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日産・新型「セレナ」、激しい雨での試乗で感じた走りの良さと高級化の課題

日産・新型「セレナ」、激しい雨での試乗で感じた走りの良さと高級化の課題

雨が強まる静岡県御殿場市の試乗会場 Photo by Kenji Momota

日産自動車「セレナ」がフルモデルチェンジした。Mクラスミニバンと呼ばれるセグメントでは、トヨタ自動車「ノア/ヴォクシー」やホンダ「ステップワゴン」がライバルだが、新型セレナ最大の売りである「走りの良さ」を雨中で実感した。(ジャーナリスト 桃田健史)

雨中で感じたグレード別の「走りの差」

人気のe-POWERの進化を実感

 2023年6月上旬、台風が沖縄周辺に近づき、南からの湿った空気の影響で東海地方から関東地方にかけて雨と風が強まり始めていた。

 そんな気象条件で、日産の新型「セレナ」を試乗した。

 一般的な見方では「あいにくの雨」というネガティブなイメージを持つかもしれないが、クルマの本質を知って走りを評価するには「恵みの雨」という解釈もできる。

 ファミリー層向けのミニバンは、走行中の視界の確保、ハンドリングの安定感、ブレーキングの確かさ、後席などによる家族や友達たちにとっての乗り心地や安心感などなど、評価し得るポイントはたくさんある。

 実際、雨風が少し強い条件の中、高速道路と一般道路のワインディングで走らせることで、日産開発陣が新型セレナで目指した「前モデルからの進化」をかなりはっきりと感じることができた。

 次ページ以降では新型セレナの「出来」や「進化」、またミニバンの上級モデル志向について筆者が感じたことを明らかにする。

2022年11月発売以来

受注は4万7200台と好調

 前モデルからの進化について具体的にいえば、車体剛性とステアリング周辺の剛性が高まったことでのしっかりとしたハンドリング、外部からの音の進入が抑制された車内の静粛性の高さなどである。

 そして、新開発e-POWER(エンジンで発電しモーターで駆動する日産独自のパワートレイン)専用のHR14DDeエンジンとバッテリーマネージメントシステムの絶妙な連携による、まるで「四駆なのか?」と思わせるような前後バランス良さなど、「恵みの雨」の中でしっかり体感することができた。

日産・新型「セレナ」、激しい雨での試乗で感じた走りの良さと高級化の課題

新エンジンを発電機として使う、シリーズハイブリッド方式のe-POWER Photo by K.M.

 ただし、「あいにくの雨」の影響もあった。

 日産が得意とする、自動運転技術を活用したADAS(先進運転支援システム)のプロパイロット2.0については、GPSの受信状況などプロパイロット2.0が作動する条件を満たすことができなかった。そのため、高速道路での走行は、通常のプロパイロットのみを利用した。

 新型セレナは22年11月からガソリン車・2WD、また23年1月からガソリン車・4WD、そして23年2月24日からe-POWER車の受注が始まっている。

 23年5月22日時点で新型セレナの累計受注台数は4万7200台に達した。4万7200台のうち、価格が高い実質的な上級モデルであるe-POWER車が54%(2万5488台)と半数を超えている。

 日産関係者は「先代モデルでは、e-POWER車が累計2万台を超えるのに半年かかったが、今回はたった1カ月で到達した」と、e-POWER車の(販売の)立ち上がりの良さに驚いている様子だ。

 受注の詳細を見ると、e-POWER車でのグレード別では、売れ筋が上級モデルの「ハイウェイスターV」の78%と圧倒的で、次いで新設定の最上級グレードの「LUXION(ルキシオン)」が13%となり、「XV」が7%、「X」が2%と続く。

 ガソリン車でも、「ハイウェイスターV」が76%となっていて、セレナに対するユーザーの上級モデル志向が強いことが分かる。

 また、外装色ではe-POWER車とガソリン車のいずれも、「プリズムホワイト」が約4割と多く、主要オプションでは、e-POWER車ではメーカーオプションナビが86%、また1500W電源が38%という結果となった。

商品コンセプト「BIG」「EASY」「FUN」

家族と楽しめるがポイント

 新型セレナの商品企画を統括する、中村智志氏は先代セレナの振り返りの中で、セレナは国内で中型ミニバンを指すMセグメントで安定的は販売を保っているが、「技術にまつわるイメージが飛躍的に向上した一方、セレナとして最も重要な家族と楽しめるというイメージが低下している」と指摘する。

日産・新型「セレナ」、激しい雨での試乗で感じた走りの良さと高級化の課題

3列目から見た車内の様子。見切りが良く、車内空間も広々と感じる Photo by K.M.

