アストンマーティンからF1に参戦するフェルナンド・アロンソは、あるスペシャルなマシンを手に入れた。
2度のF1世界チャンピオンであるアロンソが購入したのは、2019年のドイツ・ツーリングカー・選手権(DTM)に投入されたクラス1規定のアストンマーティン・ヴァンテージだ。
このヴァンテージは、アストンマーティンからライセンスを受けたRモータースポーツがDTM参戦用に製造した5台のうちの1台。アロンソはエンジンビルダーであるHWAから非公開の金額で購入した。
クラス1規定は、かつてDTMで使用された日本のスーパーGT・GT500との共通レギュレーション。2シリーズで車両規格の統一が行なわれたものの、DTMでは参戦メーカーの相次ぐ撤退により2020年シーズン限りで廃止となった。Rモータースポーツは2019年単年のみの参戦に留まった。
そんな背景を持つクラス1規定のヴァンテージだが、アロンソはこのマシンを購入する際に助手席を取り付けた。これはレーシングカーによくある改造で、HWAは納車を前に、ふたり乗りを可能にするため燃料タンクのサイズを縮小して追加のシートを入れた。
「フェルナンドはマシンが売りに出されていることを知っていて、我々に連絡してきた」
このヴァンテージは、2023年9月にマドリード近郊のハラマ・サーキットで行なわれたアロンソの個人スポンサー主催のファンイベントで正式に引き渡された。
このイベントには2000人以上が参加し、Rモータースポーツから2019年のDTMに参戦したダニエル・ジュンカデラもこの場に出席し、アロンソにマシンのノウハウを授けた。
Fernando Alonso testing the Aston Martin Vantage AMR Class One
Photo by: Finetwork
【ギャラリー】フェルナンド・アロンソ、アストンマーティン・ヴァンテージ”クラス1”でテスト走行
そしてアロンソは2023年12月、アラゴンでヴァンテージの走行テストを実施。彼の家族や友人が多く招かれ、5.3kmのサーキットを助手席から楽しんだ。
このテストに参加したジュンカデラは、アロンソがヴァンテージのドライブを楽しんでいたと明かした。
「彼はマシンに感銘を受けていた」
ジュンカデラはMotorsport-Total.comにそう語った。
「予想以上のパフォーマンスだったみたいだ」
「フェルナンドは高出力と強力なブレーキングには慣れている。だけど、彼はマシンがとてもダイレクトだと言っていた。もっとステアリングを切らないといけないと思っていたみたいだね」
「今のGT3マシンは少し異なるけど、このプロトタイプマシンは高性能だった。フェルナンドはどんな形のレースも好きで、競争と挑戦があれば何でもドライブする」
「2シーターのF1もあるけど、同乗走行として使えるマシンを探すとなると、DTMのクラス1マシンは、本物のレーシングカーでは何が起きているのかを助手席から実感できる最高のマシンなんだ」とジュンカデラは言う。
クラス1規定のヴァンテージがDTMに投入されたのはたった1シーズンだけで、特筆すべき結果を残すことはできなかった。しかしアロンソにとっては戦歴がさほど重要ではなかったことが理解できる。
そして、アロンソが世界最速のGTカーであったクラス1マシン購入に興味を持ったのは、当時DTMを率いたゲルハルト・ベルガーとのスポット参戦に関する会話と関係があるのかもしれない。さらに言えば、現在アストンマーティンF1でチーム代表を務めるマイク・クラックは、BMW時代にクラス1規定のM4を担当していたことがある。
なお、Rモータースポーツが製作したクラス1規定のヴァンテージは、競技用が4台、テスト用が1台の計5台。アロンソが購入したのは、Rモータースポーツ/アストンマーティンがテスト用に使用していた1台だ。
現在、5台のうち3台が売却され、残りの2台は新しいオーナーを待っている。
「このマシンをフェルナンドに売却され、彼がドライブを楽しんだ後、まだ残っている2台への関心が著しく高まっている」
HWAで理事を務めるゴルディア・フォン・ショニングはそう語った。
「我々にとっても、このマシンが良き人の手に渡り、乗り続けられるのであれば、理想的なシナリオだ」
ちなみにアロンソが2023年に購入したのはクラス1のヴァンテージだけではない。世界ラリー選手権(WRC)のスターであるティエリー・ヌービルの弟ヤニックが設立したライフライブ社の新しいクロスカートも手に入れている。
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