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日産の新中期経営計画に感じた「物足りなさ」ホンダ、ルノーとの提携を生かせ!

日産の新中期経営計画に感じた「物足りなさ」ホンダ、ルノーとの提携を生かせ!

新中期計画を発表する日産自動車の内田誠社長 Photo: EPA=JIJI

日産が新中計を発表も

ホンダ提携の具体策は見えず

 日産自動車は、3月25日に4月からの3カ年新中期経営計画「The Arc」(24年度〜26年度)を発表した。日産は新中計で26年度末までにグローバル年間販売台数を100万台増加させ、営業利益率を6%以上に引き上げることを目指す。日産の内田誠社長は、この新中計の骨子を「グローバル販売台数の回復と、利益向上」と説明し、取り巻く環境が激変する状況に対し「日産は変わらなければならない」との危機感を強調した。

 より詳細な内容を見ると、まずBEV(バッテリー式電気自動車)を含む電動車を26年度末までに16車種投入し、ICE(内燃機関)車を含めて世界販売を100万台増加させ、現在の約3割増となる450万台前後に引き上げる。日産の世界販売最盛期は577万台(2017年)だったが、近年は生産能力の削減やコロナ禍に伴う半導体不足などの影響もあり、300万台ラインに落ちていた。それを生産稼働力のアップで回復させようというものだ。

 また、日産の強みであり、かつては世界覇権を射程に入れたBEV戦略は「電動化は世界の市場によってスピードが異なってきており柔軟に対応する」(内田社長)として、26年度末での電動車比率を40%と従来予想の44%から引き下げた。世界販売の拡大を狙いつつも、EVについては、世界の各市場の変化に応じて量よりむしろ質を重視してEV競争力を高め、コスト30%削減を狙うほか、バッテリーの技術革新や中国でのNEV戦略対応に力を入れることになる。

 新中計で営業利益率6%以上を目指すことについては、前回の中計である「NISSAN NEXT」で掲げた営業利益率5%目標からステップアップしたということだろう。

 ただし、全体的に見ると、新中計にはやや物足りない点を感じる。

 内田社長は、新中計で「スマートパートナーシップの活用、日産インテリジェント・ファクトリーの拡大、EVはバッテリー生産能力確保、知能化は次世代プロパイロットの実用化、三菱商事とEVモビリティサービス提携活用、ホンダとの新提携活用を急ぐ。これに財務規律の維持を進めていく」と重要ポイントを語った。

 だが、内田体制による日産再生への最初のステップが、前回の3カ年中計における2年連続の赤字(19年度、20年度)からの脱却だったと位置づけるなら、次の24年度からの3カ年中計でどこに向かうのか。また、電動車やモビリティサービスなどの分野で仏ルノー・三菱自動車の従来のアライアンスと、発表したばかりのホンダとの新提携をどう具体的に生かしていくのかは、今回の新中期経営計画では不透明なものとなっている。

 とはいえ、日産としては、24年間続いたルノーとの資本関係見直し(23年11月にルノー43%出資から相互に15%出資へ)後、初めての再スタートとなる新中計だ。また、新中計は23年度までの「Nissan NEXT」から、もともと掲げていた日産の長期ビジョンである「Nissan Ambition 2030」への「架け橋となるもの」(内田社長)であり、さらに19年末に就任した内田体制としても、任期の想定上“総仕上げ”をかけたものとなる。そうした中で、日産が生き残れるかどうかの分岐点となる、非常に重要な新中計だと受け止められよう。

日産の周囲で動きが激しく

公取委の勧告にホンダとの提携

 ここへきて、日産に関する動きがかまびすしい。3月7日に公正取引委員会が日産に下請法違反で再発防止を勧告した。これは、日産が部品取引先下請け企業36社への支払い代金約30億2300万円を不当に減額したとするものだ。日産以外にも、発注代金から「一時金」や「口銭」といった名目で不当に支払金額を減額する事例が目立つとして、公取委は日本自動車工業会にも再発防止を申し入れた。

