トヨタ・アルファード・エグゼクティブラウンジ(FF)/価格: THS 850万円。アルファードは2.5Lハイブリッドと2.5Lガソリンを設定。価格レンジは540万~872万円。エクステリアは薄型形状のヘッドランプ下部にフロントグリルと意匠を統一したデイランプをレイアウト。キャラクターはジェントル志向。正統派の高級車 Photo by Hiroya Yamagami
4代目アルファード
3代目ヴェルファイアの実像
それにしても、20年あまり前に初代アルファードが誕生したころ、これほどの存在に成長するとは思いもしなかった。いつしか“トヨタの最高級ミニバン”を超えて、“大空間高級サルーン”となり、高価であるにもかかわらず驚くほどの売れ行きを見せてきたのはご存じのとおりだ。
8年ぶりにモデルチェンジした新型も人気は高く、販売現場が混乱するほどの受注状況になっている。すでに納車された幸運なユーザーを街中で見かけるようになってきた中、4代目アルファード/3代目ヴェルファイアの実像をお伝えしよう。
新型は、「快適な移動の幸せ」という壮大なコンセプトを追求している。このクルマを使うすべての人が相手を思いやり、感謝しあえる空間を目指したのだ。
ところでアルファードとヴェルファイアの関係を「“ライバル”として激しく闘い続けるだろう」と、発表会の場で執行役員のサイモン・ハンフリーズ氏は述べていた。氏が兄弟車ではなくライバルと表現したのは、走りの味付けが2台で明確に異なるからである。2台の個性を徹底的に際立たせたのは、歴代で初めてである。
トヨタ・ヴェルファイアZプレミア(FF)/価格:8SAT 655万円。ヴェルファイアは2.4Lターボと2.5Lハイブリッドを設定。 価格レンジは655万~892万円。エクステリアはダイナミックな印象。Zプレミアは各部漆黒メッキ仕上げ。足元には19インチタイヤ装着。キャラクターはスポーティさを追求したスペシャルモデル
ヴェルファイアは、旧型のモデル末期に販売比率が全体の5%を切るほどまでに落ち込んだ時期があった。新型ではアルファードと統合される予定だったという。ところが、統合の方針に社内で猛反発の声が上がる。そこで開発陣は、ヴェルファイアをアルファードとは別のキャラクターに仕立て直し存続を図った。ヤングアットハートなユーザーに向けて、「素直にカッコイイと思える意匠と、ドライビングプレッシャーを感じられる運動性能を付与した」と開発責任者の吉岡氏は説明する。
新型ヴェルファイアにはZプレミアのようなパワフルで走りに特化たグレードを設定し、ドライバーズモデルであることを明確にした。
一方で、両車のデザインの差はむしろ小さくなったように感じた。また、新旧を比べるとメッキの使用面積がだいぶ少なくなったのも意外に感じたポイントだ。
2台の違いについて説明しよう。ヴェルファイアは、足回りの専用チューニングをはじめ、19インチタイヤを標準で設定。フロントにパフォーマンスブレースを追加して、アクティブなユーザーが好む俊敏な操舵応答性と接地感を追求した。
さらにヴェルファイアには、2.4Lターボ(279ps/430Nm)が設定された。一方のアルファードは、これまでの路線を踏襲した内容に仕上がっていると思っていい。
トヨタ・アルファード・エグゼクティブラウンジ
骨格から鍛え上げた“源流主義”が光る
新型はプラットフォームを新たにTNGAのGA-Kをベースに開発。足回りをしっかりと動かすために、車体剛性を従来比で50%も引き上げるとともに、サスタワーやリアのホイールハウスなどの着力点についても剛性を30%向上させた。
床下にはブレースを追加し、アンダーボディに使った構造用接着剤は従来比で5倍もの長さになった。そして剛性を高めたいところと振動を吸収させたいところで硬さを使い分け、最適化を徹底した。タイヤはすべて新規開発。路面の入力に合わせて減衰力を変える周波数感応型ショックアブソーバーを大半のモデルに採用し、ロードノイズや乗り心地を向上させている。
ボディサイズは4995×1850×1935mm。堂々とした風格と取り回し性を両立
これらの成果は、乗ると明らかである。十分よくできていた従来型に対して、まったく“別物”といえるほどのレベルに仕上がっている。とくに従来比で約3分の1に低減することができたという振動の少なさは印象的だ。
トヨタ・アルファード・エグゼクティブラウンジインパネ
従来型の2列目シートで見受けられた微振動はかなり払拭されていた。これにはシートに新採用した防振構造や、2種類のパッドを適材適所で使い分けたことが効いている。
エグゼクティブラウンジの2列目シートの快適性は、やはり圧巻といえるレベルだった。満ち足りた気分にひたれて、もっと長く座っていたいと思った。
エグゼクティブラウンジはプレミアムナッパ本革シート
特等席の2列目はフル電動のオットマン付き。アレンジ自在。ファーストクラスのくつろぎが味わえる
3列目も広く快適
新たに設定されたスーパーロングオーバーヘッドコンソールは、視覚的に目を引くだけでなく機能的にも便利だ。乗降時にはユニバーサルステップが重宝する。
2台ともに快適さは超一流
そのうえでヴェルファイアはスポーティ!
