キャリア

ニュース

パーソナルファイナンス

ビジネス

経済

自動車

テスラを猛追するBYDのSEAL、完成度は高いが道半ば「チグハグ走行」で我慢が必要な面も【試乗記】

テスラを猛追するbydのseal、完成度は高いが道半ば「チグハグ走行」で我慢が必要な面も【試乗記】

BYD SEAL 価格:未定 Photo by Shinya Yamamoto

BEVはテスラと世界トップの座を競う新進気鋭のメーカー。日本ではATTO3/ドルフィンに続く第3のBEV、SEALの発売が近い。新型はクーペフォルムのスポーツセダン。いち早く走りを体感した。

2024年に投入

中国でSEALに試乗

 BYDは2022年7月に日本の乗用車参入を発表して以降、BEVのATTO3とドルフィンを発売。JMSでは、第3弾のSEAL(シール)を2024年に投入する計画を発表した。ひと足先に中国でSEALに試乗してきたので報告しよう。

 まずBYDについて解説しておこう。1995年にバッテリーメーカーとして起業した会社で、本社は中国のシリコンバレーと呼ばれる中国南部・広東省深セン市に構える。BYDは携帯電話向けのリチウムイオン電池事業を手がけ、確固たる足場を築いた。2003年に小規模な自動車メーカーを買収し自動車業界へと参入。当初は日本車のコピーのようなクルマも多かったが、短期間で独自性を備えたモデルを開発・投入。高い評価を得た。

 その結果、2022年の乗用BEV販売台数は前年比2.8倍の91万台を記録。2023年の7~9月のBEVの販売台数は43万1603台と1位のテスラとの差はわずか3456台にすぎない。現在は中国に限らず、グローバルでビジネスを展開中である。ちなみに日本市場ではBEVのみの販売だが、グローバルではPHEVも発売しており、その比率は現在5対5だという。

テスラを猛追するbydのseal、完成度は高いが道半ば「チグハグ走行」で我慢が必要な面も【試乗記】

BYD・SEAL

テスラを猛追するbydのseal、完成度は高いが道半ば「チグハグ走行」で我慢が必要な面も【試乗記】

BYD SEAL(シール)。SEALはBEVスポーツセダン。本国ではPHEVも設定されるが、日本仕様はBEVのみ。ツインモーター4WDとシングルモーター2WDをラインアップする。システム出力はそれぞれ 390kW/230kW。一充電当たりの航続距離と 0→100km/h加速データは4WDが575km/3.8秒、2WDは640km/5.4秒

テスラを猛追するbydのseal、完成度は高いが道半ば「チグハグ走行」で我慢が必要な面も【試乗記】

インテリアはドライバー正面に小型のフル液晶メーター、センターに回転式の大型ディスプレイを配置。高めに設定されたコンソールが適度なスポーティフィールを演出する。走りは滑らかで速い。だがハイスピード領域では挙動の一体感がやや不足している印象を受けた

テスラを猛追するbydのseal、完成度は高いが道半ば「チグハグ走行」で我慢が必要な面も【試乗記】

シ ートは本革標準。前席はヒーター&ベンチレーション機能付き。後席スペースは余裕たっぷり

テスラを猛追するbydのseal、完成度は高いが道半ば「チグハグ走行」で我慢が必要な面も【試乗記】

BYD・SEALリアシート

テスラを猛追するbydのseal、完成度は高いが道半ば「チグハグ走行」で我慢が必要な面も【試乗記】

フロントには充電ケーブルやメンテナンス用品の収納に便利なリッド付きスペースを設定。SEALの作りは丁寧で、各部はきれいにカバーリングされている

テスラを猛追するbydのseal、完成度は高いが道半ば「チグハグ走行」で我慢が必要な面も【試乗記】

ハイデッキの利点でトランクは大容量

車名は“アザラシ”の意味

システム出力390kWの2モーター車に試乗

 SEALの試乗会に選ばれた場所は珠海(Zhuhai、チューハイ)国際サーキット。コース長4.3kmでコーナー数は14、典型的なストップ&ゴー・レイアウトである。一般的にBEVの試乗は公道が主だが、サーキットを選択したのはBYDの自信の表れだろう。

 いつものように見た目チェックから。ATTO3/ドルフィンはクロスオーバーモデルだが、SEALはセダンタイプ。グリルレスのフロントマスク、4ドアクーペシルエットのサイド、そしてシンプルなリアと、オーソドックなプロポーションながら先進性を感じさせる。スタイリングは、元アウディのデザイナーによるものだ。なお、SEALとはアザラシを意味するが、フロントマスクの表情には何となくそんな印象も!?

