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気候変動対策、切り札は「水素」 普及拡大へ東京都が予算倍増

気候変動対策、切り札は「水素」 普及拡大へ東京都が予算倍増

東京都江東区の西濃運輸深川支店に3月に導入された燃料電池車の小型トラック。銀座や秋葉原など都心での集配業務に活用される=東京都江東区で2024年3月26日午前9時28分、秋丸生帆撮影

 東京都が2024年度から、気候変動対策の鍵を握るとみて水素関連の予算を倍増させる。これまで水素で走る燃料電池自動車(FCV)の購入や、ガソリンスタンドにあたる「水素ステーション」の設置を支援してきたが、新たに燃料電池を搭載した大型トラックの購入補助など商用車の普及にも力を入れる。都の政策は、水素の普及拡大に向けた起爆剤となるか――。

商用車の利用を後押し

 2月、水素普及に向けた課題を共有する官民の検討会「水素モビリティ・ステーション検討ワーキンググループ」の初会合が都内で開かれた。参加したのはFCVメーカー、水素ステーション運営事業者、物流事業者など約40の企業・団体。トヨタ自動車やENEOS(エネオス)など大手・有名企業が大半を占めた。

 担当者らを前に、検討会を主催した東京都の坂本雅彦・産業労働局長は「エネルギー危機、気候変動対策の切り札になるのは、都としては水素に他ならないと考えている」と発言。トラックやバスなど商用FCVの普及を後押しすることで都内の水素利用を加速させたい考えを示した。

 また坂本氏は、FCVが少ないことで水素ステーションの整備が進まず、水素ステーションが少ないことでFCVが導入されない「卵と鶏」と呼ばれる関係が世界の共通課題と指摘。行政が積極的に支援して状況を打開していくと訴えた。

ネックは高コスト

 FCVは、水素と酸素の化学反応によって電気を発生させる燃料電池を搭載し、電気で走行する自動車。走行時に二酸化炭素が排出されず、電気自動車(EV)に比べて走行距離が長いなどの特徴がある。

 水素は自然界にほぼ無尽蔵に存在し、次世代エネルギーとして注目されている。その一方で、水素の確保や供給体制は確立されておらず、水素の供給価格は化石燃料の最大12倍にあたる1立方メートルあたり100円程度で高止まりしている。車両価格は国産車で700万円以上となっており、ハイブリッド車よりも割高だ。

 経済産業省によると、水素ステーションは23年5月時点で整備中を含めて全国で181カ所。同4月時点のFCVの国内普及台数は7755台にとどまっている。23年に年間8万台以上が国内販売された電気自動車と比べると、普及の遅れは否めない。

予算倍増、203億円

 都は24年度当初予算で、水素関連事業として前年度の倍となる203億円を計上した。このうち大型トラックの購入補助(上限5600万円)や、軽油との価格差を埋める燃料補助に42億円を投じる。既存の水素ステーションを改修して大型商用車に対応するための費用も補助する。

 都は14年、乗用車タイプのFCVが水素需要をリードすると想定し、都内で20年までにFCVを6000台導入し、水素ステーションを35カ所整備する方針を打ち出した。しかし、23年時点でFCVは約1500台、水素ステーションは19カ所にとどまっている。

 乗用車だけでは普及が進まない現状を踏まえ、都は商用車の普及拡大に力を入れ始めた。昨年には燃料電池を搭載した小型トラックの購入補助を始め、現在までに都内には70台以上が導入された。30年ごろまでには、小型トラック3500台、大型トラック1000台が普及すると想定し、大型車に対応できる水素ステーションを既設を含め50カ所確保する予定だ。

 都の担当者は「FCVが登場したばかりの10年前とは状況が変わった。商用車の普及スピードは速く、市場規模も大きい。今後は商用車が需要をリードしていく」と話す。

 事業者側はこの動きをどう見ているのか。

 トヨタ自動車などが出資する商用車開発会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ」(東京)は国内で燃料電池を搭載した小型トラックを商品化している唯一の企業で、東京、福島、福岡の3都県に約90台を導入している。その半数以上が都内だ。

 同社の担当者は都の動きを「水素はコストの高さが課題。都の支援は普及の強力な後押しになる」と評価。「FCVは発展途上の技術。商用車が普及すれば、その技術を乗用車に還流し、乗用車の開発も効率化してコストを下げることができる」と話す。【秋丸生帆】

杉山正和・東京大教授(エネルギー工学)の話

 2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を目指すためには、エネルギー源を再生可能エネルギーに置き換える必要がある。太陽光や風力が中心になるが、それらは基本的には電力しか生み出さない。長距離トラックや大型建設機械など大きな力を常に伝え続けるものは、蓄電池による電動化は難しい。水素のようにエネルギー密度が高い燃料を使う必要がある。

 水素ステーションはEVの充電スタンドに比べてどうしてもコスト高になり数を増やしにくいので、ルートが決まった大きな乗り物に使うことが合理的だ。高速道路を利用する大型トラックや都内を巡回しているバスを水素で走らせるのは適切なやり方だ。

 カーボンニュートラルに向けて、これからはより大量に水素を使わなければいけない時代に入った。商用車の開発や普及を通じてさらに技術力を高めつつ、乗り物だけでなく工場などにさらに幅広く水素を活用できるよう、社会基盤の整備を急がなくてはならない。

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