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BYD、テスラ、メルセデスなど5社の最新EVを一気乗りして感じた「ブランドの世界観」

byd、テスラ、メルセデスなど5社の最新evを一気乗りして感じた「ブランドの世界観」

メルセデス・ベンツ「EQS 450+」 Photo by Kenji Momota

2022~23年は、日系自動車メーカーはもとより、輸入車メーカーからもさまざまな新型EVが登場してきた。新車価格はかなり高めのEVが多いが、輸入車メーカーEVを乗り比べるとどんなふうに感じるのか、注目の5モデル(テスラ、BYD、メルセデス・ベンツ、アウディ、フォルクスワーゲン)に一気に乗ってみた感想を述べたいと思う。(ジャーナリスト 桃田健史)

テスラ「モデル3」「モデルY」は、乗り心地が改善

日系各社のEVモデルとは違うEVらしさを表現

 毎年恒例、日本自動車輸入組合(JAIA)が主催する、輸入車ブランド合同でのメディア向け試乗会が大磯ロングビーチ(神奈川県大磯市)を起点に開催された。

 筆者はジャーナリスト個人として参加し、1日で試乗可能な最大5枠で、メルセデス・ベンツ「EQS 450+」、BYD「ATTO 3」、アウディ「Q4 e-tron S line」、フォルクスワーゲン「ID.4」、そしてテスラ「モデルY」という欧米中の最新EVモデルを選択した。

 EVについてのユーザーの関心事は、「満充電での航続距離」や「急速充電で何%まで充電できるのか?」といったことだ。後者の関心は、一般的には30分間が一区切りで、次に充電を待っている人がいたら場所を譲らなければならないルールがあるために生じる。

 今回は、1枠当たりの走行時間が70~80分間と比較的短いため、試乗中に充電は行わず、5台それぞれで市街地、山間部、有料道路の同じルートを巡り、走り味を軸足として各ブランドにおけるEVの「世界観」を比較することを念頭に置いた試乗とした。

 次ページ以降では、各EVの感想を紹介していこう。

メルセデス・ベンツ「EQS 450+」は威風堂々

BYD「ATTO 3」はマイルド

 メルセデス・ベンツ「EQS 450+」は、EQブランドにおける最上級セダンであり、その名の通りこれまでの「Sクラス」に相当するモデルだ。

byd、テスラ、メルセデスなど5社の最新evを一気乗りして感じた「ブランドの世界観」

メルセデス・ベンツ「EQS 450+」(左)と「EQE」(右) Photo by K.M.

 筆者は80年代から、正規のメルセデス・ベンツはもとより、ブラバス、ロリンザー、カールソンなど90年代に世界的なトレンドとなったチューニングメルセデス・ベンツなどを含めて、ドイツ国内を主体に世界各地で数多くのモデルに試乗してきた。

 そうしたこれまでの体感を基に「EQS450+」に乗ると、「確かにSクラスの味わい」を感じる。つまり、大きなクルマだがソフトな感覚で素直かつ威風堂々に動く、というSクラスらしさだ。

 これに加えて、想像以上に「鼻がイン側に向く」。これは、自動車の開発者がよく使うハンドリングに対する表現のひとつだが、コーナーの入り口で、ハンドル操作に対してクルマがスゥーとコーナーの内側に自然に入っていく様子を指す。

 EVは重量のある大型蓄電池を車体下部に置いているため、必然的に低重心となり、ハンドリングが良くなるのは一般的に言われていることだ。しかし、この後に4台を乗った感想と照らし合わせても、「EQS 450+」のハンドリングは、クルマとして実に軽やかだった。

 メルセデス・ベンツは、SクラスがEVになったとき、それをどのように表現するべきかをゼロベースで検討してきたといえる。従来のSクラスの延長上という発想では、この外観、このインテリア、そしてこの走り味は生まれなかったと思う。

 さらに、従来のSクラスではなし得なかった、ドライバー自らが動力性能を極めて大きく可変させるモーター制御を主体する機能については、その体感としてSクラスの幅が広がった感じだが、けっしてSクラスらしさからは逸脱していない。

 またインテリアでは、ディスプレイという表現では収まり切らないような、UX(ユーザー・エクスペリエンス)に最初は圧倒されるが、30分も走ると徐々にこちらの感覚がなじんでいった。

 2台目は、中国から黒船来襲といった切り口での報道が最近多い、BYD「ATTO 3」だ。

 乗り味も走り味も「マイルド」と表現するのが妥当だろう。確かに、モーター駆動によるEVであるが、ガソリン車やハイブリッド車などから乗り換えても違和感がない人が少なくないはずだ。

byd、テスラ、メルセデスなど5社の最新evを一気乗りして感じた「ブランドの世界観」

BYD「ATTO 3」の外装 Photo by K.M.

byd、テスラ、メルセデスなど5社の最新evを一気乗りして感じた「ブランドの世界観」

BYD「ATTO 3」の内装 Photo by K.M.

