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古くて新しい「パワーあり過ぎ問題」…加藤大治郎、原田哲也が駆ったホンダNSR500も陥った速いエンジンの罠

古くて新しい「パワーあり過ぎ問題」…加藤大治郎、原田哲也が駆ったホンダnsr500も陥った速いエンジンの罠

コレクションホールみ展示された、2002年に加藤大治郎が乗ったNSR500

 ロードレース世界選手権・日本GPの舞台となるホンダリゾートもてぎの「コレクションホール」では、いま、ホンダのグランプリマシンが一挙公開されている。公式ホームページの案内には、「チャンピオンマシンだけではなく、記憶に残る名シーンを彩ってきた45台を特設会場にて展示。世界へ挑んだHondaのグランプリマシンたち、それぞれの軌跡をお楽しみください」と書かれている。展示期間は、7月21日に始まり、日本GPの決勝日の10月1日までとなっている。興味ある方は、ぜひ見に行ってほしいと思う。

 この展示を先日、見ることができた。コレクションホールはグランプリ期間中に多くの関係者が訪れ、そして異口同音に「ホンダの歴史に圧倒された」と感激する場所でもある。通常展示でも十分に見応えあるものだが、今回の特別展示では、グランプリを駆け巡ったGPマシンが勢揃い。まさに、ホンダの栄光の歴史が詰まっていると言ってもいい。

 それだけに、この数年のホンダの低迷は、ホンダファンにとっては辛く寂しいものだろう。もう何度も書いてきたが、ホンダは昨年、コンストラクターズポイントで6メーカー中最下位。今年も10戦を終えて5番手だが、1チーム体制のヤマハと並んで同ポイントである。チームポイントでは、ホンダのワークスチーム「レプソル・ホンダ」が、昨年最下位、今年も10戦を終えて最下位と、栄光のホンダの歴史の中で「どん底」状態になっている。

一向に解決しないリアのスピニング

 その低迷を受けて、ヨーロッパのジャーナリストたちからは、「ホンダはパワーがない。だから、遅いのだろう」という声があがる。「いやいや、そうではなくて、ホンダはパワーを出し過ぎてバランスが狂っているからだ」と言っても、怪訝な顔をされるばかりである。

 当初はホンダ陣営も何が悪いのかわかっていなかった。1番の問題はリアのスピニングで、そのため加速、最高速を得られなかった。その問題を解消するのに、本当に多くの時間を費やしてきたと思う。昨年は、モト2クラスの車体で最大勢力を誇るカレックスにスイングアームの製作を依頼し、今年はフレームの製作も依頼している。車体の剛性など、大きく変わっているのだが、その結果は、「多少の変化はあるものの大きな改善はなし」というもの。現在は、サーキットによって「ライダーの好み」でホンダオリジナルとカレックスを使い分けている状態だ。

 カレックス製のフレームを使っても大きな改善はなく、電子制御(共通ECU)でいろいろトライしても改善されず。そして、後半戦のスタートとなった第9戦イギリスGPからは、ダウンフォースを増大させた新しいエアロパーツを、まずは中上貴晶のマシンに投入、第10戦オーストリアGPからは、マルク・マルケス、ジョアン・ミルのワークス勢にも投入したが、ここでも大きな改善はなかった。

 ニューエアロについて、2レース連続でトライしている中上はこう語る。

「これまではコーナーの立ち上がりでウイリーが多く、加速につながらなかった。ニューエアロはダウンフォースが増えた分、ウイリーは制御されるようになったが、今度はリアタイヤのスピニングがひどくなった」

 ダウンフォースが増えてウイリーが抑制された。その結果、パワーを出せるようになり、ライダーたちもアクセルを開けやすくなったが、アクセルを開けられるようになった分、今度はスピニングが増えるという“いたちごっこ”が続いている。

現在のMotoGPマシンのパワーは?

 こうしてホンダは、車体、電子制御、そして空力と、大きな変更にトライしてきたが、リアのトラクション不足に大きな改善は見られないし、「パワーを出し過ぎたエンジンに問題があるのではないか」という僕の推測は、ここに来てほぼ確信に変わって来ている。

 エンジンのパワーについては、どのメーカーもトップシークレットであり、だれも正確には答えてくれないが、「ホンダのMotoGPマシンは300馬力を超えているのでは?」と、ことある毎に他メーカーのエンジニアなどに尋ねている。

 そこでわかってきたことは、現在のMotoGPマシンのエンジンパワーは、だいたい280馬力前後ではないかということ。これでも「有り余るパワー」であり、現在のMotoGPクラスではそれをいかに使いきるかという戦いが続いている。そういう状況の中で、「遅い。だから馬力を出さなくてはいけない」という間違った方向に突き進んでしまったのがホンダではないかと思うのだ。ホンダはエンジンを速くする技術があるだけに、余計に始末が悪いということになる。

 ホンダコレクションホールに行くと馬力がありすぎたための失敗作があり、この問題はいまに始まったことではないと思い出すことができる。例えば加藤大治郎、そして原田哲也が2002年のシーズン前半に乗った2ストローク500ccマシン「NSR500」は、パワーがありすぎて、リアにトラクションがかからずスピニングに大苦戦した代表的なマシンである。

 この年は4ストローク1000ccのMotoGPマシンが登場したシーズンで、それに対抗するために2ストローク500ccマシンは「もっとパワーを」というシーズンだったが、250ccクラスでチャンピオン争いを繰り広げ、同時にホンダの500ccマシンに乗った2人のデビュー戦は悲惨そのものだった。雨になった日本GPで2人は、ともに周回遅れ。大ちゃん10位、哲ちゃん11位という信じられない結果で、2人とも「スピニングがひどくてまともに走れなかった」というじゃじゃ馬マシンに焼いた。同じくNSR500に乗ったロリス・カピロッシも周回遅れに終わっている。

 この時代の2ストロークエンジンは制御が難しく、4ストロークエンジンのマシンに対抗するために「最高に馬力を狙った」マシンだったが、結果的にドライコンディションでもセッティングが難しく、ウエットではまともに走れない代物だった。

まだ見えぬ来季のマシン

  シーズンは早くも折り返し点を迎え、ライダーたちはすでに来季に向け動き始めている。今季、ホンダで唯一優勝しているアレックス・リンスが、来季はヤマハに移籍。そして、ドゥカティ勢で安定した走りを見せているヨハン・ザルコが、リンスの代わりにLCRホンダへ移籍すると決まった。中上の来季継続も確実となっており、ホンダ陣営のラインナップはこれで固まった。

 マルケスとミル、2人の世界チャンピオンの契約は来季まであるが、これまで何度も移籍が話題に上った。低迷によりホンダの求心力は大幅に低下している。そんな状況でライダー多めのドゥカティ陣営からこぼれたザルコを獲得できたのは、復活を目指すホンダにとって明るい話題となった。

 現在のMotoGPクラスでは、レギュレーションによりシーズン中のエンジン開発は禁止。エアロパーツもシーズン中1回のアップデートが認められるのみで、自由に開発できるのは車体関係とマフラーなどの排気系だけ。現行ルールの中でやり尽くした感のあるホンダは、来季に向け、根本から見直したマシンの開発をスタートさせているだろう。そのマシンが将来、ホンダコレクションホールに展示される日が来ることを願うばかりである。

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