テスラの価値は? 決めるのはあなた
米電気自動車(EV)メーカーのテスラのことが好きな人も嫌いな人も、同社の評価が自動車製造とはあまり関係がないという点では意見が一致するかもしれない。
EVの先駆者であるテスラの価値は、株式市場で最も関心が高い問いの一つだ。1日当たりの売買高が他の米国株を上回る日が多いことからもそれが分かる。価格を巡って意見が分かれることが売買の大きな要素となっている。
テスラが7-9月期(第3四半期)の納車台数を発表すれば、同社の評価を巡って多くの見解が飛び交うことになりそうだ。今年値下げを実施し、アナリストが同社の利益予想を引き下げたにもかかわらず、株価は堅調に推移している。
この議論に決着をつけられるとは思わないが、争点の一つに方を付ける手助けはできる。その一つとは、テスラは自動車メーカーではなくテック企業として評価されている、というものだ。
同社の時価総額が8590億ドルで、自動車業界の世界最大手で時価総額トップのトヨタ自動車の3倍以上であることを踏まえると、これは当然のことに思えるかもしれない。だが投資家は、こうした比較を見慣れているからといって、それが奇妙であることに目をつぶるべきではない。自動車でもうけている会社が、その価値の多くを他のものから得ているのは奇妙なことだ。
その価値とはどれくらいか。割引キャッシュフロー(DCF)法で計算してみよう。テスラの財務を単純化したモデルを作成し、同社の見通しに関するさまざまな仮定に基づいて理論的な企業価値を算出した。この数字に貸借対照表の現金(テスラの場合、現在230億ドル)を加えたものが、推定市場価値となる。
最後の仮定は取りあえず脇に置こう。テスラの中核的な自動車製造事業の価値を1兆ドル超と仮定することもできるが、売上高と利益率をかなり強気に見積もる必要があり、現実的ではない。同社が値下げによって成長を追求したことから分かるように、販売台数の最大化と利益率の最大化はトレードオフの関係にある。
数字で見てみよう。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は以前から、30年までに年間生産台数を2000万台にすると表明してきた。首位のトヨタの販売台数が昨年1050万台だったことを踏まえると、これは相当に野心的な目標だ。創業120年の米フォード・モーターは420万台だった。マスク氏の言葉通りなら、テスラは裕福な地域にも貧しい地域にも訴求できる世界的な大衆車ブランドになる、ということだ。
テスラがどのような企業になり得るかを示す最良の指針は、やはりトヨタだろう。トヨタの23年3月期連結売上高は1台当たり約2万8000ドルだった。この数字と、営業利益率を多めに10%と見積もり(大衆車メーカーでは1桁が一般的)、われわれのモデルに当てはめると、30年に2000万台を生産する自動車事業の企業価値は4450億ドルにしかならない。
一つ注意点がある。このようなDCF法は会社の資本コストである割引率に大きく左右される。ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスのアスワス・ダモダラン教授(コーポレートファイナンス・バリュエーション)は1月、自身のテスラ算出モデルに「金利とリスクプレミアムが上昇している世界」を加味し、割引率を10.15%に引き上げた。われわれは単純化するため端数を切り捨てて割引率を10%とし、4450億ドルという数字を導き出した。
例えばモルガン・スタンレーは今月、テスラのスーパーコンピューター「Dojo」の価値を最大5000億ドルと試算し、同社株を買い推奨リストのトップに置いた。これを受け、株価は10%上昇した。テスラはDojoを活用してドライバーなしの自動運転車の開発を進めている。モルガン・スタンレーは、より高速なコンピューターが自動運転車の利益創出を加速させるとみている。継続的に収入をもたらす運転支援ソフトウエア同様、ロボタクシーも有望視されている。モルガン・スタンレーが算出したテスラの企業価値では、中核の自動車事業はその4分の1程度を占めるに過ぎない。
このシナリオの妥当性には議論の余地がある。実現するかどうかは、テスラが自動運転で他の誰にもできない方法で解を見つけられるかどうかにかかっている。見方はそれぞれだが、実証されていない技術や稼ぎ方に委ねるにしては大きな価値だ。ダモダラン氏が指摘するように、未来の事業モデルは旧来の事業モデルの価値を損なう。もしロボタクシーが普及すれば、自動車を所有すること、ひいては消費者に自動車を販売するテスラの既存事業が打撃を受けるだろう。
EVが移動の未来を大きく広げる中、壮大な計画に取り組んでいる自動車メーカーはテスラだけではない。米ゼネラル・モーターズ(GM)は、サンフランシスコで運用を始めたロボタクシー事業クルーズについて、30年の売上高が500億ドルになると見込んでいる。だが投資家は、資本を流出させているこの事業を、潜在的な金脈というよりコストとみなしている。懐疑から巨額の評価を得ているのはテスラくらいだろう。
<評価方法>
ここで使用したモデルは、テスラの将来キャッシュフローの予測を基にしている。30年の予想新車販売台数に予想平均価格を乗じて売上高を出し、予想営業利益率を適用して営業利益を算出した。30年までの予想は、ファクトセットによる今年のアナリスト・コンセンサスの変数に大きな変化がないことを想定している。
営業利益の税率は11%とした(ファクトセットによる23年のテスラに関するコンセンサス)。キャッシュフローは、税引後営業利益から資本的支出を差し引き、減価償却費を戻し入れて算出。資本的支出は一律で売上高の7%、減価償却費は資本的支出の20%とした。
30年までの推定キャッシュフローに割引率を適用して現在価値を出し、合計した。30年以降のキャッシュフローを加味するため、成長率5%でターミナルバリュー(継続価値)を加えた。こうして導き出した推定割引キャッシュフローの合計を、テスラ自動車事業の現在の理論的価値とした。
他の事業にはこのモデルの別の仮説を適用して全体の企業価値を算出した。