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東武鉄道の新型特急「スペーシアX」試乗で見えた“進化”とは?【写真付き】

東武鉄道の新型特急「スペーシアx」試乗で見えた“進化”とは?【写真付き】

浅草駅に進入するスペーシアXと改装中の5番線ホーム(左側)(写真は全て筆者撮影)

東武鉄道の新型特急車両N100系「スペーシアX」が7月15日から運行開始する。100年近い歴史を持つ日光・鬼怒川行き特急は東武のフラッグシップであり、1960年に登場した1720系「DRC(デラックスロマンスカー)」、1990年に登場した100系「スペーシア」を受け継ぐ存在だ。これら偉大な先達に続くスペーシアXが、その資格をもった車両になったのか。6月6日に行われた試乗会に参加し、確かめてきた。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

鉄道各社の新型特急車両が

相次ぎデビュー

 ここ数年、鉄道各社の新型特急車両が相次いでデビューしている。2019年3月に西武鉄道は新型特急001系「Laview」、2020年3月には近畿日本鉄道が80000系「ひのとり」、JR東日本がE261系「サフィール踊り子」の運行を開始した。

 これらはいずれも1990年前後にデビューした旧型車両を置き換えるもので、旧型車両がバブル期に設計、製造された革新的な内外装の車両だったことから、新型車両はさらに質感を高めた個性的なものとなった。

 そうした中、新たに名乗りを上げたのが東武鉄道の新型特急車両N100系「スペーシアX」だ。100年近い歴史を持つ日光・鬼怒川行き特急は東武のフラッグシップであり、1960年に登場した1720系「DRC(デラックスロマンスカー)」、1990年に登場した100系「スペーシア」を受け継ぐ存在だ。

 DRCは広いシートピッチのフットレスト付きリクライニングシートを備え、サロンルームやビュッフェまで設置された豪華車両でありながら、最高速度時速110キロ運転が可能で、国鉄日光線との激しい争いを制した名車であった。

 現行のスペーシアは、ベージュ色の車体に無骨なフロントフェイスが古臭さを感じさせていたDRCに代わり、白い流線形の車体にオレンジのラインが印象的な近代的な車両として人気を博した。

 バブル最盛期の車両だけあって、銀座東武ホテルを手掛けたデザイナーが担当した内装は高級感と落ち着きがある。スピーカー内蔵の大型ヘッドレスト(現在は廃止)とフットレストを備えた肉厚なシートとJRのグリーン車並みの居住性を持っており、さらに私鉄初となるコンパートメント(個室)が設けられた。

 これら偉大な先達に続くスペーシアXが、その資格をもった車両になったのか、東武が6月6日に行った試乗会に参加して確かめてきた。

運転士目線で旅を楽しめる

個室とラウンジ

 試乗会は浅草駅を10時30分に発車し、東武日光駅に12時21分に到着する列車内で行われた(試乗会では4番線から乗車したが、運行開始後は現在改装工事中の5番線が専用ホームになる)。発表済みの運行ダイヤとは異なるが、所要時間はほぼ同等だ。試乗会は6、7日と2日間にわけて行われたが、6日だけで40社70人が参加したことからも、期待の高さがうかがえる。

 スペーシアX最大の特徴は多様な座席設定だ。スペーシアが普通車(264席)と4人乗りコンパートメント(6室)の2種類(計288席)だったのに対し、スペーシアXはスタンダードシート(130席)、プレミアムシート(35席)、4人席のコンパートメント(4室)、2人席のボックスシート(4室)、コックピットスイート(最大7人)、コックピットラウンジ(20席)の6種類(計212席)を備える。

 この中でも目玉は両先頭車両の運転席の後ろに設けられた、運転士目線で旅を楽しむことができるコックピットスイートとコックピットラウンジだ。

東武鉄道の新型特急「スペーシアx」試乗で見えた“進化”とは?【写真付き】

コックピットスイート

 浅草方に配置されたスイートはプライベートジェットをイメージした個室で、固定されていないソファーを自由に動かしながら7人がゆったりと過ごすことができる。料金は利用者分の特急料金に加えて1万2180円。

 一方、東武日光方に配置されたラウンジは、1人、2人、4人用の座席があり、特急料金に加え、1人当たり200円の追加で利用できる。またラウンジ内のカフェカウンターでは、日光で作られたビールやコーヒー、おつまみやスイーツなどを提供。基本的にはラウンジ利用者向けサービスだが、他の座席利用者もスマホからオンライン整理券を取得し、記載の時間内にカフェに行けば購入できる。

東武鉄道の新型特急「スペーシアx」試乗で見えた“進化”とは?【写真付き】

コックピットラウンジとカフェカウンター

 浅草方をスイート、東武日光方をラウンジとしたのは、スペーシアのコンパートメントが浅草方にあった(浅草駅の構造上、改札から最も近い車両に設定したものと思われる)のを踏襲したのと、ラウンジを流れる景色を見ながら楽しめる空間にするため、日光に向かう列車の先頭になるように配置したと東武は説明する。

