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ホンダと日産「一瞬でシナジーが出せる」はずの分野とは?他社が証明済み!

ホンダと日産「一瞬でシナジーが出せる」はずの分野とは?他社が証明済み!

日産自動車の内田誠社長(左)とホンダの三部敏宏社長 Photo:JIJI

ホンダと日産自動車が協業の検討を始めるという。2社が連携する場合、最大かつ最速のシナジーが見込めそうな具体策は、何だろうか?(未来調達研究所 坂口孝則)

ホンダと日産が協業を検討

仲の良い雰囲気ではないが…

 ついに、と言うべきか。まさか、と言うべきか。ホンダと日産自動車が戦略的パートナーシップの検討を始めるというニュースが飛び込んできた。まだ検討段階にすぎないものの、これまでうわさ話や臆測レベルで語られていた両社の協業の可能性が、大いに進展したといえる。

 失礼な感想かもしれないが、ホンダの三部敏宏社長と日産の内田誠社長は、3月15日に行われた記者会見で、決して和気あいあいとした仲の良い雰囲気を感じさせなかった。しかし逆にいえば、この2社が連携に迫られる必然性や、生き残りを懸けた危機感を持っていることは十二分に感じさせたように思う。

 協業を検討する対象は、これまた予想されていた通り、電気自動車(EV)の分野だった。現在、日本の自動車業界は、トヨタ自動車グループ(子会社のダイハツ工業、資本関係のあるSUBARU、マツダ、スズキ)と“それ以外”(ホンダと日産)といえる。世界販売台数でトヨタ(・レクサス)が1030万台、ホンダが398万台、日産が337万台と、ホンダと日産はトヨタに大きく水をあけられている。トヨタグループではない2番手、3番手がEV分野での協業を検討するということは、日本の自動車業界が大きく2つの勢力に収斂していく兆しであることは間違いない。

 厳密ではないが、ざっくりこう考えると分かりやすい。日本では国民1人当たりの自動車保有台数が0.5台程度。日本全体の保有台数は約6000万台。そして日本では1台を13年ほど乗り続ける。6000万台を13年で割ると、500万台弱であり、日本における年間の新車販売台数とおおよそ合致する。要するに、日本には乗り換え需要以外は存在しない。

 そこに登場したのがEVだ。世界ではガソリン車やハイブリッド車(HV)から、EVへのシフトが進んでいる。日本では、EVは一過性のものであり結局はHVの方がもうかる、といった報道が根強い。私はそれを否定しないが、中長期的なEVのトレンドを打ち消すものでもないと思う。ホンダも日産も、迫り来るEV普及時代を先に見越して、協業の検討に踏み切ったはずだ。

2社の連携の最大の効果は

調達・購買分野にある

 米テスラや中国BYDといったEVの新興勢力が自動車市場を襲う時代背景もあって、多くの人が協業の実現可能性は高いと思っているだろう。私もその一人だ。

 この2社の連携の最大の効果は、ずばり調達分野にあるだろうと私は見ている。EVにシフトすることで、ガソリン車に比べて車を1台造るための部品点数は少なくなる。つまり、EV時代では少ない部品点数をいかに効率的に生産・アッセンブリするかが問われる。と同時に、その少ない調達品をいかに大量に安価に調達するかが主題になっていき、これまで以上に「規模の経済」がモノを言うようになる。

 対象はモーター、インバーター、ギアなどの機器。そして電池・バッテリーだ。日産はEV分野でホンダを先行している。しかし、バッテリーの調達を含むマネジメントではホンダに優位性がある。日産はバッテリーを中国CATLから調達しているが、同社のバッテリーは現在、テスラなどから強いニーズがある。バイイング・パワーを増やすためには、ホンダと日産の2社で調達数量をまとめることに大いに意味がある。

 こう書くと、日産が一方的にホンダに乗っかるように感じるかもしれない。しかし、そうではない。ホンダは、これまでずっと欧州でのビジネス展開に苦汁をなめてきた。一方の日産は仏ルノーと長年パートナーを組んでおり、欧州において当局とのコネクションや、商品販売後のリサイクル・廃棄物の回収ノウハウなどに、一朝一夕ではない優位性がある。

 ホンダの三部社長は「100年に一度と言われる自動車業界の変革期において、両社がこれまで培ってきた技術や知見の相乗効果により、業界のトップランナーとして自動車の新たな価値創造をリードする存在となり得るかの観点で、両社のパートナーシップの可能性を検討していきます」と述べている。ドイツでベンツやダイムラー、マイバッハら技術者がガソリン車を生み出してから140年近くが経過した今、自動車産業がもう一度、生まれ変わろうとしている。そんな大転換期においては、これまで市場で争っていた2社の歴史など、もはや忘却の対象となるだろう。

資本提携して共同調達すると

シナジー創出は早い

 ところで、固有名詞は伏せるが、聡明(そうめい)な読者には分かるかもしれない。以前、私がある欧州メーカーと資本提携した日本メーカーの購買部に話を聞いたときのことだ。その2社は共同購買会社を設立したのだが、幹部いわく、「資本提携して一番メリットがあったのが、この共同購買会社ですよ」。類似する部品や材料の価格表を交換したことが、最も役立ったという。

 協業を検討する中で、もちろん共同開発の選択肢もあるだろう。しかし共同開発とは往々にして進展が遅いものだ。一方、共同調達のシナジー創出は早い。価格表を交換すれば一瞬だ。この2社は「この部品をこんなに高額で調達しているのか?」「この材料をこんなに安価に調達できているのか?」などと、あきれたり驚いたりの感想を互いに抱いたという。

 そして両社とも、サプライヤーに交渉し、すぐに効果が出た。「提携先の○○社は○○円で調達しているから、ウチにも○○円で供給してくれませんか」などといって、もちろん全部が全部、すぐに下がったわけではない。ただ、少なくとも、強力なけん制球になった。それだけ、他社の調達価格レベルを知ることは大きな強みになる。

 繰り返すが、ホンダと日産の連携は、調達分野が命運を握るはずだ。ちなみに、テスラ創業者のイーロン・マスクも、執拗(しつよう)な調達管理を自ら告白している。

 最後に、2社の奮闘を祈りたい。ホンダはコーポレートキャッチフレーズが「The Power of Dreams」であり、日産は、「共に切り拓く、モビリティとその先へ」というスローガンを掲げている。まさに夢を持って協業を推進し、将来を切り拓いてほしい。

 やっちゃえ、両社。

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