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テスラを猛追!「EVの新王者」中国BYD、新車ドルフィンは300万円を切るのか?

テスラを猛追!「evの新王者」中国byd、新車ドルフィンは300万円を切るのか?

BYD昨年7月に開かれた中国BYDの発表会 Photo:JIJI

中国EVメーカーのBYDが急成長!

あのトヨタも提携

 中国から電気自動車(EV)世界覇権の座を狙って急成長を遂げているのが、比亜迪(BYD)だ。

「2023年上期(1~6月)世界新車販売で中国BYD初のトップ10」「BYD今上期(23年1~6月)決算で純利益3倍」――。

 こうしたニュースが話題になるように、ここへ来てBYDは中国のみならず世界市場において破竹の勢いで販売を拡大するとともに、業績面でも大幅に利益を向上させてEVメーカーとして存在感を高めている。

 BYDの23年上期世界新車販売台数は、前年同期比96%増の125万台となり、独メルセデス・ベンツや独BMWを抑え、初めて世界トップ10入りした。ちなみにこれは内燃機関車も含めた全新車販売であるが、BYDは世界の自動車メーカーに先駆けてガソリン車の生産を22年に終了しており、23年からBEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)に集中している。にもかかわらずこの結果である。

 世界のEVメーカーの“王者”といえば、かのイーロン・マスク氏率いる米テスラであるが、今やそのテスラを猛追して“新王者”として君臨しつつあるのがBYDなのだ。

 BYDの祖業はバッテリー製造で、2003年に中国の国有自動車メーカーを買収して自動車事業に参入した。08年に同社初のPHEVを発表し、10年に金型大手のオギハラの工場を買収したことで日本でも注目され始め、11年にはBEVを発売した。

 すでにEVに関して定評があったが、その後、改めてBYDのEV技術力を世界に知らしめたのが、19年にトヨタとEVの共同開発について合意したと発表したときだった。20年4月にトヨタはBYDとEV研究開発合弁会社を設立した。あのトヨタが“ラブコール”を送りEVの技術提携でBYDを選んだのだ。

 トヨタが22年10月にBYDとの提携EVの第1弾として中国で発表したセダン型EV「bZ3」では、BYDのリン酸鉄のリチウムイオン電池(BYDが開発・内製しているブレードバッテリー)が採用された。23年4月には第2弾となるSUV型EVを発表しており、今後トヨタ・BYDの協業は加速していくとみられている。

 加えて、BEVで出遅れたといわれるトヨタがこの5月に「BEVファクトリー」を新設したが、このBEVファクトリープレジデントに登用されたのが、BYDとの合弁会社のCTO(最高技術責任者)としてBEV協業開発に携わった経験を買われた加藤武郎氏だ。こうした接近から、トヨタがいかにBYDのBEV技術力に敬意を持っているか、またBEVでの遅れの巻き返しに向けた力の入れようが分かるというものだ。

 一方、BYDは、すでに中国市場においては新エネルギー車のBEVとPHEVの合計販売でトップシェアを確保しており、現在は世界展開を積極的に進めている。すでにEVバスから先行してグローバル展開を進めている中で、昨年(22年)7月には、BEV乗用車で日本市場への参入を発表した。

 BYDは、日本市場開拓に向けてディーラーネットワーク(販売・サービス拠点網)の構築やブランド認知度向上に力を入れるため、新たにBYD Auto Japanを設立し、2025年末までに全国で100店舗以上を展開する計画を打ち出した。これまで47拠点の開業が決定する中で、すでにミドルサイズSUV型BEV「ATTO3(アットスリー)」を発売しており、今夏までに600台以上を販売している。また、6月には中国自動車メーカーとして初めて国土交通省の型式指定認証を取得し、補助金支給の対象となった。

 BYDはこの流れで、日本のBEVコンパクトカー市場に大きな刺激となりそうなBEV「DOLPHIN(ドルフィン)」をいよいよ9月20日から発売する。このドルフィンは、BYDのいわゆるBセグメント・スモールカーのサイズの “世界戦略車”として位置付けられている。

 日本では軽自動車EVの日産「サクラ」・三菱自「ekクロスEV」が昨年発売され話題を集めたが、このドルフィンは日本ローカル規格の軽EVとは一線を画したグローバル規模で展開する普及型BEVであり、果たして日本市場でどこまで受け入れられるのか、注目が集まる。

 筆者は、このドルフィンの発売・価格発表会を前に試乗会に参加してきた。

 日本仕様車は全長1770mm×全高1550mmで、ボディのサイズ的にはBセグとCセグの中間だが、機械式駐車場の日本事情に合わせてオリジナルより20mm低めたという。外観はドルフィンの名称からも分かる通り、イルカの躍動感を表現したもので、ボディサイドの前方に向かう矢印のようなキャラクターラインなどは、水面を跳ねながら泳ぐイルカをイメージしたものだそうだ。BYDは近年、欧州メーカーからカーデザイナーを招聘してデザイン重視の姿勢を打ち出しており、ドイツ車のデザインに近いものを感じさせる。

 また、日本市場向けとしての実用装備として、右ウインカーレバーの採用、チャデモ対応の充電口、誤発進抑制システムも搭載している。また、日本の社会問題に呼応した機能として幼児置き去り検知の機能を採用したことも特徴的だ。

 日本仕様のドルフィンは2グレード設定され、バッテリー容量44.9kWhで航続距離400km、モーター出力は70kWのスタンダードと、同58.56kWhで476km、出力は150kWを発揮するロングレンジが用意されている。筆者は、スタンダード版に乗り横浜市街地のホテルから横浜横須賀道路を経由し横須賀までの道のりを2時間ほどかけて往復したが、出足も鋭く高速道路での直進安定性も申し分なかった。

 BYDは、このコンパクトBEVドルフィンによる日本市場の攻略として、住宅事情を背景とした都市部でのコンパクトEV需要の取り込みや、地方で見込まれる2台目需要に応えることで拡大を図る方針だ(都市部では、23年度からEV充電設備補助金の増額や25年には東京都で新築マンションへのEV充電設備設置が義務化されるといった追い風がある。そのため、集合住宅などの機械式駐車場における全高制限をクリアするために、わざわざ全高を低くする仕様変更を行っている)。

 このため、日本においてはBYDの軽自動車EVへの対抗策が注目されるところで、特にその価格戦略が注目の的となっている。

 BYDは9月20日に「ドルフィン」の価格発表会を東京・大手町三井ホールで行い、同日から発売を開始する予定だ。ここで、スタンダードで300万円を切るかどうかが価格競争力を左右する一つの基準になるだろう(ちなみに今年3月にタイ・バンコクモーターショーで発表・発売されたドルフィンは79万9999バーツ、日本円換算では当時のレートで約306万円だったが、この価格設定はタイでも驚きの価格だった)。

 また、BYDは、このドルフィンに続く日本市場参入第3弾となるスポーティーEVセダン「SEAL(シール)」を23年下半期に投入する予定だ。この攻勢はしばらく続きそうだ。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)

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