 全長×全幅×全高4800×1875×1460mmのボディサイズは日産スカイラインに近い。

 インテリアは運転席前に小型のフル液晶メーター、センターにBYDの特徴である回転式の大型ディスプレイを備える。高めに設定されたセンターコンソールによりコクピット感覚が強くスポーティな印象がある。2910mmのロングホイールベースを活かし室内空間は見た目以上に広い。とくに後席の足元スペースはワンクラス上のサルーンに匹敵する。

 パワートレーンはシングルモーター(後輪駆動)、ツインモーター(4WD)、そしてPHEV(日本導入なし)をラインアップ。今回の試乗車はツインモーターのハイパフォーマンスモデルで、フロント160kW/リア230kWのモーターを搭載、システム出力は390kW/650Nmを誇る。バッテリーはブレイドバッテリー(リン酸鉄リチウムイオン)で容量は82.5Wh、航続距離はWLTP値で575kmである。

 シャシーはBYD最新のeプラットフォーム3.0を使用。バッテリーセルを車体構造の一部として使うセル・トゥ・ボディを新採用し、モジュールやパックを省略する手法で車両重量は2185㎏とバッテリー容量を考えれば軽量だ。サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン式、リアはマルチリンク式を採用。タイヤは235/45R19サイズのコンチネンタルECOコンタクト6Qを履く。

 まず、クルマの基本性能を確かめるためにゆっくり走る。アクセル操作に対する反応のよさはいうまでもないが、加速の立ち上がりは意外と緩やかでジェントル。微細なコントロールもしやすい。続いてアクセルを全開にしてみると、ハイパフォーマンス系EV特有の脳天揺さぶる怒涛の加速……と思いきや、実際は“加速感は少ないが速い”だった。おそらく、時間あたりの加速度と変化率(=躍度)が上手にコントロールされているのだろう。0→100km/hデータは3.8秒と公表されている。ドライブモードはECO/ノーマル/スポーツの3種。加速レスポンスではなく最大トルクが異なる設定だ。

 フットワークはボディ剛性をはじめとする基本性能が非常に高い。だが気になる点もある。そのひとつがコーナリング時の一連の流れの連続性。速度を上げると穏やかなステアリング系なのにコーナリング時のクルマの動きは想像以上に機敏とチグハグなのだ。

ちょっと昔の

欧州フォードやオペルの乗り味に近い

 よくいえば曲がりやすさを演出したセッティングといえるが、スポーツセダンを名乗るからにはもう少し一体感がほしい。タイヤもシステム出力に対してパフォーマンス不足で、コーナー進入時にノーズがなかなかインを向かず、“我慢”と“待ち”のドライビングだった。これはタイヤの変更、もしくは駆動力制御の活用で解決できるだろう。

 乗り心地は常用域では少々突き上げを感じるものの、速度が上がるにつれてしなやかさが増す。ちょっと昔の欧州フォードやオペルの乗り味に近い。話を聞くと、欧州のエンジニアリング会社が開発に参画しているという。

 現時点のSEALには、ハードとしての完成度は高いがクルマとしての完成度は志半ば……といった印象を受けた。少々厳しい評価だが、おそらく「最高の技術を盛り込めば、必ずいいクルマに仕上がるはず」という技術屋集団的な考えが強いのではないだろうか。数値に表れにくい感性領域へのこだわりは老舗自動車メーカーと比べると差があるように感じた。ただ、彼らがその重要性に気づき始めたら、グッと完成度が高まるに違いない。アジアパシフィック地域担当の劉氏は、「BYDの強みは、市場の動向をいち早くとらえて製品をアップデートしていくこと」と語っている。日本での価格は未発表だが、間違いなく戦略的なプライスを掲げてくるはずだ。

(CAR and DRIVER編集部 報告/山本シンヤ 写真/山本シンヤ+BYD)

テスラを猛追するbydのseal、完成度は高いが道半ば「チグハグ走行」で我慢が必要な面も【試乗記】

CAR and Driverロゴ

TOP STORIES

発見・体験、日本旅行に関する記事
Top List in the World