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「アップルカー開発断念」はEVブーム終焉のサイン?トヨタら日本勢はチャンスを活かせ

「アップルカー開発断念」はevブーム終焉のサイン?トヨタら日本勢はチャンスを活かせ

米アップルは自動運転EVの開発を断念したと報じられた Photo: CFOTO/Future Publishing via Getty Images

アップルカー開発中止は

EVブーム終焉のサイン?

 米アップルが電気自動車(EV)の開発計画を断念したと伝えられた。アップルのジェフ・ウィリアムズCOO(最高執行責任者)が社員に通達したと、米ブルームバーグが報じた。それによると、アップルカー開発チームの一部開発者はAI部門に配置転換し、アップルでは珍しいレイオフ(一時解雇)を計画しているという。

 アップルといえば、スマートフォンの世界でiPhoneの存在感が非常に大きい。EV化に伴い、クルマが高度なソフトウェアを搭載する「走るスマホ」ともいわれるようになる中、そのアップルがEVに進出するということで、自動車業界からも脅威の存在としてその動向が注目されていた。

 特に、自動車業界にとって100年に一度の大変革期といわれるゆえんである「CASE革命」の中核に位置する、「電動化」と「自動運転」をセットで開発するアップルカーを同社がどう具現化するかは、業界の大きな関心事だった。

 脱炭素社会に向けたEVと自律走行実現のための自動運転の親和性をとらえたアップルカー。アップルは、「EVによる完全自動運転」を目指したものと受け止められていた。

 しかし、10年越しとなるアップルカー開発の社内プロジェクト「タイタン」は、ここにきてEV開発を断念したと伝えられた。

 この間、アップルは米本社のあるカリフォルニア州での試験走行を重ねてきた。23年の同州での走行試験の距離は約72万9000kmと前年の3.6倍に増えており、自動運転技術などの特許も数多く取得し実用化への布石を打ってきた。また、アップルカーを製造委託するファブレス企業としてのパートナーには、カナダのマグナ・インターナショナルや韓国の現代自動車グループに加え、日本の日産自動車の名前が候補として挙がったこともある。

 アップルカー開発断念の背景には、アップルの完全自動運転EV開発が遅れている一方、生成AIを巡る競争環境の激変に対応が迫られているという社内事情があるようだ。加えて、これまで電動化の中で世界的にBEV(バッテリーEV)に偏向する風潮があったものの、直近でEV市場の変化や価格競争激化が生じるなど、EVの販売環境が悪化してきていることも挙げられる。

 今後の注目ポイントとなるのが、このアップルカー撤退の動きが、自動車業界全体の電動化、特にBEVの拡大や戦略にどう影響するのか、あるいはBEVへの潮流が変わっていく(変わっている)転換点になるのか、ということだ。

 それはすなわち、トヨタ自動車を筆頭に日本車のBEVへの出遅れが指摘されてきた見方が変化するのか、という意味でもある。

海外メーカーで相次ぐ

EV計画の修正

 いわゆる「EVブーム」は、CO2削減を大命題に、欧州の環境規制強化や米国カリフォルニア州のZEV(ゼロエミッションビークル)規制、中国政府によるNEV(ニューエネルギービークル)規制といった、世界的な各種規制への対応から大きな潮流へと発展したものだ。

 欧州勢が独フォルクス・ワーゲン(VW)のテールゲート事件を契機に主流のディーゼル車からEVへの転換政策を一気に進めたほか、米国もGM、フォードがEVシフト計画を積極化した。さらに、中国は世界最大となった中国の国内市場を武器に、国家レベルでのNEV政策を押し出して「EV大国」にのし上がってきた。

 一方で、日本ではホンダの三部敏宏社長が「脱エンジン」を宣言し、2040年までに新車をEVとFCV(燃料電池車)に100%切り替える方針を打ち出したものの、「敵は脱炭素であり、エンジン車ではない」(豊田章男トヨタ会長)とするトヨタの「マルチパスウェイ(全方位)」戦略を筆頭として「EV普及に後ろ向きだ」との批判を浴びてきたのも事実だ。

 しかし、ここへきてEVブームの風向きが変わってきた。

 23年は世界のEV販売が年間100万台を超えたが、急速に販売の伸びが鈍ってきている。中国では、過当な販売競争でNEV市場が荒れてきており、米国はEVよりハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が伸びたことが注目されている。世界各国のエネルギー事情やEV販売の補助金を抑制する動きなどでBEVの伸びが鈍化しているのは確かだ。明らかにEVシフトの過渡期におけるひずみが起きている。

 EVシフトを積極的に進めようとしていた自動車各社でも、その戦略を見直す動きが広がっている。

 米GMはかねて35年以降にエンジン車を販売しない目標を掲げており、25年後半に安価なEVを投入する計画だったが、その要であったホンダとの量販価格帯EVの共同開発を撤回した。代わりに戦略を修正し、PHV投入の方向を打ち出してきている。

 米フォードもEV関連の投資計画全体のうち、120億ドルを抑制すると昨年10月に発表した。また、独メルセデス・ベンツは、30年の「完全EV化」を事実上撤回し、25年までに新車販売の最大50%がEVとPHVになるという見通しを「20年代後半」に遅らせた。

 EVの成長ペースが鈍化しHVやPHVが当面の電動化の“現実解”との見方が広がる中で、トヨタを筆頭とする日本車各社は、市場に合わせた展開で巻き返しの好機を見いだしつつある。

 だが、大きなうねりとしてBEVが主流になる動きは、長期的に見ると変わらないはずだ。

 足元のEV鈍化に一喜一憂せず、日本車各社にはEV過渡期としての現状の“現実解”に対するアドバンテージを活かしながら、低コスト化や自動運転との親和性を活かした機能開発など、長期視点でのEV対応が求められることになるだろう。

 また、アップルカーの撤退で、同じくテック企業とのコラボEVの代表であるホンダとソニーグループの共同開発車「アフィーラ」の動きにも変化があるのか、こちらにも注目したい。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)

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