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フォードのEV、中国で「テスラ流」通じず

フォードのev、中国で「テスラ流」通じず

 中国で何年も販売不振に陥っていた米自動車大手フォード・モーターに、電動化の波に乗って苦境を脱するチャンスが訪れた。

 同車は米電気自動車(EV)大手テスラに倣い、販売代理店を通さず消費者に車両を直接販売する方式を2020年ごろに導入した。さらに、疾走する馬をかたどった象徴的なエンブレムを冠した電動SUV(スポーツタイプ多目的車)「マスタング・マッハE」を発売した。同社の幹部らはこれがテスラのEVの強力な対抗馬になるとみていた。

 それから3年後、フォードは世界最大の自動車市場である中国でいまだに「負け組」から抜け出せず、中国戦略を再び見直す必要に迫られている。同社は8月、直販事業から撤退した。マッハEの売れ行きは芳しくなく、今年に入ってからの月間販売台数は数百台にとどまり、テスラや多くの地場メーカーの数万台には遠く及ばない。

 フォードの昨年の中国市場でのシェアは2%で、卸売りベースの販売台数は2016年比で61%減となった。フォードにとって中国は、販売台数が北米や欧州に次いで3番目に多い地域だが、収益面では長年足かせとなっている。フォードの中国事業は昨年、約6億ドル(約895億円)の赤字となった。

 フォードの中国事業に詳しい複数の関係者は、マッハEに中国語名を付けなかったり、EV市場の競争がどれだけ激しくなるかを過小評価したりするなど、マーケティング戦略と販売戦略に問題があると指摘する。また、直販店導入の遅さなど、実行面での問題もあるという。しかも、マッハEの同価格帯の競合車にはマッハE以上の性能を備えている車もあった。

 コンサルティング会社シノ・オート・インサイツの創業者、トゥー・レ氏は「フォードの中国でのEV戦略車はマッハEだった。それが通用しなかった時点でお手上げとなった」と述べた。

 フォードの広報担当者は、EV事業の強化に向けて現地仕様のEVを開発したり合弁パートナーと連携したりしていると述べた。また、同社には「新たな計画に軸足を移せるだけの機動力と決断力がある」とした。

 フォードのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は、中国事業の焦点を商用車に絞り、支出の削減や資産の軽量化に取り組み、中国を輸出拠点として活用していく予定だと述べている。同社は中国で先ごろ開催された自動車ショーで、「エクスプローラー」などのアウトドア車をアピールしていた。

 ファーリー氏が中国事業の戦略見直しに動いた背景には、同氏の前任者らが高い目標を掲げながらも未達に終わったことがある。

 フォードは米国でも中国とEVに関する問題に直面している。同社はミシガン州の新バッテリー工場について議会から厳しい追及を受けている。同工場では、EV向け電池で世界最大手の中国・寧徳時代新能源科技股(コンテンポラリー・アンペレックス・テクノロジー、CATL)の技術支援を受けて電池を生産する予定だった。フォードは25日、競争力のある操業が可能だと確信できるまで、建設工事を停止して工場への支出を制限すると発表した。

 フォードのマッハEでの苦戦は、中国で事業を展開する外国企業への教訓となる。機転が利く中国ブランドは、最先端技術を駆使していることも多い魅力的な製品を迅速に提供しているが、外国の有名ブランドは、たとえマスタングのような象徴的ブランドであっても、もはや市場で一定の地位が自動的に保証されることはない。

 中国勢にシェアを奪われた欧米自動車メーカーは方向転換を図っている。中国最大の外資系自動車メーカーであるドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は、EVの研究・調達センターの新設や地場企業との提携に数十億ドルを投じる計画だ。米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)は合弁相手の上海汽車集団(SAICモーター)と共同で、新プラットフォームをベースにしたEV15車種を2025年末までに中国で発売する目標を掲げている。

 既に中国から撤退したブランドもある。欧米自動車大手ステランティスの「ジープ」は、販売台数の減少に伴い中国での生産を終了し、輸入車のみの販売に切り替えた。

 フォードのファーリー氏は5月、同社は中国事業を継続するが、サービス対象者は限られるだろうと述べた。

 マッハEはフォード社内で、テスラに対抗できるSUVと考えられていた。事情に詳しい複数の関係者によると、フォードの市場調査では、マッハEは中国でテスラのSUV「モデルY」の直接の競合車になるとの見通しが示された。