 また、「中国車」という日本人にとって未知の領域に対する不安は、試乗している限り、ほとんど感じない。

 インテリアの各所には、いわゆる“遊び心”がある造形や手法を凝らす。これは、見方によってはオモチャっぽく感じる人がいるかもしれないが、走行しながら感じるのは気軽さと楽しさであり、これが直近のBYDの世界観なのだと思う。

 筆者は2010年代前半、BYDが電動車事業に参入して間もない頃から、BYDの本拠地である中国・深センでEVの「e6」を試乗したのを皮切りに、BYDの電動車の進化を継続的に中国で見てきた。

 当初のBYD電動車は、クルマとしての一体感、つまりBYD独自の世界観が乏しいと感じた。それが、10年代中盤から後半にかけて、中国政府によるNEV(新エネルギー車)政策によるEV市場拡大に伴い、商品開発能力のバランスが良くなった。

 そもそも、BYDは電池事業が中核だった企業であり、日本を含めてEVバスのシェアも高い。より多くのBYDのEVが世に出回ることで、BYDの世界観が確立されてきたのだと思う。

 日本市場での今後については、販売店の顧客サービスの質と、クルマ本体の経年による質がどの程度保たれるかが、BYDのブランド価値に大きく影響することになるだろう。

アウディとフォルクスワーゲンのEVは

同じVWグループでもブランドの世界観は違う

 3台目のアウディ「Q4 e-tron Sline」と4台目のフォルクスワーゲン(VW)「ID.4」は、同じVWグループのEVプラットフォームとして、部品の共通性が大きい。

 だが、2モデルの走り味、インテリア、そして世界観は、はっきりと違う。

 その背景を知るため、少しだけ時計の針を戻す。

 10年代半ばにVWの燃費不正問題が大きな社会問題となった。そこからのV字回復を狙ったVWグループの中長期戦略の中核が、EVシフトだった。それに伴い、大きな投資を明言したにもかかわらず、EVシフトに対して日系や米系メーカーはもとより、他の独メーカーも懐疑的だったと、筆者は記憶している。

 それでも、ポルシェを筆頭に、VWグループはEVシフトのイメージを、大衆向けブランドであるVW IDシリーズの多モデル化で進めた。

 さらに、アウディ、スペインのセアト、チェコのシュコダなどで、ブランドそれぞれに世界観をEVシフトによって再構築する大変革に着手した。

 こうしたVWグループのEVシフトと同調するかのように、欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)の欧州グリーンディールを基盤として、欧州を起点とする政治主導でのEVシフトが一気に加速した。その流れが世界に広がって、日本でのEVシフトにも大きな影響を与えている。

 話を試乗に戻すと、アウディ「Q4 e-tron」は、スポーティーなS lineであったことを差し引いても、とにかくクルマとしての一体感が強い。いわゆる「人馬一体」といえるほどの見事な出来栄えだ。昨年、アウディジャパン関連のイベントでアウディ各種EVモデルにじっくり乗ったのだが、リアモーターをベースとする「Q4 e-tron」は明らかにアウディ次世代EVモデルだと言い切れるほど、アウディらしさに満ちている。

byd、テスラ、メルセデスなど5社の最新evを一気乗りして感じた「ブランドの世界観」

アウディ「Q4 e-tron Sline」 Photo by K.M.

 一方、VW「ID.4」のハンドリングと乗り心地はマイルドだ。ただし、先に紹介したBYD「ATTO 3」のマイルドさとは全く違う。EVの骨格が強く、それをVWがEVで目指す「世界観」にアジャストしているというイメージである。

byd、テスラ、メルセデスなど5社の最新evを一気乗りして感じた「ブランドの世界観」

フォルクスワーゲン「ID.4」 Photo by K.M.

 そして、5台目は「モデルY」だ。

 テスラの世界観については、「モデルS」「モデルX」そして「モデル3」を通じて、さまざまなメディアですでに数多く紹介されている。また、日本でもテスラオーナーは増えてきており、オーナー自身がSNSでさまざまな情報発信を行っている状況だ。

byd、テスラ、メルセデスなど5社の最新evを一気乗りして感じた「ブランドの世界観」

テスラ「モデルY」 Photo by K.M.

 一方で、筆者は00年代のテスラ立ち上げ時期から、アメリカで同社の成長を定常的に取材してきた。

 その上で感じるのは、直近に製造された「モデル3」と「モデルY」は、乗り心地が改善され、またハンドリングのしっかり感も増した印象があり、EVらしさがさらに際立ってきた。このEVらしさは、今回比較した各ブランドや、日系各社のEVモデルとも違う。

 テスラはEV専業メーカーとして、過去に例のない生産・販売規模に達していま、クルマ本体からテスラの世界観をしっかりとユーザーに伝えるようになったと感じる。

 以上、今回試乗した5モデルをブランドの世界観として比較してみた。

EVでは当面、価格競争は起きないが

日本では軽EVの普及が徐々に進む

 最後に、今後のEV普及の全体動向について触れる。

 欧米日韓中の自動車メーカーは、400万~700万円の価格帯で、それぞれのブランドの中核モデルを拡充させていくだろう。

 各社はあえて無理な形での価格競争は望まないはずだ。なぜならば、まだまだ電池のコストが下がる気配が見えてこないからだ。

 電池の量産効果が生まれ、また次世代電池技術が確立されるまでは、EVシフトに向けたブランド戦略を確立することに、各社は注力するだろう。

 また、日本市場では、商用と乗用のそれぞれで、軽EVの普及が徐々に進むが、軽市場全体が一気にEVシフトするには相当な時間を要するはずだ。軽自動車が地方部や中山間地域での「生活車」であるため、一気にシフトするとは考えにくいからだ。

 いずれにしても、日本におけるEVシフトが着々と進むことは間違いない。

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