就任8年目の片山正則社長は、これまで提携戦略を巧みに使い分ける“したたかな”戦略でいすゞの経営体制を盤石にしてきた Photo:JIJI
いすゞが旗艦車をフルモデルチェンジ
満を持してEVを投入
久々に大型の新車発表会を行ったのは、商用車メーカーのいすゞ自動車だった。いすゞは7日、パシフィコ横浜で「いすゞワールドプレミア2023」と銘打って、新小型トラック「エルフ」と新中型トラック「フォワード」を発表した。
いすゞは会見で、この大変革期における生き残りを懸けて、いすゞとしての新企業理念とともに、カーボンニュートラル実現への積極施策を進めることを前面に打ち出した。
その象徴が「満を持してのエルフのBEV(バッテリーEV)の発表」(片山正則社長)だった。いすゞのエルフは「小型トラックの代名詞」とも言われるほど小型トラック市場をリードしている。いすゞの「ドル箱」的存在だ。
今回、エルフは17年ぶり、フォワードは16年ぶりのフルモデルチェンジとなる。いすゞの新企業メッセージである「選べる自由、それが『運ぶ』の未来」のコンセプトの下、開発を進めた。
注目を集めたのがエルフEVだ。
いすゞの片山社長は「エルフEVは、3年間のモニター実走を経て今回の発売に至った」と、力の入れようを明かす。また、今回のBEVトラックの市場導入に合わせ、カーボンニュートラル実現に向けたトータルソリューションプログラムである「EVision」サービスも開始した。
一方で、「社会インフラであるトラックの脱炭素化には、世界各地のエネルギー事情や社会インフラ、資源問題などの課題があり(BEVなどに)収れんするには時間がかかる。BEVの性能・コストも含めて、FCEVやCNG(天然ガス自動車)、ディーゼルにも対応していく必要がある」と、多様なパワートレインの選択肢を用意することの重要性を示した。
いすゞの片山社長は2015年6月に就任し、まもなく8年が経過するが、この間、積極的なアライアンス(提携)路線を進めてきた。まずは、20年にスウェーデンのボルボグループと戦略提携を締結、さらに19年には米エンジン大手のカミンズと包括的パートナーシップを締結した。また、20年にホンダと燃料電池を用いたFCVの大型商用車の共同研究で提携。21年には、一度資本提携を解消(06年~18年)していたトヨタ自動車と、資本・業務提携を復活した。
このように、片山いすゞ体制は多様なアライアンスパートナーの活用という、したたかな経営戦略を進めてきたと言える。かつては「自動車御三家」に数えられた名門いすゞだが、長期にわたり資本提携をしてきた米GMが経営破綻したことで、同社との提携を解消してからここ数年、商用車メーカーとして生き残るために積極施策を打ち出してきたのが特徴的だ。
その中で、いすゞにとって“追い風”となったのが、ライバルでありながら企業としての設立が同根で、バス事業で連携(ジェイ・バス)している日野自動車が、排ガス・燃費不正で国内出荷停止という事態に陥ったことだ。
いすゞは昨年、国内普通トラック市場で首位に立った。また、業績面でも好調であり、22年4~12月期に売上高と全ての利益項目で過去最高を更新、売上高・営業利益ともに前年同期を3割以上上回った。特にタイのピックアップトラックの販売は4割増を示している。一方の日野が今通期550億円の赤字見通しで4~12月期で特別損失284億円を計上する厳しい状況なのと対照的だ。
片山社長は日野に触れて「日野さんは大変だろうが、いすゞとしてはこの大変革期に生き残りを懸けて、いすゞグループとして新企業理念の下でしっかりやっていく」と語った。
トヨタのトップ交代発表に続き、スバルも中村知美社長から6月に大崎篤次期社長への交代が発表されるなど、自動車業界でトップ交代が相次ぐ。いすゞとしても、多様なアライアンスで強固な“いすゞグループ”を形成しつつある中で、8年が経過する片山いすゞ体制は総仕上げの段階に差し掛かったといえよう。
(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)