マツダ・ロードスターSレザーパッケージ Photo by Akihiko Kokubo
KPCのよさをより強調する走りを実現しているのが
特別仕様車の990S
ロードスター(ND型)、2015年の登場ながら、最近になって新車を購入した友人が何人もいるほど、ぜんぜん古さを感じない。デビューから7年経過したクルマがなぜ注目を集めるのだろう。それは2021年末に現行ND型の歴史において注目すべき動きがあったことも大きい。
ND型は登場時からロールが大きいことがたびたび指摘されていた。マツダは、それも“人馬一体の走り”のひとつとアピールしてきたのだが、内心ではもっとよくしたいと考えていたようだ。
KPCの恩恵は小さくない。実際にドライブすると確実にリファインを実感する。フロントの動きは依然として大きいものの、持ち前の素直に動く感触を損なわないままロールが減り、ハンドリングの精度感が高まっている。
KPCのよさをより強調する走りを実現しているのが、特別仕様車の990Sだ。
数字が示すのが車両重量であることは、ロードスター・ファンでなくても想像がつくだろう。990Sはロードスター最軽量車。公表値が同じ990kgのSグレードよりも実際にはわずかに軽いのだという。
現在の販売主力モデル
990SはSをベースに、リム幅を6.5Jから7Jへと拡大しながら4輪で3.2kgの軽量化を実現したレイズ製ホイールと、ローター径を14インチから15インチに拡大し、さらにキャリパーを軽量化したブレンボ製ブレーキを装備。バネ下重量の軽減を図った。サスペンションはスプリングを強化しつつダンパーの減衰特性をマイルドにしている。これに合わせて1.5Lエンジン(132ps/152Nm)も、より小気味よく走れる設定に見直された。
Sと990Sを乗り比べると、思ったよりも違いがあって驚く。まず、ND型全般に見受けられた、ステアリングとタイヤの間で何か挟んでいるような感覚が払拭された。1stロードスター(NA型)をドライブしたときに感じたダイレクト感が蘇っている。ホイールのリム幅拡大も効いて、グリップ感も高い。乗り味には全体的にフラット感があり、ブレーキング時のピッチングも小さくなった。さらにコーナリング時にフロント内輪が浮き上がる感覚も薄れている。スタビライザーがなくても、ここまで仕上げたことに驚いた。
ベース車との価格差は20万円あまり。ロードスター・ファンの間で評判が評判を呼んで、発売以降990Sの販売比率が圧倒的に高くなっているというのも納得だ。
一方、懐の深い足まわりで動きも素直なSスペシャルパッケージをはじめ標準モデルのまとまりのよさもあらためて見直した。とにかくKPCの採用を大いに歓迎したい。
エンジンについては、2018年の改良時に劇的に改善された。このとき、日本仕様ではRFのみに搭載される2Lユニットのほうが進化幅が大きく、ソフトトップが搭載する1.5Lエンジンは、あまり話題にならなかった。だが数値的な向上代は、最高出力で1ps、最大トルクは2Nmと微々たるものだが、ドライブすると明らかに違う。7500rpmまで振動もなくスムーズに回るようになった。今回もドライブして、あらためてそのよさを確認した。パワーはそこそこだが、よく回り、小気味よく走る。
乗るたびに、スポーツカーは素晴らしいと
実感する傑作
ND型は、利便性にもかなり配慮している。乗るたびに感心することがいろいろある。限られたサイズとFRスポーツならではの2シーターレイアウトの中で、これ以上は考えられないくらいのことをやっている。
座ったまま開閉できるソフトトップや風の巻き込みを抑えるためのアイデアをはじめ、車内各所に収納スペースをなんとかひねり出して設定した。ドリンクホルダーは着脱式。日常的な使い勝手は高水準にある。トランクも制約の多々ある中、これ以上は無理というほど広い(とくに天地方向の深さ)。
ただし、右ハンドル仕様のドライビングポジションについては注文がある。可能な限り後方に搭載されたエンジンやトランスミッションの影響で脚の角度がどうにも不自然になる。左足の置き場も落ち着かない。左ハンドルで乗れる国をうらやむしかない。
ロードスターは次期型の情報も聞こえてこず、当面はND型で現役続行と思われる。それを歓迎したくなるほど、まったく古さを感じない。乗るたびに、スポーツカーは素晴らしいと実感する傑作だ。
(CAR and DRIVER編集部 報告/岡本幸一郎 写真/小久保昭彦)