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日産・ホンダ連合誕生で「業界再編」必至!サプライヤー、日仏連合…全てが激変する

日産・ホンダ連合誕生で「業界再編」必至!サプライヤー、日仏連合…全てが激変する

日産自動車の内田誠社長(左)とホンダの三部敏宏社長は15日、共同で提携に関する記者会見を行った Photo:Tomohiro Ohsumi/ Getty Images

ホンダと日産の電撃提携

トヨタ連合の対抗軸になるか

 日産自動車とホンダが3月15日、「自動車の電動化・知能化時代に向けた戦略的パートナーシップ」の検討を開始したことを発表した。同日午後に内田誠・日産社長と三部敏宏・ホンダ社長がそろって会見し、両社が提携の覚書を交わした背景や理由を説明する中で、2030年に向けてEV(電気自動車)や車載ソフト分野でトップランナーとなるべく、ウィンウィンの連合を組むことを両社トップが合意したことを明らかにした。

「日産とホンダの連合結成」。今回は、両社が電動化・知能化分野での戦略的パートナーシップの検討を開始する覚書を締結したということだが、筆者が両社トップの会見に出席して質疑応答まで見届けた感想は、「この連合は、新時代で競争軸が変化する中での生き残りを懸けて、連合結成を急ぐ必要があったために生まれたものなのだろう」というものであった。

 三部ホンダ社長と内田日産社長の発言に共通していたのは、自動車産業の大転換期における新興勢力の攻勢への危機感だった。両社は提携によるメリットを早く生かし、持続的成長に結び付けようという狙いがある。

 今回の提携は、3月13日夜にテレビ東京の「WBS(ワールドビジネスサテライト)」が「日産がホンダとの協業検討を開始することを12日の取締役会で決めた」とのスクープを打ったのが初報だった。そして、一気呵成(かせい)の提携検討の覚書締結と両社トップの会見に流れていった。

 会見では、「1月中旬に両社の話し合いから始まり、まずはフルオープンにして具体的な議論を進めることになった」(三部ホンダ社長)、「課題認識は共有、思いも共有し、具現化するために時間はあまりない。スピード感を持って進める」(内田日産社長)という発言があった。まさに新興勢力が台頭する中で、スピード感を相当意識している証左といえる。

 いずれにしても、この日産・ホンダ新連合の行方次第では、自動車産業の新たな合従連衡につながることになるだろう。

 日産は長きにわたる仏ルノーとの資本関係を見直したばかりだが、傘下の三菱自動車を含めた3社連合と新たなホンダ提携とをどうかみ合わせるのか、ホンダも米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携関係がある中で、日産との新提携をどう整合させるか、という点で解消すべき課題を抱えている。

 一方で、日本の自動車産業という観点からは、トヨタ自動車がグループ化を強め資本提携を行っているスズキ・マツダ・SUBARU・ダイハツ工業らのメーカー連合に対して、日産・三菱自・ホンダの新連合が対抗軸となり、2陣営に集約されることになるのか、ということも注目のポイントだ。

 資本提携については両社トップとも「現時点ではない」としながらも、将来の可能性を含ませるような発言を示している。その点では、20年にホンダ・日産の統合の話が一時流れたことが思い出される。

 これは、英紙フィナンシャル・タイムズが「19年末に政府関係者がホンダと日産に経営統合を打診した」と報じられたものだ。

 当時は日産が業績悪化と経営陣の混乱という経営的に厳しい状況に陥り、立て直しに向けて内田社長が就任した直後であった。一方のホンダも、八郷隆弘前社長時代の四輪事業の構造改革が迫られていたタイミングであり、当時、王者トヨタに対抗するためにも日産・ホンダ統合へ経済産業省が水面下で動いた、との見方で受け止められた。しかし、両社は断ったとされる。

 あれから4年が経過する中で、電動技術やソフト領域に価値がシフトする新自動車時代へのスピードは速まり、取り巻く環境も変化している。海外のテック企業や米テスラ、中国BYDを筆頭とする新興勢力の攻勢が本格的な脅威となってきている。

 かつてのホンダ・日産統合の話は、どちらかといえば日産の救済のためという側面があったようだが、今回の提携は意義が大きく変化した。

「2030年の断面で見て、両社の強みを生かしたスケールメリットによりトップランナーでいたい」(三部ホンダ社長)、「5年先を見据えて待ったなし。われわれがグローバルで持続的成長をするために何をやるべきかだ」(内田日産社長)という両首脳の発言からも明らかな通り、新連合の狙いは両社の強みを持ち合い、幅広い協業の可能性の中、新たな価値を生み出していくという“同等”の立場での提携推進となる。

 とはいえ、15日の内田・三部両首脳による会見は、あくまでも協業検討で合意しただけで、具体的な中身は何もなかった。会見後の両トップ撮影で握手するポーズもなかったという光景が、両社の関係構築がこれからであることを物語っている。

 もちろん、スピード感を重視した結果、発表会見時点では具体的な提携内容が後回しになったという面もあったかもしれない。

「詳細な検討はこれから。両社ウィンウィンの関係が成り立つことが条件」(三部ホンダ社長)、「具体的なワーキンググループに落とし込んで、両社の成長につながる方向へ極力、短期内で進める」(内田日産社長)と、両首脳は発言している。それでも、その主なターゲットがEVの中核駆動部品のイーアクスルや電池、車載ソフトなどで、協業化による生産コスト削減を念頭に置いていることは確かなはずだ。