 さらに、先ほど触れた通り、3月15日には日産とホンダが戦略的提携の検討を開始すると発表し、内田日産社長と三部敏宏ホンダ社長がそろって記者会見を開いた。

 この流れが日産の新中計発表にもつながったといえる。それというのも、この3月末までの「Nissan NEXT」は、ゴーン元会長退任後の経営陣の混乱とゴーン拡大路線のツケによる業績悪化からの立て直し、つまり日産再生に向けた事業構造改革がその本質だったが、一方でこれまでにはコロナ禍や半導体不足による生産減少、EV化加速の風向きの変化といった著しい外部環境の変化も生じている。つまり、「複合的な新たな展開が進んでいることへの対応」(内田社長)が求められてきていることが、新中計の内容に結びついている。

 そもそも、本来なら「Nissan NEXT」に続くこの新中計は、昨年秋にも発表される予定だった。それが半年も遅れて新年度直前となったこの時期になったのも、日産を取り巻く状況や内部経営体制が大きく変わったことが影響しているだろう。

 今回、新中計のプレゼンは内田社長が一人で担当し、質疑応答では内田社長を含め4月1日付の新EC(エグゼクティブ・コミッティー)10人が勢ぞろいした。

 ここで注目したいのは、内田体制スタートとともに内田社長の右腕として支えてきたルノー出身のアシュワニ・クプタCOOが昨年6月の株主総会後に突然退任しCOOが空席となっているものの、ポスト内田の人材が見当たらなかったことだ。

 振り返ってみると、日産の2010年代末からのここ5年間は激変・激動の時代だった。長期政権で日産を牛耳ってきたゴーン元会長の突然の逮捕(2019年11月)に加えて、ポストゴーンの西川廣人元社長の退陣で、19年12月に日産再建を担って白羽の矢が立ったのは当時中国・武漢駐在の中国担当だった内田誠氏だった。商社の日商岩井から日産に途中入社した内田氏だが、社長就任時は経営の混乱が続き、業績は大きく悪化している中で、日産再生には厳しい試練が待ち受けていた。

 内田社長就任とともに、三菱自COOだったルノー出身のアシュワニ・クプタ氏をCOOに呼び戻し、副COOには日産プロパーの関潤氏が就いたことで「集団指導体制」を築いた。しかし、直後に関氏が退社(日本電産社長に転身し、さらにその後台湾・鴻海精密工業のEV事業CSOに就任)して、早くも集団指導体制は壊れた。その後、先述した通り、23年6月にクプタCOOも退任した。

 それでも内田日産は、19年度、20年度の2年連続の赤字から事業構造改革による量から質への転換で21年度には黒字復活を果たし、今期23年度も純利益3900億円を計上する見通しだ。

 内田社長は就任時から「日産のポテンシャルは、こんなものじゃない。日産らしさを取り戻す」と強調してきた。

 一方で、公取委による日産への下請法違反での再発防止の勧告は、事業構造改革におけるコスト削減施策と連動したものとも受け止められる。元々、日産の購買調達部門は古くから取引先部品メーカーにとって「系列」の構造が強かった。かつて日産系列部品企業は「宝会」として組織化されており、過去日産の本社が東銀座にあったことことから、日産系部品企業は日産のことを「東銀座様」と呼ぶほど上下関係の締め付けが厳しかったと、大昔に取材で知ったことを覚えている。

 最近でも、日産系の部品企業は日産のコスト削減策もあって厳しい業績にあり、かつての日産系サプライヤーご三家の一つだったカルソニックカンセイ(現マレリ)や河西工業などの経営難が取り沙汰されている。内田社長は日商岩井から日産入りし、ルノーとの共同購買部門を長く担当していたこともある。今回の下請法違反の動きには、トップとしてしっかり対応していく必要があろう。

 いずれにしてもこの4月からの新経営計画の実行は、内田日産の真価を問われるものとなる。特に環境が激変する中、生き残りに向けた危機感からホンダとの新提携で何をどう早期に具現化していくのか、これをルノー・三菱自とのアライアンスとどう兼ね合わせていくのか。内田社長はこの新中計発表後直ちにインド入りし、ルノーのルカ・デメオCEOとともに現地で会見してインドでのルノー連携の強化策、輸出拠点としての活用を強調した。また、ホンダとの協業についても言及したが「フィジビリティ・スタディーを始めたばかり」にとどめた。

 今後の3カ年で本当に「やっちゃえ!日産」のキャッチフレーズ通りに進み、内田日産の集大成とできるか、大いに注目している。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)

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