三菱「デリカミニ」。手前はキャンプグッズメーカーのコールマンとのコラボ車。東京オートサロン2023にて Photo by Kenji Momota
日本市場の約4割を占める軽自動車。生活車としてだけではなく、オフロードを楽しむモデルが最近、続々と登場している。東京オートサロン2023での現地取材を基に、最新の軽市場の状況を紹介したい。(ジャーナリスト 桃田健史)
EVシフトとアウトドア系がキーワード
日常生活での利便性、電池性能アップで人気に
最近、軽自動車市場での新しい動きとして「EV(電気自動車)シフト」と「アウトドア系モデル」に世間の注目が集まっている。
まず、EVシフトについては、2022年5月に登場した日産自動車「サクラ」と三菱自動車「eKクロスEV」が軽自動車として初めて日本カー・オブ・ザ・イヤーに輝くなど、両モデルの販売が好調だ。
その理由としては、軽ユーザーにとっての日常生活での利用条件、現時点でのリチウムイオン電池の性能、そしてコストのバランスを考慮した商品性がユーザーに高く評価されたことが挙げられるだろう。さらに、国や地方自治体等による次世代車向けの購入補助金が合計で100万円ほどに及ぶ場合もあるなど、ユーザーにとって実質的な大幅割引になっている影響も当然大きいといえる。
軽EVについては、軽市場のベストセラー「N-BOX」を擁するホンダが24年に軽商用EVを100万円台で導入することを明らかにしており、その後の乗用軽EVを適宜導入すると説明している。
一方、ダイハツは22年11月にリチウムイオン電池業界で世界最大の供給量を誇る中国CATLと戦略的協力に関する覚書を交わした。ダイハツ関係者によると、軽EVの今後の可能性については、東京モータショー改め23年10月開催予定の「JAPAN MOBILITY SHOW 2023で見ていただけたら…」と、軽EVに関する出展をにおわせた。
軽EVについてスズキは「社会インフラなど、社会全体での受け入れ態勢を整えることが先決」という以前からの慎重な姿勢を崩していないが、軽メーカー各社の動きを見ながら、インドでのEV生産のノウハウを日本市場での軽EV向けに有効に活用することになるのではないだろうか。
新たなる伸びシロ
アウトドア系は高付加価値商品
話を、アウトドア系モデルに移す。
軽自動車でのアウトドア系といえば、ラダーフレームを採用する本格的な四輪駆動車であるスズキ「ジムニー」が長らく市場をけん引してきた。
現行の4代目モデルが2018年に発売されてからコロナ禍前まで、需要増によって納期の長期化が慢性化するほどの大人気車となったことは記憶に新しい。
ジムニーは、森林開発・警備・警察関連車両など働くクルマとして、降雪地帯でのいわゆる“生活四駆”として、またハードなオフロード走行を楽しむ愛好家向けとして70年代から根強い人気があったが、4代目からはさらにアウトドアをイメージするファッショナブルなギア(ツール)といった需要が拡大したと、スズキは分析している。
また、AUTO EXPO 2023では、インド向けとして日本では「ジムニーシエラ」と呼ばれる登録車で待望の5ドアモデルが世界初公開されて、日本でも大きな話題となっている。現時点で、スズキは同5ドア車の日本導入について明らかにしていないが、日本のユーザーからのラブコールを受けて、日本導入の可能性は当然あるだろう。時期としては、コロナ禍の影響での3ドアモデルの長納期問題がある程度解決した時点が考えられる。
その他、スズキのアウトドア系のファッションギアといえば、「ハスラー」が成功事例だ。初代ハスラーの発表会で、当時の鈴木修会長は「全国のスズキ販売店を巡ると、ジムニーよりも身近なコンパクト軽SUVを造ってほしいという声を数多く聞いた」として自らハスラーの開発を指示したと語っている。
筆者は10年代後半から、こうした案件について三菱やダイハツと情報交換してきた中で、「市場動向を踏まえて検討中」という回答にとどまってきた。
それがコロナ禍になり、キャンピングカーや車中泊がブームになったことにより、三菱やダイハツの軽アウトドア系の受け皿として、軽ミニバン的な発想が優先されるようになった。
具体的には、ダイハツの商用軽「アトレー」、乗用軽「タント ファンクロス」、スズキの商用軽「スペーシア ベース」、そして三菱の乗用軽「デリカミニ」が量産されるに至った。
ダイハツ「アトレー」のコンセプトモデル。ルーフ部分は取り外してレスキュー用のボードになる。東京オートサロン2023にて Photo by K.M.
スズキ「スペーシア ベース」。展示した各パーツは、販売店で購入可能なオプション用品。東京オートサロン2023にて Photo by K.M.
スズキの広告活動を行う、ももいろクローバーZがコーディネートした「スペーシア ベース」のインテリア。東京オートサロン2023にて Photo by K.M.
デリカミニのターゲットユーザーとは?
直近で注目度が高いのは、1月13~15日に開催された東京オートサロン2023での実車初公開と同時に販売店での受注開始となった「デリカミニ」(冒頭の写真)だ。正式デビューは23年5月だ。
三菱自動車の関係者によると、「ターゲットユーザーは、キャンプやアウトドアユーザーに根強い人気のあるデリカD:5が欲しいと思ってきたが、ボディサイズやゴツゴツした見た目、そして価格等の面で“ちょっと近寄りがたい”と感じてきたヤングファミリー層」と言う。
そのため、外観はデリカD:5をイメージするような雰囲気を持たせながらも、インテリアでは撥水加工やハンズフリーで足を動かす操作などで開閉可能なスライドドアなど、三菱のスーパーハイトワゴンとしての使い勝手の訴求を改めて目指した。
四輪駆動については、開発のベース車である「eKクロススペース」で採用している、いわゆるオンデマンド方式システムを継承した。その上で、ダートなどの砂利道でのテスト走行で乗り心地が良く走りやすい足回りを作り込んだ。具体的にはショックアブソーバーの新設計と15インチの外径を大きくしている。
商品企画段階では、よりハードなオフロード走行性能を実現するための四輪駆動システムなども検討したが、商品としての大前提が他社でいえば「N-BOX」や「タント」であり、そうしたターゲットユーザーにとって、走りの使いやすさを最優先することになったということだ。
このように、軽市場では今、母数の多いファミリー層向けのアウトドア系モデルという“新たなる伸びシロ”がはっきりと見えてきたといえるだろう。
ここに、スーパーハイトワゴン系での保有台数が最も多い「N-BOX」のフルモデル期が迫る中、次期「N-BOX」でもアウトドアを連想される車系が登場することが大いに期待される。
現時点で、そうした新しい車系については、あくまでもうわさが優先している状況で、ホンダ周辺から詳細な情報は漏れてこない。
今後も引き続き、軽市場の行方をじっくりとウオッチしていきたい。