新たなトライアル車を求める声が上がります。

 そうして1981年に、ホンダから「バイアルスTL125」をベースにした新型トライアルマシンが発売されます。その名も「イーハトーブ」です。

ホンダ「バイアルスtl125」に宿る、トライアルへの情熱とトレッキングの芽生え

1981年に発売されたホンダ「イーハトーブ」は、予想を上回るヒットモデルとなった。当時の販売価格は24万8000円

1981年に発売されたホンダ「イーハトーブ」は、予想を上回るヒットモデルとなった。当時の販売価格は24万8000円

 低速トルクが豊かな排気量125ccの4ストロークエンジンはそのままに、トライアル走行はもちろん、トレッキングやツーリング、釣りやキャンプにも使える用途の広いバイクに仕上げられていました。

 スタイリッシュなデザインの「イーハトーブ」にはCDI点火に刷新されたエンジンが採用され、フロントにはセミエアサスペンション、リアには加圧ガスを封入した倒立ダンパーが装備されました。

「イーハトーブ」は「出光イーハトーブトライアル」の参加者だけでなく、一般のライダーにも広く受け入れられて当初の予想を大きく上回るヒットモデルとなりました。

 ちなみに「出光イーハトーブトライアル」は半世紀近い歴史を積み重ね、現在でも開催されています。

「バイアルス」と「イーハトーブ」は、トライアル走行の楽しさを伝える役目を担い、その後「TLR200」へと継承されて、トライアルは再び活性化するのでした……。

 ホンダ「バイアルスTL125」(1973年型)の当時の販売価格は15万2000円です。

■ホンダ「バイアルスTL125」(1973年型)主要諸元

エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ

総排気量:122cc

最高出力:8.0PS/8000rpm

最大トルク:0.83kg-m/4000rpm

始動方式:

車両重量:93kg(乾燥)

燃料タンク容量:4L

フレーム形式:セミダブルクレードル

【取材協力】

ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)

※2023年12月以前に撮影

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