ポルシェ・ケイマンGTS4.0 Photo by Akihiko Kokubo
6気筒の水平対向エンジンを積む
スペシャルグレード
脱炭素化に向けて、欧州メーカーは“電動化一択”という姿勢を明確にしている。それはポルシェも例外ではない。ブランドの“魂”たる911シリーズにできるだけ長い期間エンジンを与え続けるために、他モデルの電動化を積極的に推進している。ブランド全体の燃費を向上させることで、ポルシェのアイデンティティを守る戦略を展開中だ。
現在のポルシェ最量販モデルとなったマカンは、次期モデルではPPEと呼ぶ新電動プラットフォームを採用。ピュアEVに大変身する。そのデビューまでは、秒読み段階にある。さらにミッドシップモデルのケイマン/ボクスター・シリーズも、“次期型はピュアEVになる”と宣言済みだ。“次はない”といわれると、気になってしまうのが人情。現行ケイマン/ボクスター、中でも自然吸気式の大排気量6気筒エンジンという、時代に逆行するかのような心臓を搭載する“GTS4.0”が大いに魅力的に映る。
GTS4.0は、ターボチャージャーを付加する一方で排気量ダウンと4気筒へのレスシリンダー化が図られたことで姿を消していた6気筒の水平対向エンジンを積むスペシャルグレード。
スペックは400ps/7000rpm、420Nm/5000~6500rpm。420Nmの最大トルク値はターボ付き2.5L4気筒のSグレードと奇しくも同一だが、発生回転数がはるかに高いという点に、このユニットの性格をうかがい知ることが出来る。
ポルシェ・ケイマンGTS4.0/価格:6MT 1152万円/7DCT 1207万2000円 GTS4.0はモータースポーツ部門が開発した自然吸気の4Lフラット6(400ps)を搭載。 トップスピードはMT仕様が293km/h/DCT仕様は288km/h。すべてに官能的なドライブフィールでドライバーを魅了する。普段使いからサーキットまで対応するオールラウンダー
室内は機能的。ステアリングは360mm径のアルカンターラ巻き。ギア比は15.02~12.25のバリアブルレシオ。適度に重い操舵フィールは絶品。ハンドリングはシャープ。写真はGTSインテリアパッケージ仕様(49万4000円)
シートはサポート性に優れたスポーツ形状。 リクライニングは電動/前後スライドは手動式
前後に実用的なトランクを用意
すべてが最高。絶品の走り味!
しかもファーストカーとして使える実用性が光る
加速フィーリングは、ターボ付きの4気筒ユニットを搭載したモデルとはまったく異なる。6速MT仕様でもアクセルペダルに触れることなくクラッチミートが可能というフレキシブルな低回転域での特性を備えながら、アクセル踏み込みに遅滞なくリニアに応答。調律の行き届いたフラット6サウンドを響かせながら回転数が高まるほどにパワーが伸びて行く。その情感の豊かさは、ターボ付き4気筒ユニットをはるかに凌駕する。「GTS4.0の魅力の根源は、このエンジンに宿っている」といっても過言ではない。まさに甘美な印象をタップリと味わわせてくれる。
MT仕様に遅れて導入されたポルシェが“PDK”と称する7速DCT仕様車の場合でも、そうした美点は健在。いっさいのマイナス面は存在しない。
絶品のシフトフィーリングを提供してくれるMTは“AT限定免許を解除してでも乗る価値がある存在”だが、PDKの完成度も極めて高い。シームレスでスムーズな変速動作を披露し、ツイスティなワインディングロードはもちろん、サーキットでの激しく加減速を行うシチュエーションでも、まるで迫り来るコーナーの状況を“先読み”しているかのような完璧なシフトワークを行う。結果として、動力性能全体がまさに非の打ちどころのないレベルに達している、と紹介できるのだ。
大排気量のエンジンを搭載したことでバランスを崩してしまうのではないか……という心配は杞憂だった。GTS4.0は、電子制御式の可変減衰力ダンパー“PASM”が標準で装備されることもあって、クルージングシーンでフラット感に富んだ乗り味が味わえるのも魅力だ。
GTS4.0は、一度ステアリングを握ると、どこまでも走って行きたくなる。しかもドライビングそのものが楽しいと感じさせてくれるから、まったく飽きない。
実用性の高さも特筆レベル。グランドツーリングに連れ出す場合に、前後に想像以上の容量を備えたラゲッジスペースを備える点は見逃せない。
ケイマン/ボクスターGTS4.0は、
「乗って、走って、楽しいクルマ」の最右翼
2シーターのミッドシップと聞くと、“実用性を犠牲にしたうえに成り立っているレイアウト”と早合点されがちだが、ケイマン/ボクスターは例外。各種メンテナンスをリフトで持ち上げて車両下側から行う方式にした関係で、シート背後に搭載するエンジン部分は完全に“封印”されている。
これによって、フロントフード下にミドルサイズのスーツケースが収納できる深いスペースが確保できた。そしてケイマンの場合にはリアのハッチゲート下、ボクスターはボディ後方に独立したトランクルームが用意されている。“2シーターモデルの中で最大容量”と紹介できるラゲッジスペースを生み出した手腕には驚かされる。リアルスポーツながら、ファーストカーとして使える実用性を備えている。
ケイマン/ボクスターGTS4.0は、まさに「乗って、走って、楽しいクルマ」の最右翼。この味わいが現行型で失われてしまうのは何とも残念である。
(CAR and DRIVER編集部 報告/河村康彦 写真/小久保昭彦)
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