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絶対王者N-BOXに勝つためにはここまでやる…スズキの新型スペーシアがインパネに新設したすごい装備

絶対王者n-boxに勝つためにはここまでやる…スズキの新型スペーシアがインパネに新設したすごい装備

左がホンダ「N-BOX」、右がスズキ新型「スペーシア」

スズキが昨年11月に発売した新型「スペーシア」が好調だ。自動車評論家の小沢コージさんは「同じ軽スーパーハイトワゴンのホンダN-BOXとは、見た目、室内空間、走りとすべての面で対照的な車だ。いまや国民車となったN-BOXの座を脅かす存在になるかもしれない」という――。

売れまくっているN-BOXとスペーシア

実は昨年末、ひそかに日本マーケットを揺るがしかねない2台の軽自動車が登場していました。10月に新型ホンダN-BOX、翌11月に新型スズキ・スペーシア。

どちらも3代目となる日本を代表する「両側スライドドア付き軽スーパーハイトワゴン」ですが、今後数年にわたり乗用車マーケットに君臨する可能性を秘めているのです。

実際、直近2024年1月の月販を見ると、乗用車の1位はN-BOXで、2位トヨタカローラ、3位同ヤリスと来て4位にスペーシア。

(※普通自動車は日本自動車販売協会連合会のデータ、軽自動車は全国軽自動車協会連合会のデータをそれぞれ参照)

しかし、カローラはセダンやワゴンやSUVなど5ボディほかの合算、ヤリスがハッチバックとSUVの合算であることを考えると、単一ボディでは1位がN-BOXで2位がスペーシアとなります。

いやいや、日本の乗用車もすぐバッテリーEVになるでしょ? と思っている人は甘い。

2020年代後半、中国や一部の欧州ではバッテリーEVが半数近くになる可能性を秘めていますが、グローバル、中でも日本マーケットは簡単ではありません。

当分新型N-BOXとスペーシアがマーケットを引っ張ることでしょう。しかも今回、両車が両極端の方向で進化しているから面白いんです。

安くて、広くて、質が高くて、良く走る

そもそも、ここ10年の国内販売ナンバーワンはなにか知っていますか? 文句ナシでホンダN-BOXです。

問答無用の新国民車で、2011年に初代が出て以来、2012年以降は軽ジャンルでは1位と2位しか記録したことがなく、直近でも2015年から23年まで9年連続ナンバーワン。

登録車含むオールジャンルでも、2021年こそトヨタヤリスに1位を譲りましたが、前述通りヤリスとヤリスクロスとの合算であることを考えると事実上の単一ボディ販売1位。オールジャンルでもN-BOXは7年連続で1位に輝いたことになります。

この全高1.7メートル台で両側スライドドアを持つ軽スーパーハイトワゴン市場は2003年にダイハツ・タントが生み出したものですが、室内の広さ感はヘタなリッターカー以上で質感でもN-BOXが軽レベルを超えたものを生み出してしまいました。

安くて広くて質が高くて良く走る。そういう意味では今このジャンルを超えるものはないのです。

スペーシアを選ぶお客の特徴

現チャンピオンとも言うべき新国民車、3代目N-BOXに真っ向から挑んでいるのが3代目スペーシア、という構図になります。

元祖ダイハツ・タントもありますが例の認証問題で販売を控えていますし、日産ルークスと三菱デリカミニは少々個性派路線。

ただし、スペーシア開発責任者の鈴木猛介さんによると「うちのお客さまはN-BOXさんとは少し違うと思います」と。

N-BOXがホンダ・フィットやシビックからのダウンサイザー客を多く抱えているのに対し「スペーシアは既存のスズキ軽からのステップアップが多い」とか。

具体的には軽ベーシックのアルト、セミトールのワゴンRなどからのステップアップで、つまりスズキの軽ヒエラルキーの中で最も広く便利でクオリティの高いクルマがスペーシアというわけなのです。両車は目指しているイメージがかなり違うのです。

対照的な外観

今回最初にチェックしたのはエクステリア。このカテゴリーでは大抵のクルマで「標準」と「カスタム」と2つのデザインが選べます。

「標準」の車同士で比較すると、N-BOXは今まで以上にシンプル&クリーン路線で攻めています。あえて言うと「オシャレ雑貨」路線です。

例えばフロントマスクはシンプルな丸目LEDヘッドランプとボディ同色グリルの構成。グリルには電子レンジのようなドット風の穴があいており、ボディサイドの抑揚もシンプル至極。無印良品の家電コーナーに置いてあってもまるで違和感のないデザインです。

