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なぜトヨタはヴェルファイアを見捨てなかったのか…ミニバン界の2大ブランド「アルヴェル」の愛され方

なぜトヨタはヴェルファイアを見捨てなかったのか…ミニバン界の2大ブランド「アルヴェル」の愛され方

写真左=アルファード、写真右=ヴェルファイア(展示イベントにて)

6月21日、トヨタは約8年ぶりにフルモデルチェンジした新型アルファードとヴェルファイアを発売した。自動車ライターの小沢コージさんは「注目はヴェルファイアだろう。末期の販売比率は5%以下に落ち込んでいたようだが、新型が出たことで息を吹き返しそうだ。トヨタの巧みなマーケティングがうかがえる」という――。

クラウンを抜いて「高級車の顔」に

日本で一番売れるゴージャス系ラージミニバン、トヨタ・アルファード&ヴェルファイアが約8年ぶりにフルモデルチェンジしました。

そもそもこのマーケットを作ったのは、97年登場の日産エルグランドですが、後追いビジネスに強いトヨタらしく、02年には初代アルファード、08年には2代目と同時に、野性味あるマスクの兄弟車ヴェルファイアまで投入。

インパクトある外観とゴージャスさ、かつてない2つのキャラクターでライバルを凌駕。今や累計販売台数は国内ではアルファードが約118万台、ヴェルファイアが57万台と圧勝。合算月販では時に1万5000台を超えるほどです。

加え両車は、ラージミニバン界でトップセールスに立っただけでなく、かつて日本の高級車代表だったトヨタ・クラウンをとっくに超えました。販売台数で抜き始めたのは初代発売後の2000年代前半で、以来完全に高級車の顔になっています。

去年クラウンは16代目で突如クロスオーバーSUV化。今後、スポーツSUV、セダン、エステートとバリエーションが増えることも発表されていますが、ある意味、アルヴェル躍進により変化を与儀なくされたと言えなくもないかもしれません。

世界的に根強い「高級車=4ドアセダン」のイメージですが、日本や一部アジアでは「高級車=ミニバン」になりつつあり、その原動力こそアルファード&ヴェルファイアなのです。

なぜVIPに愛されるのか

アルファードが4代目、ヴェルファイアが3代目へとフルモデルチェンジしたのですが、そのモデルチェンジっぷりはまさしく横綱相撲。今や完全に売れるラージミニバンの勘どころであり、黄金比を知り尽くしているとも言えます。

新型の進化ポイントは多岐にわたりますが、まずサイズ感。基本見た目の良さやクオリティアップに絞られ、ミニバンとしての扱いやすさはほぼ現状キープ。

ミニバンといえば広さが最重要視されそうなものですが、全長こそ4〜5cm伸びているものの全幅、全高はほぼ変わらず。全長4995mm×全幅1850mmにとどまっています。

【新型アルファード】

全長×全幅×全高:4995mm×1850mm×1945mm

ホイールベース:3000mm

【先代アルファード】

全長×全幅×全高:4950mm×1850mm×1950mm

新型ヴェルファイア

全長×全幅×全高:4995mm×1850mm×1935~1945mm

【先代ヴェルファイア】

全長×全幅×全高:4935mm×1850mm×1935~1950mm

というのもこれは日本の立体駐車場のハイルーフパレットの限界サイズ(全長5000mm未満、全幅1850mm以下)なのです。いたずらにサイズアップするのではなく、扱いやすさを見極めた。このあたりは今のラージミニバン作りにおいて非常に重要です。

アルファード&ヴェルファイアは、国内では政治家や芸能人に特に愛用されています。見た目の押し出しも重要ですが、狭い道をぬっての有権者回りもせねばならない政治家には、取り回し性能も重要。政治家に限らずVIP御用達車としてはこれ以上大きくできなかったというのが真相でしょう。

デザインを向上しつつ、スペースは死守

エクステリアにおいて今回はかつての威風堂々さに、美しさやセクシーさまでプラス。特にサイドの抑揚は今まで以上のものがあり、逆にデザインにスペースがとられ、従来通りの広さを確保するのが難しかったとか。

しかし新型アルファード、ヴェルファイアの開発責任者である吉岡憲一チーフエンジニアは開発スタッフに「体脂肪ゼロパッケージだぞ」と言い聞かせ、室内のスペースを死守したと言います。このあたりの扱いやすさと広さ、スタイルのバランスポイントの高さにも注目なのです。