 その上で、商品コンセプトを「BIG」「EASY」「FUN」として、あくまでも技術的な裏付けを持ちながら、“家族と楽しめる”ことを追求したという。

「BIG」については、3列シートでスライド機能を持ち、車内での前後移動が楽なスマートマルチセンターシートを採用するなど、シートアレンジを拡充。「EASY」と「FUN」では、プロパイロット2.0や、白線がなくてもGPSやアラウンドビューモニターで周辺状況を把握するプロパイロットパーキング、また、100V/1500W AC電源などを採用した。

 さらに、「FUN」の神髄は走りの良さにある。

 具体的には、「疲れない」「静か」「コントロールしやすい」「車酔いしにくい」がキーワードとなる。

 その上で、これらが複合的な効果がある。

「恵みの雨」の中での走行では、最初に最上グレードの「LUXION」で東名高速と新東名高速道路を走行した。同グレードはe-POWERの設定のみである。

 クルマ全体の印象は、「上級SUVのような重厚感がある扱いやすさ」だ。

 絶えずワイパーが動いているが、見切りが良く、しかもクルマがガッシリしていて動きの先読みがしやすい。加速時にエンジンがかかっても、「エンジンがかなり遠く」に感じる静粛性がある。減速時の回生ブレーキも、強過ぎず弱過ぎず、コーナー進入時のクルマの姿勢に安定感が高いので、ここでも動きの先読みがしやすい。

 また、水しぶきを跳ね上げる音があまり気にならない。ボディの開口部が多いミニバンの苦手とする外部音の進入に対して、「愚直にボディの穴をふさぎ、吸音材/遮音材を適所に配置した」(担当エンジニア)という。

 さらに驚いたのは、横風の影響の少なさだ。空力的な配慮に加えて、やはりハンドリングの安定性が効いている。

 次いで「ハイウェイスターV」e-POWER車に乗った。

 走り出してすぐ、「ハンドリングが軽い」と感じた。

 開発担当者によると「LUXIONとは、タイヤのサイズは同じだがタイヤの基本設計が違う」と指摘するが、それがハイウェイスターVの軽やかな走りを高めているようだ。

 箱根方面に向かう道幅の狭いワインディングを走ると、「あれ?4WDか?」と思うほど安定した旋回性がある。少々極端に聞こえるかもしれないが、走りのイメージは、日産「エクストレイル」と車体を共用する三菱自動車「アウトランダーPHEV」に近い軽やかさがある。

 こうした走りの安定感と安心感は、ドライバーに対してだけではなく、助手席、2列目、3列目の乗員もしっかりと実感できるはずだ。

 後席の視界についても、天吊モニターと前方視界との位置関係を精査したデザインとしており、これも酔いにくくするための工夫だ。

 総じて、とてもポジティブな印象をもった「恵みの雨」の中での試乗だった。

 こんな状況でも、とにかく疲れが少なく、安心して走れた。

400万円超えの高級路線で

今後期待されることは?

 試乗後の意見交換で、日産側から「価格についてどう思うか?」という問いがあった。

 確かに、「ハイウェイスターV」(368万6000円)でここにオプションを付けると400万円超えとなり、また「LUXION」(479万8200円)はオプション込みで500万円の大台を超えてしまう。

 ファミリー層向け商品としては、“庶民の感覚”を明らかに超えてきている。

 近年、新車価格は、ミニバンに限らず、また日産に限らず、乗用車全体で電動化、ADAS、衝突安全性、品質向上、オプション充実などによって一気に上昇している。

 それでも、新型セレナの販売が好調で、しかも上級グレードや、日産直系のカスタマイズブランド「AUTECH(オーテック)を選ぶ30代も少なくない」(AUTECH関係者)という。

 背景にあるのは、日本固有のミニバン文化なのではないだろうか。

 数年前、日産のブランド戦略を統括していた当時の日産幹部が、日本のミニバン文化について、「日本人にとってミニバンは、自宅の生活がそのまま外に出てきたような感覚がある。これは世界でもまれな現象だ」と分析していた。

 その視点で見ると、「より上級なミニバンが欲しい」とか「周りとはちょっと違う仕様にしたい」という、いわば世間体を気にすることも納得できる。

 とはいえ、庶民派ミニバンの価格高騰も、家計への負担を考えるとそろそろ上限ではないだろうか。

 今後は、シェアハウスのようにミニバンにも所有から共有へというビジネスモデルが拡充していくのかもしれない。

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