 それでは、この日産・ホンダ連合の成否はどうだろうか。

 やはり最も気になるのが、日産はルノーとのアライアンス関係を両立させることができるのか、という点だ。昨年11月、1999年のルノーとの資本提携以来の資本関係(ルノーが日産に43%出資)を、双方が15%出資する形で見直しするとともに、日産はルノーのEV新会社「アンペア」への出資を決めていた。同様に、日産傘下にある三菱自もアンペアへの出資を決定していた。

 だが、ルノーは予定していたアンペアの上場を見送った。ルノーのEV新会社に垂れ込める暗雲が、今回のホンダとのEV協業を深めることに作用するのか、という点が注目だ。また、日産は24年度から新中期経営計画を進めることになっており、19年12月に就任した内田体制の最終段階として成果を強調すべく、どのようにこの中期計画にホンダとの提携を織り込んでいくか、ということも注視しなければならない。

 一方で、三菱自の出方も注目される。16年に日産から34%出資を受け入れて傘下となり、ルノー・日産グループ入りしたが、その後、三菱自は業績も回復し、三菱商事をバックとする新たな方向づくりも模索しているとみられている。

 今回の日産・ホンダの会見で、内田日産社長は「三菱自もホンダとの可能性を論議していく」と連携を示唆した。

 三菱自がこの提携にどう対応していくかが今後の焦点になるが、実は三菱自とホンダには、それこそ過去に統合・合併が水面下で動いた因縁がある。

 90年代前半に、当時業績悪化で経営危機に陥ったホンダに対し、「日産の背中が見えた」と豪語したトップがいたほど絶好調だったのが三菱自だ。その時、両社のメインバンクであった三菱銀行が仕掛けたのが三菱自とホンダの統合・合併だった。

 当時のホンダのトップは「三菱自とは社風も、ものづくりも全然違う。融和するわけがない」と突っぱねた。幸いにして、直後にホンダは「オデッセイ」が大ヒットして救世主となり、この話は立ち消えになった。

 それから30年余りを経て今回の日産・ホンダ連合への動きに三菱自がどう対応していくのか注目されているのだから面白い。なお、4月1日付で三菱自が日産の山口武常務執行役員を開発担当の代表執行役副社長として迎えることを発表しているが、この人事も気になる動きだ。

自前主義から大きく転換するも

GMとのEV提携は不調気味

 ホンダの観点から今回の動きを見ると、ポイントはやはり三部社長の行動力とリーダーシップだろう。

 三部ホンダ体制になってから、ホンダはこれまでの「自主自立路線」から、生き残るためには積極的なアライアンスも辞さないスタンスへ大きく経営方針を変えた。

 21年4月の社長就任時に自ら「乱世に強いタイプ。逆風の時代こそ夢がある」と語った三部体制も4月で4年目を迎える。この間、二輪事業に「おんぶに抱っこ」といわれた四輪事業の収益力向上に注力する中で、EV関連ではGMとの提携強化やソニーグループとのEV共同開発など、注目の提携を連発してきた。

 しかし、だからといって必ずしも安泰とはいえない。GMと量販価格帯のEVを共同開発し27年に発売する予定だったが、ここへきて中止を発表しているほか、ソニーと共同開発するEV「アフィーラ」はエンタメEVであり、そもそも量産効果を企図したものではない。

 このため「ホンダと親和性の高い日産と技術的なアプローチを共通にすることで投下資本を大きく効率化できる」と考えたことが、日産との協業を後押しした要因だろう。

 日産とホンダの包括提携の動きは、両社の取引先部品メーカーの再編や技術統合の促進で、サプライチェーン全体の収益力向上が図れるかどうかも焦点となる。

 その意味では、元々日産の主力取引先であった日立Astemo(アステモ)の経営をいまはホンダが握っていることに筆者は注目している。日立アステモの源流は日立製作所の旧自動車部品事業部門であり、かつてはルノー提携前の日産が芙蓉グループの中で「トヨタのデンソーに対抗できる日産系主力部品メーカーにしたい」と位置付けていたこともある。

 それが21年1月に、日立の完全子会社の日立オートモティブシステムズとホンダ系のケーヒン、ショーワ、日信工業3社が統合して「日立アステモ」が発足したが、これを主導したのが、系列部品メーカー再編を狙ったホンダであった。「本来、日産系の主力サプライヤーであった日立の自動車部品事業にホンダが触手を伸ばした」と、業界の関心を集めた。

 23年10月には、ホンダが日立アステモの出資比率を40%に引き上げるとともにホンダ元副社長の竹内弘平氏を社長に送り込むなど関与を強めている。日立アステモは、EV駆動部品の軸とされるイーアクスルを主力としており、当然、日産も今なお取引先だ。

 それ故、この日立アステモを巡る一連の再編が、今回の日産・ホンダの協業化への布石となったとも受け止められるのだ。

 日産・ホンダの新連合。その行方は予断を許さない。ただ、両社は、世界最大の自動車市場でありEV大国として産業をリードする中国と、EV偏重にやや風向きが変わってきている北米市場を共に大きな収益源としており、課題意識も重なるはずだ。

 果たして、自動車業界における王者トヨタ連合への対抗軸となり得るのか。日産・ホンダ新連合が、従来の自動車産業の枠を超えたフロントランナーとなってリードしていくことを期待したい。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)

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