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米ビッグ3、賃上げよりEVが足かせに

米ビッグ3、賃上げよりevが足かせに

米ビッグ3、賃上げよりEVが足かせに

 米3大自動車メーカーは従業員の要求にどこまで応えられるのか。それを左右する要因の一つは、消費者がいつ電気自動車(EV)に乗り換えるかだ。

 全米自動車労働組合(UAW)によるストライキは29日で3週目に入り、さらに拡大する可能性がある。自動車メーカー側はUAWの要求は受け入れられないとしており、交渉に進展の兆しはほとんど見られない。

 ジョー・バイデン米大統領はストの現場に現れてUAWへの支持を表明。一方、メーカー側には競合である米EVメーカー、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が援護に回った。同氏は自身のソーシャルメディア「X」で、40%の賃上げと週32時間労働の組み合わせは「GM(ゼネラル・モーターズ)、フォード(・モーター)、クライスラーを高速で経営破綻に向かわせる確実な方法だ」と述べた。

 だがより大きな破綻リスクは、マスク氏が開拓したEVによってもたらされる。デトロイトの3社が生産している従来のピックアップトラックやSUV(スポーツタイプ多目的車)は、UAWの要求の大半を吸収できるだけの利益を出しているが、生産を始めたばかりのEVは、交渉中の要件どころか現在の賃金さえ捻出できていない。

 UAWの直近の要求内容は不明だが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は先に、UAWが契約期間の4年間で30%台半ばの賃上げを求めていると報じた。複利効果で実質の賃金はもっと上がるかもしれないが、35%の引き上げは各社の年間営業コストにそれぞれ約20億ドル(約2990億円)、つまり売上高の1%強を上乗せすることになる。影響が最も大きいのは、UAWの組合員数が最も多いフォードで、国外市場の規模が大きい欧州系ステランティスへの影響は最も小さい。

 当然ながら、UAWが要求しているのは賃上げだけではない。ウェルズ・ファーゴの分析によれば、UAWが当初提示していた条件で最も負担が大きいのは、週32時間の労働に40時間分の賃金を支払うというものだった。マスク氏が指摘したのもこの点だ。だがこの異例の条件は、実際の要望というより、交渉上の戦術と見た方がいいかもしれない。確定給付型年金に戻すよう求めているのも同じ理由かもしれない。

 組合員にとって賃上げの次に大事なのはおそらく、生活費の上昇に応じて賃金を引き上げる生活費調整と、階層別賃金体系の廃止だ。ウェルズ・ファーゴによると、これらは各社にとって負担増となるが、基本給引き上げほどではない。つまりこの要件を飲んでも、影響はおそらく大きいものの深刻というほどではなく、業界の営業利益率をせいぜい2ポイント押し下げる程度だろう。

 EVの影響はこれよりはるかに大きいかもしれない。EV部門を分割したフォードの決算を見れば明らかだ。4-6月期(第2四半期)の「モデルe」事業は、「F-150ライトニング」と「マスタング・マッハE」の1台当たり10ドルの売り上げにつき6ドル近い赤字だった。生産台数が増え、2025年に第2世代のEV生産が始まれば、利益は改善するはずだ。それでも、大手3社のEVが従来品と同程度の収益性を達成する見通しは立っていない。

 テスラが示したように、EVの利益率を改善する近道は中国を経由することだ。フォードは中国の低コストのバッテリー技術を採用しようとしているが、米政府の反対に直面している。駆け引きのつもりなのか、同社は35億ドルを投じてミシガン州に建設中のバッテリー工場の施工を中断したと明らかにした。政府は、中国企業との提携を理由にフォードを新たなEV向け税控除から除外するかどうかをまだ判断していない。控除はサプライチェーン(供給網)に中国が含まれていないことが適用条件となる。

 フォードはコストを抑制するために交渉しているが、大きな未知数は、大手3社が実質的に独占しているピックアップトラックとフルサイズSUVの分野で、米国の消費者がどれくらい早くEVを受け入れるかだ。どちらも始まったばかりだ。F-150ライトニングの販売台数は、1~8月のFシリーズ全体の2%だった。ニッチ市場に特化した唯一のEV新興企業リビアン・オートモーティブは、今年の生産台数が5万2000台にとどまるとの見通しを示した。テスラもまだ電動ピックアップトラック「サイバートラック」を発売していない。

 現在UAWと交渉している契約が切れる4年後には、ビッグ3にどれくらい余力が残っているかがもう少しはっきりするかもしれない。交渉がますます政治性を帯びる中、実現の可能性は高くないとはいえ、取りあえず最も合理的な着地点はインフレに連動した賃上げに気前よく利益配分を上乗せすることだろう。その結果パイがどうなるにしろ、公平に分配されるだろう。

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