ロールス・ロイスに負けない乗り心地を

さらに面白いのが新型のフロアの高さです。かつてミニバン界では低床フロアがはやったことがありました。というのも床を低くすることは車両全体の性能向上に直結し、特にハイスピードコーナリングが安定し、ミニバン特有の腰高感を減らせるのです。

しかし新型アルヴェルはあえて「見晴らし感」を優先し、いたずらに低くはしませんでした。それどころか逆に走りの剛性感を上げるべく、サイドフレームを強化し、フロア高は微妙に上がっているともいいます。

吉岡エンジニアいわく「狙ったのは高級欧州セダンに負けない乗り心地」。具体的にはメルセデス・ベンツSクラスやロールス・ロイスなども参考にしたとか。

これまた特有の見晴らし感を死守しつつの走りと質感の向上。まさに「外せない要件」へのこだわりは他にないものがあります。

二律背反する性能の両立こそが新型アルヴェルの最大のキモ。サイズはあまり変わってないかもしれませんが、実に贅沢な作りのクルマなのです。

末期の販売比率はヴェルファイアが5%以下だった

もう一つ、今回のフルモデルチェンジで気になるのは新キャラクター戦略です。というか正確にはリバイバル戦略でもあります。それは吉岡エンジニアの言うところの「ヴェルファイアの復権」。

冒頭でも言ったように当初アルファード&ヴェルファイアがライバルに勝った背景には、他にない2キャラクター戦略がありました。

前者が正統派、後者がワイルド派と選べる楽しさ。ここにはかつてのトヨタのマルチ販売チャンネル対策もあったようですが、結果的に成功しました。特にヴェルファイアは一時ユーザーの3割が30代以下という驚異的なヤング比率。

しかし知る人ぞ知る事実ですが、現行モデルでアルファードは小沢が勝手に言う「鋼鉄腹筋グリル」を採用。このワイルドマスク路線は見事に当たり、同時に2020年のトヨタ全店全車種併売戦略もあって、イッキにアルファードへ人気が集中。

末期の販売比率はアルファードが90%以上で、ヴェルファイアは5%を切ったといいます。結果、当時の車種整理の動きもあり、一時は社内でもヴェルファイア撤退案も出たそうです。

当時私は関係者からこんな話を聞きました。

「小沢さん、知ってます? ウワサじゃあのマツコ・デラックスさんがアドバイザーもしてるって。今回ヴェルファイアがなくならなかったのはマツコさんの一言も大きいらしいですよ」

一部の若者に熱狂的に支持されているブランド

この話がどこまで本当かは定かではありませんが、ヤング客を独特の個性でつかんでいたのは事実です。

長らく若者のクルマ離れが叫ばれる中では傑出した人気であり、しかも平均購入価格400万円を超える。これほど若い客が熱狂的に大枚をはたくブランドはそうは作れません。そうしたユーザー重視の姿勢が動いたのでしょう。撤退案は退けられ、「ヴェルファイア復権」が決まりました。

今回、ヴェルファイアの顔はかつてないスッキリしたワイルドさになりましたが、それ以外の特色を与えました。それは専用の走り味です。

新型アルファード&ヴェルファイアは2.5リッターガソリンと2.5リッターハイブリッド、2.4リッターターボの3種のパワートレインが選べるのですが、中でもパワフルな279psの2.4リッターターボはヴェルファイアでしか選べません。

加えヴェルファイアのみ専用ボディ補強パーツのフロントパフォーマンスブレースが入り、現状全グレード19インチタイヤ&ホイールで、硬めの専用サスペンションも採用されています。やんちゃな心をくすぐる見た目に加え、乗り味までスポーツに特化したグレードへと進化したのです。

それぞれがより違うクルマとなった

新型アルファードは従来のいかつさにエレガントさを加えた一方、ヴェルファイアは顔をスポーツワイルド路線にし、走りもスポーティにする。この結果、新型アルヴェルは、それぞれがより違うクルマとなりました。

オーソドックスな客をアルファードで取り、スポーツ指向の客をヴェルファイアで取る。このあたりの作り分けであり、ユーザーマインドの読み取りはさすがトヨタ。今後ますます幅広いユーザーにウケることでしょう。

実際、今の高級車ユーザーの嗜好は言うほど単純ではありませんし、年齢幅も広い。かつてのクラウンに上質なロイヤルとスポーティなアスリートのキャラクター設定があったように、高級ミニバンにもいろんなキャラがあってもよいはずなのです。つくづく新型の売れ行きが楽しみになってきました。

———- 小沢 コージ(おざわ・こーじ) バラエティ自動車評論家 1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。 ———-

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