 フォードはまた、EVの販売方法に関してテスラを参考にした。テスラは車両を顧客に直接販売するビジネスモデルを確立し、中国のEVブランドの多くも同社に追随していた。

 自動車メーカーが直販を採用すれば、顧客との関係深化、販売関連データの取得拡大、価格設定の自由度向上につなげることができる。だが、販売台数が少なければ、直販チャネルの運営はコストがかさみかねない。GMも「ビュイック」と「キャデラック」のEVの一部を中国で直接販売している。

 フォードは2020年、新たな直販ネットワークの運営を担うEV子会社を上海近郊の南京に新設した。また、EV技術の研究開発に専念する数百人のエンジニアも採用したと、事情に詳しい関係者らは述べている。

 フォードは2021年、同社初の直販車となるマッハEを26万5000元(約540万円)で発売した。さらに、中国でマスタングの生産を開始し、こちらも初の取り組みとなった。

 しかし、その時すでにEV市場では激しい競争が繰り広げられていた。マッハEが発売された週に、吉利汽車傘下のEVブランド「ジーカー」や小鵬汽車(シャオペン)といった中国ブランドが同価格帯のEVを発売した。テスラはすでに中国での自動車生産を始めており、21年には上海で生産したモデルYの現地向け納車を始めた。

 マッハEを同価格帯の車と比較した場合、航続距離はテスラのモデルYやシャオペンのセダン「P7」のベーシックグレードよりも短く、運転支援機能カメラ・レーダーは上海蔚来汽車(NIO)のSUV「ES6」よりも少ない。

 事情に詳しい複数の関係者によると、マッハEは中国でのバッテリー調達問題などが原因で発売・納車が数カ月遅れた。

 また、フォードは中国で、電池・EVメーカーの比亜迪(BYD)が生産する三元系リチウムイオンバッテリー(ニッケル、マンガン、コバルトを使用したもの)を採用したという。

 ところが、マッハEが発売された直後、BYDは別の技術を使った新しいタイプのバッテリーに注力するようになり、それが市場で人気を博した。フォードの広報担当者によると、BYDのバッテリー生産は当時、中国政府の厳しい新型コロナウイルス関連規制によって中断され、マッハEの立ち上げの遅れにつながった。

 外国ブランドの自動車を中国で展開する場合、現地での認知度を高めるために中国名を付けるのが一般的だ。しかし、マッハEには発売から1年以上も中国語名が与えられなかった。2018年にフォードが、「野馬(非公式だがマスタングの愛称として一般的に知られる)」という名称を使用した中国の自動車メーカーに対する商標権侵害訴訟で敗訴したことが原因だった。

 フォードの発表によると、2021年にマッハEを発売した当時、同社は中国各地に約20店舗を構えていた。2023年初めには、103の店舗と試乗センターがあったという。だがそれでも、中国の一部ライバル企業が提供する施設の数分の一に過ぎなかった。

 マッハEの販売は軌道に乗らなかった。フォードの直近データによると、2022年1~9月の同車の販売台数は約5000台だった。中国では同年、純EVの販売台数が400万台を超えた。

 フォードはテスラのような直販を断念し、最近ではディーラー経由での販売に回帰している。フォードは今年に入り、南京のEV子会社の従業員を解雇した。

 8月には、フォードと中国国有大手・重慶長安汽車の合弁会社「長安福特汽車(長安フォード)」が、マッハEの販売・カスタマーサービス・アプリを引き継いだ。

 フォードの広報担当者によると、同社は長安フォードの既存のディーラー網を活用してマッハEの販売チャネルを拡大する方針だ。長安の会長は5月、フォードと共同で2024年に中国で新型EVを発売する予定だと明らかにした。

 ファーリー氏は同月、BYDのような巨大企業に対抗するには、コストで打ち勝つか、差別化できるブランドに賭けるしかないと述べた。

 「中国事業は投資の抑制やスリム化を進め、より焦点を絞ったものになる」と同氏は語った。

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