かたやスペーシアの「標準」は今まで以上にコテコテな道具感で攻めています。フロントグリルはシンプルな横基調ですが、ギラついたメッキで塗られ、バンパーも張り出した力強い造形。

さらにN-BOXと真逆なのはサイドデザインで、横長の凸凹リブが片側に3本も入ったプロテクター風。実は先代も似たテイストでしたが凸凹は控え目で「スーツケース」をモチーフとしていたのに対し、新型スペーシアのモチーフは「コンテナ」。

海沿いの港にあっても似合いそうなタフで力強いボクシーデザイン。それが新型スペーシアなのです。

N-BOXは無印良品、スペーシアはニトリ

車内はどちらもリビング感があり、お部屋っぽいデザインです。しかし、路線がこれまた違います。まずそれがうかがえるのはシートの表皮や形状です。どちらも家具調ですが、N-BOXはよりシンプルかつ上品さを追求し、表皮はよりキメの細かいファブリック。

かたやスペーシアはN-BOXよりキメが荒いザックリとした生地を採用。N-BOXが無印良品のソファだとしたら、スペーシアはニトリのソファー。そういったテイストの違いがあります。

さらに面白いのは収納スペースに対する考えで、新型N-BOXは収納をあえて減らしています。先代N-BOXにあった、運転席前のフタ付きモノ入れやドアノブ回りの小物入れを廃止し、その分フタ付きでグローブボックスのサイズを拡大しています。あえて言うと「オシャレな隠せるモノ入れ」に変えたのです。

なかでも印象的なのは助手席前の大容量のタナで、それを廃止し、より高い位置にコルフ風素材の少容量のタナを付けました。使いやすさ以上に、見栄えを重視した、これまたある種のオシャレ雑貨風インテリアです。

インパネにテーブルを作ったのは車中食のため

一方新型スペーシアはそれとは真逆で、N-BOXが今回捨てた助手席前の大容量タナをあえて採用。それも奥行きを今まで以上に広げ、利便性を高めています。

聞けば、消費税の軽減税率導入以降、コンビニでは弁当やカップ麺を店内で食べる人が減り、駐車場の車内で食べる人が増えたとか。

それを知ったスペーシア開発責任者の鈴木エンジニアは、決してオシャレではありませんがダイニングテーブル代わりにタナを用意したのです。

そのほかスペーシアはN-BOXにはないエアコンの冷気をリアに送る「スリムサーキュレーター」や「リア席UBS」に加え、前代未聞の「マルチユースフラップ」を初装備。

これは広いリア席を持つ軽スーパーハイトならではの新機能で、座面前に付けられたフラップを伸ばすと、高級車のオットマンさながらにひざ下を支えることができます。まさしく軽自動車ならではのアイデア装備。

内外装共によりオシャレ家電化したN-BOXに対し、より便利に道具化したのがスペーシアの真の姿なのです。

インテリアカラーや樹脂パネルもN-BOXの方が上質ですが、スペーシアはブラック樹脂に加えてカフェオレ色や茶色を使った3トーン構成。質感ではやはりN-BOXに分がありますが、ギミック感やインパクトではスペーシア。

方向性が異なるなかなか興味深いバトルとなっているのです。

上質感ではN-BOXだが…

最後に走りも方向性はかなり違います。

N-BOXもスペーシアも骨格は基本旧型のリファインですが、新型N-BOXがターボ&ノンターボ共にパワースペックキープで燃費のみ微妙に上げ、その代わりに乗り心地やハンドリング、静粛性と目に見えない質を上げています。

それに対し、新型スペーシアはノンターボに低燃費エンジンを投入したと同時に全車マイルドハイブリッド化。加えCVTの改良や低燃費タイヤの導入により、クラストップの燃費性能を獲得。

具体的にはノンターボのWLTC燃費は最良23.9km/LとN-BOXより2.5km/L以上良く、ターボは21.9km/LとこれまたN-BOXの1.5km/L以上良いのです。かたや逆に乗り心地は旧型と変わらずか、特にターボモデルは硬めになった印象で、やはり上質感ではN-BOXに軍配。

どちらに軽自動車らしくないリッチ感や静かさがあるといえば新型N-BOX。しかし、見た目に力強さやインパクト、分かりやすい低燃費スペックではスペーシア。

なかなかに侮れない新国民車バトルを繰り広げているのです。

———- 小沢 コージ(おざわ・こーじ) 自動車ライター 1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。 ———-

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