 こうした特別席は最高級の位置付けで、それなりの料金を徴収するのが相場だが、スイートはともかく、ラウンジはプレミアムシートよりも安価で、誰でも気軽に利用できるようにしたのは英断と言える(もっとも競争率は相当高くなりそうだが)。

スタンダードシートは座り心地十分

プレミアムシートで気になる「足元」

 最も利用機会が多いであろうスタンダードシートとプレミアムシートについても触れておこう。スタンダードシートは2+2の4列シートで、シートピッチは現行スペーシアと同じ1100mmを確保。観光特急らしく1列あたり1つの窓が配置され、座席背面テーブルとインアームテーブル、コンセントを備える。

東武鉄道の新型特急「スペーシアx」試乗で見えた“進化”とは?【写真付き】

スタンダードシート(座席間のひじ掛けを収納した状態)

 グレーのシートはシンプルな形状に見えるが、リクライニングは座面が連動してスライドし、座り心地は十分。また車両の性格上、そのような用途は少ないとは思うが、背面テーブルはこれまでの車両以上にしっかりとしておりパソコンを操作しても揺れにくい。

 プレミアムシートは2+1の3列シートで、シートピッチは1200mm。現行スペーシアにも似た大きなヘッドレストを備えたシートは、より深く座面が連動する電動リクライニングで、読書灯を内蔵。またバックシェル構造のため後席に遠慮する必要がない。

東武鉄道の新型特急「スペーシアx」試乗で見えた“進化”とは?【写真付き】

プレミアムシート(最大リクライニング状態)

 ただ一点気になるのは足元だ。現行スペーシアは全ての普通席に反転式フットレストがあったが、東武は2017年にデビューした500系「Revaty(リバティ)」以降、足元の空間を広く使うためフットレストを設置していない。

 フットレストについては使う人、使わない人で分かれるため、スタンダードシートでは省略してもよいだろうが、浅草~東武日光間でプラス580円のプレミアムシートについては、電動リクライニングに連動したレッグレストが欲しかった。近鉄特急のプレミアムシートはプラス600円(同距離換算)でレッグレストを備えていることを踏まえても、ややインパクトに欠ける。

 深くリクライニングしてリラックスしながら移動するというより、車窓を眺めながら旅のワクワク感を味わう車両であり、コンセプトと異なるという考え方もあるだろうが、スタンダードシートの出来がいいだけに、もう一段の差別化が欲しかった。

 ところでスタンダードシート、プレミアムシートとも低反発性のクッションで、体をちょうどよく受け止め、非常に座り心地が良い。ただ東武に聞くとこれまでと特に材質は変えていないそうで、フレームなのか表面素材なのかは不明だが、個人的には近鉄プレミアムシートのやや滑りがちな本革張りシートより収まりがいいと感じた。

現行スペーシアと大きく異なる車両を

東武が導入した最大の理由

 6種類の座席をそろえる観光専用車両は鉄道業界広しといえども、プレミアムシートと3種類の個室、カフェラウンジを備える近鉄の50000系「しまかぜ」と、普通車とグリーン車、コンパートメント、グリーン個室、寝台などを備えるJR西日本の117系「WEST EXPRESS銀河」くらいだろう。

 そのため(将来的には分からないが)スペーシアXは4編成の投入で、通勤ライナー運用もある現行スペーシア(9編成)の全てを置き換えるわけではない。当面は現行スペーシアとリバティを用いた「きぬ」「けごん」は存続しつつ、観光需要が大きい時間帯、曜日に観光専用車両のスペーシアXが運用に入る。

 ではなぜ、性格が大きく異なる車両の導入に至ったのだろうか。東武は、最大の理由は旅行スタイルの変化にあると説明する。DRCがデビューした60年代はもちろん、スペーシアが登場した90年代でも団体で一緒に行動する旅行スタイルは根強く、コンパートメント以外は同じ仕様の座席として定員を増やさなければならなかった。

 しかし、現在の旅行スタイルは国籍、年齢、性別、目的、乗車駅もさまざま。フラッグシップとしての存在感を持ちながら、多様なニーズに応えつつ収益を最大化する車両が必要とされた。

 ダイヤも時代とともに変化している。DRC時代は浅草~東武日光を最短1時間41分、ノンストップで運転する列車が設定されていたが、80年代後半以降、停車駅が徐々に追加され、1997年に北千住駅、2001年に春日部駅、2003年に栃木駅、新鹿沼駅に全列車が停車するようになった。

 この間、1992年に最高速度が時速120キロに引き上げられたにもかかわらず、所要時間はDRC時代より遅い約1時間50分で落ち着き、スペーシアXも同様となる。これは列車の使命が、浅草に集合した団体客を最速で日光に運ぶことから、各駅からの利用者を細かく拾うことへと変わったことを意味しており、加えてスペーシアXは車両に乗り込んだ瞬間から日光を感じる空間とすることで、移動時間も旅の一部として盛り上げる役割も担うことになる。

 新たな観光特急を、利用者はどのように受け止めるのか。7月15日の運行開始が待ち遠しい。

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