ホンダWR-V・Z+/価格:CVT 248万9300円
WR-VはホンダのエントリーSUV。力強いスタイリング/広い室内/手ごろな価格が魅力。パワーユニットは1.5L(118ps)の純エンジン。ありそうでなかった素顔美人なキャラクターである。
内外装デザインのコンセプト
自信あふれる逞しさ
ホンダから、新型SUVが登場した。ZR-Vは、日本/タイ/インドの共同チームで開発、インドで生産して日本では輸入車として販売するフレッシュモデルだ。
ホンダにはヴェゼルやZR-Vといった中級モデルはあるものの、日本市場用エントリークラスSUVが不在だった。WR-Vはトヨタのヤリスクロスやライズ、そしてダイハツ・ロッキーなどをライバルとするフレンドリーなキャラクターの持ち主である。
ボディサイズは4325×1790×1650mm。ヴェゼル(4330×1790×1580mm)に近いが、見てのとおりスクエアな力強いフォルムとされている点が個性。内外装デザインのコンセプトは、「MUSCLE&CONFIDENT=自信あふれる逞しさ」である。
インパネは機能的。高めの着座位置からの視界はワイド。ナビ&オーディオはディーラーop。写真の9インチは21万2300円、他に8インチナビ(14万9600円)と8インチディスプレイオーディオ(9万7900円)を設定
室内は前後席とも余裕たっぷり。シートはクッション性と座り心地に優れた上質仕様。Z系はプライムスムースとファブリックのコンビ仕様が標準
ホンダWR-Vリアシート
ラゲッジスペースは大容量。写真は4名分のキャンプ用品を搭載した状態。スクエアで、しかも幅/奥行き/高さに余裕があるため後席を立てラゲッジボードを装着したままで積み込み可能。左の写真は4名分の荷物を並べたシーン。これほどの量が積めるのは驚き。リアゲートは手動式だが開閉操作は軽く扱いやすい。後席は6対4分割タイプ
ラインアップは、16インチスチールホイールを履くエントリーのX(209万8800円)と、17インチアルミやLEDフォグライトを装備する上級のZ(234万9600円)、そしてZに各部のデコレーションを加えたZ+(248万9300円)という3グレード構成。パワートレーンなどをシンプルに割り切ったことで、全車200万円台前半というリーズナブルな価格を実現した。装備は充実しており、ホンダセンシングをはじめ、フルLEDヘッドライト、ナビ装着用パッケージ、パドルシフトなどは全車に標準装備。価格は安いが、決して“我慢グルマ”ではない。
素直で気持ちのいいキャラクター
使い勝手に優れ、走りも意のまま
2024年3月の発売に先立ち、いち早くテストコースで試乗する機会を得た。内外装デザインはシンプルながら、質感の高さが印象的。中でもボディパネルのリアフェンダーあたりの処理はボリューム感たっぷり。最新設備のあるインドの工場でないと実現できなかったとのことで、たしかに凝った形状をしている。
インテリアは機能的で整然とまとめられている。サイドブレーキがレバー式という点を歓迎する声は、小さくなさそうだ。
プラットフォームは、前半分がフィット、後ろ半分はアジアで販売されている小型SUVという構成。センタータンクではなく、燃料タンクは後席下に配置。ただしフィットと前半フロアを共用しているため、前席下のふくらみは残っている。後席の居住性をはじめ車内空間はクラストップと呼べるほど広い。まさに余裕たっぷりだ。後席用のエアコン送風口を標準装備するなど、配慮も十分である。
その理由は、WR-Vは日本ではエントリークラスでも、生産国のインドではかなり高級な部類に属する戦略車だからだ。インドではショーファードリブンとしても使われる。そのため室内の広さ、とりわけ後席の快適性が重視されるのだ。
荷室も大容量。クーペライクなヴェゼルと比べると奥行きが長く、フロアは低く、天地方向の余裕もある。その広さをアピールするTVCMも印象的だ。試乗会場でも、実際に4人分のキャンプ用品がラクラク積み込める様子を実演してくれた。後席を立てたまま、こんなに!と思うほどの量を積んでもまだ余裕があることに驚いた。
手ごろな価格帯のSUV
走りの仕上がりも上々だった。ワインディングを模したコースを走ると、意のままに操れることに感心した。操舵に対して遅れなく回頭し、ステアリングを戻したときも揺り戻しなくキレイに収まる。ハイペースでも無駄な挙動は出にくく修正舵をあまり必要としない。SUVゆえ重心がそれなりに高いにもかかわらずだ。
乗り心地も良好である。路面の荒れた個所を通過しても衝撃は小さく、たっぷりストロークを確保した懐の深い足回りがしなやかに入力を受け流す。バネ下だけが動いてバネ上のボディを揺すらないのでフラットに保たれる。
WR-Vには、特別なデバイスは存在しない。ホンダお得意のアジャイルハンドリングシステムもなければ、電子制御ダンパーもない。もともとある技術を突き詰め、サスペンションのジオメトリーやチューニングを最適化したことで、高次元の走りを実現している。足回りには相当にこだわったことを開発関係者も強調していた。
エンジンも性能的に特筆すべきものはない。とはいえ素直な特性で乗りやすく、走っていて気持ちがいい。アクセルを踏み込んだときには車内にエンジン音が適度に響く。あえてそのようにしたとのことで、すでに販売されているインドでは、“ホンダサウンド”と好評だそうだ。
走りのよさには、リニアな加減速を実現したCVTも貢献している。ステップシフト制御によりシフトアップ時やシフトダウン時に、ドライバーの感性にあったシフトフィールを実現。CVTながら意のままにドライブしている実感が高い。
先進運転支援装備(ホンダセンシング)については、日本で生産される最新モデルと比べるとやや物足りない面もあるが、純正opのホンダアクセス用品でかなりカバーできる。
思えば、取り回しのいいサイズで広い室内を持ち、手ごろな価格帯のSUVは、あるようであまりなかったことに気づいた。WR-Vには、メカニズム的な先進性はない。しかしクルマ作りのプロが仕上げた基本性能のよさがある。運転して素直に楽しく、使って便利だと感じる。このようなクルマを待っていたユーザーは意外に多いのではないだろうか。魅力的な選択肢が現れたことを歓迎する。
(CAR and DRIVER編集部 報告/岡本幸一朗 写真/山上博也+HONDA)
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