アルファードはエグゼクティブラウンジの2WDとE-Four(ともに17インチタイヤ)を乗り比べた。走りは圧倒的に滑らか。高級サルーンとしてすべての人に愛されるに違いない完成度が印象的だった。
乗り心地はどちらも十分に快適な中にも、2WDはしっとりしなやか。E-Fourは重量増に対して足まわりが微妙に強化されているせいか、若干の硬さ感を感じたものの、足回りの味付けのよさと優れた前後バランスが効いて、フラット感においては微妙に上回るように思えた。ハンドリングは素直だった。操舵に対する応答遅れはなく、正確にイメージしたラインをトレースしていける。なんら物足りなさを感じることはない。
ヴェルファイアは、アルファードから乗り換えるとすぐに違いがわかる。タイヤは19インチ、専用チューニングされた足回りは、路面への感度が高く凹凸を感じやすくなっている。だが、決して不快というほどではない。接地感は高くステアリングにも手応えがあり、切ると俊敏に回頭する。反応はクイックすぎるほどではなく、挙動は乱れにくいので同乗者に不快な思いをさせる心配はない。
トヨタ・ヴェルファイアZプレミア
新型のスタイリングはダイナミックな雰囲気が漂う。とくにボディサイドの流れるようなラインとボリュームが印象的。高級車らしい格調とパーソナルで力強いイメージがバランスしている
トヨタ・ヴェルファイアZプレミアインパネ
後席は、多少のコツコツはあるが快適だ。むしろ振動の振幅が小さく、収束が早い点が好印象だった。ヴェルファイアは、乗り心地も操縦性も絶妙なさじ加減でスポーティさと乗り心地の両立が図られている。中でもZプレミアは足回りのチューニングと重量の違いによってか、よりアクティブな走りを楽しめるようになっていた。
ヴェルファイアの室内カラーはサンセットブラウン(写真)とブラックの2種。シートはプレミアムナッパレザー
Zプレミアの2列目はエグゼクティブパワーシート標準。一部機能はエグゼクティブラウンジとは異なる(メモリー機能/オットマンの伸縮機能省略など)
日常ユースで心地いいハイブリッド
2.4Lターボはパワフルで伸びの良さが印象的
パワートレーンは、両車とも2.5Lハイブリッドが新型のメインである。ハイブリッドは従来型にはなかった2WDが用意されたのがポイントだ。また、アルファードにはジェントルな2.5Lのガソリン車も用意されている。
ハイブリッドはエンジンとフロントモーターの出力が従来よりも大きく向上し、システム最高出力は197psから250psに向上、ハイパワー化のメリットで、なかなか力強いながらも、ジェントルにしつけられている。チューニングしだいで、もっと瞬発力を出せそうだが、あくまでも高級サルーンにふさわしく“控えめ”にしているようだ。
エンジンの停止~再始動は意識しないとわからないほどスムーズ。市街地を主体に使うなら、出足のアクセルレスポンスがリニアで力強く、扱いやすいハイブリッドに優位性を感じる。WLTCモード燃費は16.5~17.7km/Lと経済的だ。
ヴェルファイアのZプレミアに搭載される2.4Lターボは、279ps/430Nmとハイスペックだけあって、さらに力強い。クラウンRSなどでもすでにその高い性能は何度か味わっているが、車重2トン超の重量級ミニバンとの組み合わせでもパワーは申し分なく、速さを体感できる。踏み込むと伸びやかな吹き上がりを味わえるのが、このエンジンの醍醐味だ。
それでいて、あまり唐突に強い加速Gが生じるような特性とはされていない。たとえば欧州勢のダウンサイジングターボ車が、中間加速の盛り上がり感を強調するかのようにしているのと比べると、控えめな印象を受ける。最高級ミニバンとして、加速時に頭が揺すられて同乗者に不快な思いをさせないように、との配慮があっての味付けだろう。
ヴェルファイア・エグゼクティブラウンジ(FF)/価格:870万円(4WDは892万円) エグゼクティブラウンジは各部メッキ部分にガンメタとスモーク処理を施しアルファード比で引き締まった印象に仕上げた。アルミはZプレミアと別仕上げの19インチ
乗り心地とハンドリングは最上級。静粛性も驚くほどのレベル
2列目はVIPを招くのに最適な空間。セダンベースの高級車と比べ圧倒的な空間のゆとりが魅力的。快適性は欧州製フラッグシップを凌ぐレベルに到達している。乗車定員は7名
新型は静粛性についても申し分ない。中でもエグゼクティブラウンジは想像以上に静かで感心した。走行中でも1列目と3列目で無理なく話ができるほど会話明瞭度は高い。インフォテイメント系や先進運転支援装備についても最新の機能が満載されていることをお伝えしておこう。
新型の完成度は驚くほど高い。これなら皆がほしがるのも納得だし、購入した誰もが満足するだろう。ワールドワイドに通用する、最高級サルーン&ミニバンに新たなベンチマークが誕生した。
(CAR and DRIVER編集部 報告/岡本幸一郎 写真/山上博也)
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